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iBooks Authorリリース。良質な教科書制作ツール=良質なコンテンツ制作ツール

iBooks Authorリリース。良質な教科書制作ツール=良質なコンテンツ制作ツール

生内 洋平

EGGPLANT楽団主催 株式会社デザインバンク代表 & アート・ディレクター 株式会社アニー・デザインオフィス アートディレクター ジャンルの垣根なく、仕事活動中。二娘のパパ。音楽は家族。デザイン・アート人生の相棒。創り続ける目的は自分と関連あまたの豊かさ創りです。

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またまたシリーズの途中だけど、ずいぶんホットな話題が入って来た。

Appleが19日のイベントで教育関係のリリースを行う、と予告した内容は、「iBooks Author」だった。
ごく簡単に言うと、iPad、iPhone向けにリリースされている「iBooks」に向けてアプリケーションを開発できる、と言うものだ。(Android向け等のコンテンツオーサリングや販売インフラへのコネクションは一切用意されていない)
名目としては、教育関係のリリースだと事前に発表していた事もあり、「デジタル教科書作成ツール」としての位置づけだ。
しかし、純粋な子どもたちの多感な興味をどう引き、勉強に熱中させていくか、という教科書にとっての命題にAppleが出した答えは、すばらしい電子書籍作成ツールだった。
考えてみれば「教科書」は未来ある子どもたちにとって、最高のツールでなくてはならない。
良質な教科書の作成ツール = 良質なコンテンツ作成ツール
と言う図式が成り立つのも自然なことなのである。
リリースされたと言う事で早速使ってみたが、その使い味があまりにも良かったので、感動と勢いがあるうちにレビューしてみたい。
何せ勢いで書いているので、間違いがあったら是非ご指摘を!

基本的には見開き(iPadで言えばランドスケープレイアウト)でのレイアウトを中心に作成し、ポートレイトレイアウトも次いで作成していく(あるいは自動で作成させる)、と言った感じで作業は進んでいく。
使用感は上々で、iWorkのPagesを使っている人であれば特に違和感もなく使えるだろう。
ベテランのDTPデザイナーでInDesignを使っている人も、相当厳密にレイアウトにこだわったりしなければ、およそやりたい事が実現できるだろうという印象だ。
使用感の詳細は、言葉で語るよりも、公式のプロモーション動画を見る方が良い。


英語圏の動画だが、動きを見ているだけでもわかるだろう。

画像等のリッチメディアにも幅広く対応

また扱う事ができるメディアも幅広く、いわゆるマルチメディアコンテンツはほとんど扱える。Mac OS X がネイティブで扱えるフォーマットはほとんど全て網羅しているような状態だ。
埋め込めるメディア
  • 写真(jpg、pngなど)は通常通り埋め込む他、ページ内スライドショー体に埋め込める。
  • 音声(AAC audio [.m4a])
  • 動画(H.264 video [.m4v])
  • 3Dコンテンツ(ソニー・コンピュータエンタテインメントの3Dファイルフォーマット「COLLADA」をサポート)

縦組には対応しない?

私が弄った今日の段階では文章の縦組に対応するような機能は見つけられなかった。
しかしこれは良く考えれば今までの日本の雑誌特有の右開き(縦組)左開き(横組)といった仕組みに引っ張られる事無く、よりシンプルにコンテンツを展開できる、そういう意味では非常にアップルらしい機能の絞り込みとも言える。

出版業界に呆れ果ててしまっているコンテンツ制作者にとっては朗報以外の何者でもない

日本をはじめ、出版社やレーベルなどの既得利権を離したがらない時代遅れの販売網を行使している連中(ある意味当然の動きと言えるが)に呆れ果ててしまっているコンテンツ制作者はジャンル(音楽・小説・映像・写真・絵画等、全てだ)を問わず朗報だ。
iBooks Authorと同時に発表されたiBooks 2.0は大幅に改良されており、デモ画像を見る限り写真家のポートレイト集から映像作家のショートムービーに至るまで、コンテンツが2GBに収まりさえすればどんなものでもエレガントに見せる事ができるだけの表現力を持つ。業界で標準化が進んだpngフォーマットのおかげで表現力も多彩だ。
そうした表現力を、専門的な知識を要さずにここまで直感的に扱えるようになったと言うのは素晴らしい事だ。もはやiPad向けの作品作りにプログラマ(か、もしくはAdobe publishing ToolやWoodwingなどの高価なオーサリングツール)が必要だった短期ながら不毛な時期はもう過ぎた。少なくとも販売がiBooks Storeに限られる事を除けば、機能的な遜色など無いに等しいからだ。

アップルとしては、なかなか進まない出版社との販売スタイル交渉に飽き、「だったらコンテンツ制作者が気軽に売り出せるようにしてしまえば良い」と考えてのリリースだろう。特にその状況が顕著に酷かった日本のモノ作り業界には(【追記】Apple iBookStoreにもGizmodeが示すように「注意! iBooks Authorで作成・出版した本はAppleの独占販売になる!」というような強引さは見られるが)大きな影響を与える可能性が充分にありそうだ。
そしてこの動きは何年か(もしくは半年くらいで?)遅れてAndroidをはじめとした様々なプラットフォームへ広がっていくだろう。Googleが同じような制作ツールを無償で提供し始めたからと言って異論を唱えるような人間はいないはずだからだ。

僕は数年前、電子書籍時代の基本フォーマットはPDFになるだろうと踏んでいた。
本のフォーマットとして十分な表現力があるし、何より手軽なこのファイルフォーマットは電子コンテンツとして普及するのに十分なポテンシャル(当時は動画も埋め込める仕様だと唱っていた)を持っていると感じていたからだ。動画等のリッチなメディアはまた電子書籍とは別の枠組みで普及していくものだと思っていたからだ。
しかし前述の高価な電子パブリッシングツールや、このiBooks Authorを見ていると、もはや電子書籍は単なる本ではない、と感じる。
また、前述の高価なパブリッシングツールでは、そういったメディアの取り扱いはできる事はできたものの、その扱いやすさはiBooks Authorが群を抜いている。高価なパブリッシングツールはInDesignを基軸においており、基本的には組版ソフトでありながら電子書籍のコンテンツも扱える、といった、素人に使いこなせるようなものでは到底無かったし、(写真以外の)デジタルメディアの取り扱いもいまいちな部分が多かったのだ。
iBooksはWordに毛が生えたようなもの(と言うには毛が生えすぎてるかもしれないが)でありながら、高機能で直感的だ。

そういった状況を見ても、少なくともアップルをはじめとしたデジタル業界は「電子書籍」を「既存の、もしくはそれを超えた様々なコンテンツを楽しめるプラットフォーム」と捉えているようだ。
今シリーズを書いているクラウドの話にも関連するが、長年ちぐはぐな関係を続けてきたブロードバンドとIT端末がようやく息が合ってきて、デジタル業界がずっと思い描いてきたプラットフォームが、少しずつ僕たちの方へ歩み寄ってきている。

僕にとってもeBook(電子本)という概念を、もう一度捉え直すきっかけなったのは確かだ。

日本のApp Storeではまだ販売はできないようです。