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飛行機のタラップで逮捕される  一回目

飛行機のタラップで逮捕される  一回目

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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飛行機珍体験集 その3 
飛行機のタラップで逮捕 一回目
 1971年に三井物産に入社した。
私はどこでも良いから早く海外に出たかった。本社にいるのは、正直言って、好きではなかった。
 私は生まれて育ったのが商人だったから、お客様と向き合うのが私の信条だった。本社で会議に出ているのは辛かった。だから、機会があるごとに、「早く、どこでも構わないので、海外に行かせて欲しい」と言い続けていた。

 学生時代から付き合っていた彼女と早く結婚しようとした。時間のある内に、急ぎ結婚しておこうと考えた。入社2年目、京都で式を挙げた。自慢じゃないが、当時は全然お金がなかった。入社2年目では、給料も非常に低かった。

 新婚旅行に行くのも、金が無いから、ツケで航空券を入手して、帰国後、月賦払いをしていたほどだ。新婚旅行の行った先が、韓国だった。

 私は学生時代から、韓国と日本はもっともっと協力し、協調を取るべき関係であると思っていた。今も変わらない。とはいえ、当時の韓国は朴正煕(パクチョンヒ)軍事独裁政権で、夜中12時からは外出禁止の戒厳令が出ていた。日本から新婚旅行に行く人はほとんどなかっただろう。

 大阪空港から、釜山には、日本航空で到着した。今のように搭乗口に直結ではなく、タラップで飛行機から降りて建物まで歩くが、私が先に降りた後、ヨメサンが、タラップの上から、私の写真を記念に撮影した。

 その途端、私たち二人は逮捕された。痩せた2人の韓国人のオジサンが走ってきて、私とヨメサンに、
「写真撮ったでしょう。こっちに来なさい」と、腕を掴まれて、空港の事務所に連行された。日本語は、完璧だったが、詰問調子の憲兵の言葉みたいだった。
 私たち二人は、椅子に座らされた。

「空港では写真は禁止です」
「知りませんでした」私も、ヨメサンも震えあがっていた。
カメラとパスポートを渡したら、オジサンは、非常に怖い顔をして、
「あなたたち二人は、名前が違いますね。どのような関係ですか」
「昨日、結婚したところで...、パスポートの名前は変更できませんでした」
「えっ、それでは、新婚旅行ですか」
「そうです」
 その途端、一人の怖いおじさんの顔が変わった。大きく笑った。

「新婚旅行に来られたんだ」もう一人の怖いおじさんに、「日本から新婚旅行だって!」
「そうなんだ。素晴らしい。日本からねえ。新婚旅行なんだ」と、二人ともニコニコして、私たちのパスポートをさっと返してきて、
「ウエルカム。良く来たねえ。だけど、申し訳ないが、カメラのフィルムは規則で没収しますよ」と、別人のようにニコニコ顔だった。
「ええ、どうぞ、どうぞ」と、早くこの取り調べ室から出たかった。フィルムは抜き取られた。伊丹空港から乗ったが、その時の記念写真程度で、枚数的には、たいして撮影はしていなかった。

 私服の警官は、パスポートコントロールまで付き合ってくれて、全部、私たちの代わりに済ませてくれ、荷物も助けてくれた。
 私たち二人は、空港の外のタクシーに乗って、ホテルに向かったが、ヨメサンが震えて、私の腕を掴んで、
「私怖い。日本に帰りたい」と、ボヤいていたのをおぼえている。よほど、怖かったのだろう。今じゃ、想像もできないほどの怯え方だった。

 韓国一周の新婚旅行は、素晴らしかった。他には何も問題なかった。最初に花嫁が怯えたので、ニヤついた私の腕にすがって、頼りっぱなしというおまけが付いた。

教訓 今も、韓国の空港は写真撮影は禁止されている。間違って叱られる日本人観光客や新婚はたくさんいるのではないか。空港での撮影が禁止されている国はたくさんある。

ナイジェリアのラゴスの空港のラウンジで、搭乗を待っている間に、目の前の英国人の旅行者が最新のニコンの一眼レフカメラを持っていた。
「最新モデルですね」と声を掛けた。
「そうです」と、言って彼が私にカメラを見せてくれて、私がファインダーを覗いた途端、私と英国人はナイジェリア人の公安に逮捕され、カメラの中のフィルムを抜かれた。