「どうして来ないんだー！」

午前中の便で届く予定なのに、午後になっても、注文しておいた入れ歯がまだ届きません。

 

患者さんは約束した時間通りに来院して待っています。

時計を見る。

遅い。

何をやっているんだ？

もう一度電話で確認してみよう。発注番号を読み上げ、荷物の追跡を依頼。

 

「そうですか。昨日完成して、すでに担当者に引き渡しているんですね」

大至急、配達途中の営業担当者に連絡してくれるように頼みます。

しばらく待たされた後、当院の荷物を持ったまま移動中だという連絡が入りました。

 

と、そこまでは判明したものの、困ったことにはっきりした到着時間がわかりません。

どうやら営業の途中で予想以上に時間がかかってしまったらしく、慌ててこちらに向かっているようです。

 

歯科医は入れ歯の型を取ります。

そして細かい指示書を添えて歯科技工士に発注します。

入れ歯の加工は一ミリの何十分の一という細かな精度が要求される、まさに職人ワザの世界。

 

それなりの訓練を積んだ専門家でも納得のいく入れ歯を作るのは難しいものです。

そういった事情があるので、やり直しともなると、入れ歯は医院と歯科技工所の間を行ったり来たり。

完成までにまたよけいに数日かかってしまうこともあります。

 

自分で作れないだろうか？

「私でも出来そうだなぁ」

目の前でクイッ、クイッ、と曲げられていく一本のワイヤー。

かなり微妙な角度でも自由自在。

 

プロの技工士は仕上げまで手を休めることもなく淡々と作業を進めて一気に完成させてしまいます。

手際がいい。

それだけに、こうして見ているととても簡単な作業に思えます。

比較的単純な構造のものなら、完成までに要する時間はほんの五分程度でしょうか。