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陸の孤島で、少女ハイジに救われる

陸の孤島で、少女ハイジに救われる

中山 順司

スキナヒト製作所 所長。

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夜中の11時頃、ようやく全寮制の学校に到着しました。空港からたっぷり50kmは走ったでしょうか。敷地内の街灯はまばらで、学校の全体像はイメージできません。走ってきた道を振り返っても、あるのは真っ暗闇だけ。ハンパない陸の孤島であることは間違いなさそうです。

いきなり寮の部屋に連れていかれるのかと身構えていると、中年男性は「お茶でも飲んでいきなさい」と声をかけてくれ、敷地内にある彼の住居らしきところに案内してくれました。

薄暗いキッチンでコーヒーを受けとり、食卓に腰を下ろします。これからの生活の見通しが見えず、不安で押しつぶされそうな気持ちのまま、黙ってコーヒーをすすっていると、彼の奥さんと5歳くらいの娘さんが現れました。

「この二人も、父親似で不機嫌なのか?」

と、反射的に身を堅くしましたが、二人は父親とは正反対に、満面の笑みで近づいてきました。

おそらく、奥さんは世界中の様々な国と地域からやってくる留学生の扱いに慣れていたのだと思います。私のつたない英語力をすぐに察知し、平易な単語でゆっくりと話しかけ、私の言葉にもウンウンと耳を傾けてくれました。おかげで、私も落ち着きを取り戻すことができました。

また、ハイジという名の少女は黄色い肌の突然の外国人来訪者を怖がることもなく、じゃれるようにしゃべりかけてきました。たぶんこの子も外国人慣れしていたのでしょう。

「ねーねー、名前は?」
「どっからきたの?」
「じゃぱん?遠いの?」
「このぬいぐるみ、お気に入りなのー。いいでしょ」

みたいなことを一方的に話しかけてきました。他愛のない数分のやりとりでしたが、たったそれだけのことで、成田から途切れることなく続いていた緊張感がほぐれていきました。不思議と精神的に救われたことを、今でもハッキリと覚い出すことができます。

※すぐにわかったことですが、中年男性の不機嫌そうな表情はもともとそういう顔つきで、かつ寡黙な人であったというだけで、私が嫌われているわけではないと判明しました。


お茶を飲み終え、寮の部屋を案内されることになりました。事前に「この学校はエチオピアからの留学生が多く、全校生徒の約半数がエチオピア人である」と聞いていたので、たぶんルームメイトもエチオピア人になると予想していました。

いよいよ、人生初のエチオピア人との対面です。しかも、挨拶もそこそこにいきなり寝泊まりを共にせねばならないという、かなりレアな状況です。再び、緊張感に襲われます。

初めて尽くしの生活が、ついに始まります。


つづく



代表 中山順司