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特別劇評論 平田オリザ作・演出の「東京ノート」を観て

特別劇評論 平田オリザ作・演出の「東京ノート」を観て

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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特別劇評論 平田オリザ作・演出の「東京ノート」を観て

 

この劇は近未来。2025年、欧州に再び戦雲がかかっている時代、日本の美術館のロビーに集まった男女が、欧州から緊急に避難してきている絵画を楽しみながら、自分たちの様々な問題を語る。

 

面白いのは、その劇の舞台が、上野公園の東京都美術館の講堂ロビーを使っていることだ。本物の美術館のロビーが舞台となっている。

 

ロビーに並んでいるフラットなソファーデッキの何列が舞台であるが、その舞台の背景に(美術館の)階段があり、階段を上がった向こうは約30メートルほどは、実際の美術館のショップや講堂などの受付までのフロアが見通せる。

 

舞台で語られる内容は、今、私たちが抱えている問題そのものだ。年老いた両親の問題、夫婦の危機、恋人たちの話、遺産の問題などが語られる。

 

現実の美術館のロビーを使っていることで、出演者たちが、舞台の横のエレベーターから出てきたり、観客席の右側のトイレに行ったり、縦横無尽に動くが、一つも不自然さがない。

 

どきっとしたのは、舞台の後ろの階段を上ったロビーの向こうから、ゆっくりと歩いてくる出演者たちだ。舞台の向こうの階段の上のロビーは、30メートルほどの広さだ。ゆっくりと歩いてくるのが出演者であるとは、とても思えないほどに、リアリティを感じるのだ。途中から、出演者にふっと変わるのかと気になり、目の端っこに置きながら、目の前のロビーの会話の進行に耳を傾ける。どちらも見逃せない。

 

ロビーの向こうから出演者たちが、ゆっくりと歩いてきて、舞台ロビーの会話に加わっていく。その助走時間の長いこと。舞台ロビーから、階段を上って、向こうにあるいていくのも、いつまでも見える。そこでどんな話をしているのかを考えてしまう。どんな大劇場でも、これだけの奥深い舞台を持たない。非常に珍しい設定だ。

 

これはすごいと思った。今までたくさんの劇を観たが、あくまで舞台は切り取られた空間だったが、舞台が階段上の広いロビーに、オープンになっている。語らない通行人の参加者や親子がいるのを観ると、まったく違和感を感じなかった。舞台を私が歩いていっても、溶け込めただろう。最高の場所で公演される劇だ。

 

「東京ノート」は、平田オリザの傑作!これは観ておく値打ちがある。

一つ私が失敗したのは、この劇を観るまえに、美術館を午後に回っておけばよかったのだ。            

               樋口健夫(平成24年7月16日)

 

「東京ノート」東京都美術館にて、2012715日から、25日まで(ただし、20()23日(月)はお休み。受付開始 19:00、開演19:30 

入場料 4000円 全席自由席 チケット扱い 青年団 03-3469-9107

http://www.seinendan.org (オンライン販売あり)

美術館のミュージアムショップでも買える。