やはり数ですね。

やがて全体のコツが見えてくるようになります。

その頃になるとワイヤーを指に突き刺す回数も減ってきます。

おかげさまで今では思い通りの形が自在に作れるようになりました。

 

自分なりのノウハウもできて、ワイヤークラスプを作るのを「楽しむ」ようになっています。

成活習慣で「楽しむ」はとても大事。

楽しいから作り続けています。

今では父の診療している患者さんの入れ歯も、ほとんど私が作っています。

 

気が付けばＷさんの技術が少しずつ私に移植されていたのです。

Ｗさんに改めてお礼を言うとにっこり微笑みながら、ぼそっと一言。

「弟子ができたみたいで楽しかったよ。ありがとう」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はまぶたから熱いものがあふれそうになるのを必死でこらえました。　

感謝の気持ちがこみ上げてきたのです。

ひとつずつ丁寧に指導してくれたから......。

Ｗさんとの出会いがあったからこそ、私はこの技術を覚えることができたのです。

 

もう患者さんを待たせることもありません。

ひとりひとりの健康な歯の状態を確認しながら、最も適した部分入れ歯を、私が自分の手で作ることができるのです。

患者さんのうれしそうな笑顔を見るたびにＷさんに「感謝」の気持ちが湧いてきます。

 

普通は技工士が歯科医に技術を教えるなどということはありません。

お互いにプライドがあるからでしょうか。

Ｗさんのような技工士は本当に稀有な存在です。

これからも人のご縁を大切にしていこうと思いました。

 

こうして金属のクワガタ虫を量産することもなくなりました。

あなたの大切な入れ歯は私が責任を持って作ります。

この技術のおかげで入れ歯の修理は全て半日でできるようになりました。