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つぶさに観察する。(イノベーションと温故知新)

つぶさに観察する。(イノベーションと温故知新)

石井 力重

アイデアプラント 代表。著書に『アイデア・スイッチ』。専門領域は「創造工学」。クリエイティブ・リーダを助ける道具を作っています。

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本格的に時間のかかる、しかし、成果レベルの高い発想法「つぶさに観察をする」をご紹介します。素晴らしいプロダクトデザインをされる2つの企業が同音異句に言っています。 

IDEO社(アイデオ)

アメリカにあるプロダクトデザインを行う会社で、その経営姿勢は夢中で楽しみながら突き抜けたレベルで仕事を遂行していくようなスタイルです。『発想する会社』という本でその会社のプロダクトデザインを生み出すための発想過程が紹介されています。 

その本の一節に、『観察する』ことが言及されています。現場に行き見ること。対象物が使われている様子をとてもつぶさに観察せよ。といった趣旨のことが述べられています。そのケースでは、そのときに医療器具の新デザインを提案するにいたりました。けっして専門ではない分野。でもその現場で本質を見てきた結果、彼らはとても機能性の向上した新デザインを生み出しました。 

G社(日本の某プロダクトデザイン企業)

洗練された商品開発と特許取得をされてきた企業です。その方が数年前、公開セミナーで、こうお話されていました。

「(すでにこの業界では10年前の技法ですが)特許化する技術を開発するには、ライバル企業の特許をザーッとつぶさに見ていくことです。」

相手の企業がやったことを今更見ても、、、と思うなかれ、とのこと。他の企業が出願した特許をずーっと見ていくと、着想がわいてくるそうです。どんなにたくさんの特許がとられていたとしても、そうして先行者の技術をつぶさに観察していくことで、新しい発想がうまれてくる。 

IDEOでは、対象物を製品とその運用現場としていましたが、G社では、対象物を取り巻く特許技術情報を対象としてつぶさに観察せよ、といっています。 

つぶさに観察していく。というのは地道な作業です。新しいことを生み出そういう人が、今更ながらのモノやコトをみるという、ある意味逆の流れを進むことであり、普通は無意識的な抵抗感があるかもしれません。でも、既知のことをつぶさに見ていくことが新しいことを生む、という一側面があるというのは、なんともアイデア・発明の妙であるとおもいます。 

孔子の言葉に「温故知新」という言葉があります。「子曰く、故きを温ねて(たずねて)、新しきを知れば、以って師と為るべし」この言葉には人間社会に関する非常に深い洞察があるのだと思います。20世紀には、特許の膨大な分析をしてそこから発明という行為を構造的な知として研究がされ、ついに発明の方法として生み出されたTRIZ理論があります。ロシアで生まれてアメリカにわたり近年では、アジア諸国にも普及しつつある膨大な知識ベースですが、その思想の根底には、孔子の「温故知新」と同じ、人間と人間が織り成す社会への本質的な洞察があるのかも知れません。 

歴史を学ぶ・先人に学ぶ、ということがいつの時代においても尊重される部分がありますが、そういったことも関係があるのかもしれません。


追記
筆者のつぶやき

筆者は、新しいもの好きの傾向を強く持っていて、古いもの、既存のものに、やや色あせた感じのフィルターで見ていることを自覚しています。それでも気に入ったものはずっと使い続けているので、古い何かをいろいろともっていたりもしますが。

そういう筆者にとっても、時々、はっとする新鮮な物事を、古いものの中に見出します。例えば、実家に帰ってみたときに、子供の頃にたくさんな集めていた「ゲームブック」。1ページ単位で選択肢があって、ストーリーを読むなかで、「きみは、このときどちらへすすむ。右ならP117ページ、左ならP31ページ」といった分岐があります。今の若い世代の人は見たことが無いかもしれませんが、私が子供の頃はありふれたコンテンツでした。今これを見て、電子書籍のコンテンツに最も向いている構造のひとつだなぁとおもいました。当時のゲームブック市場は一定の熟成と飽和をへて収束していくわけですが、その最後のほうに出版されたものに盛り込まれていた工夫は、アイデアとしてすばらしいものがありました。ご興味をもたれた方は、古本屋でいくつか見てみてください。その中から拾い出す本の構造のアイデアは、おもしろい電子書籍を作るヒントがわんさとあるでしょう。


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筆者のリンクあれこれ

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