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『ありきたり』を脱却する切り口:文房具を眺めつつ。。

『ありきたり』を脱却する切り口:文房具を眺めつつ。。

林田 浩一

デザインディレクター、プロダクトデザイナー、商品開発コンサルタント、プロジェクトごとに役割は色々変わりますが、新たな価値創造を求める企業、経営者の黒子役としてお手伝いしています。 自動車メーカーでの10年ほどのインハウスデザイナーの後、コンサルティング会社等を経て、2005年よりフリーランス。プロダクトデザイン開発のほか、商品企画から販売支援まで価値を「つくる」と「伝える」の両面への好奇心から活動中。

当ブログ「デザイン、マーケティング、ブランドと“ナントカ”は使いよう。」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/k_hayashida/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。



デザインや企画関連などを仕事領域としてウロウロしているせいなのか、単なる『見る見る君』なのか、仕事に直接関係ないモノやコトでも切り口や視点の新しいさ探しが、ワタシは結構好きな方です。自分が興味を惹かれた商品やサービスを世の中に送り出した人たちが、どのようなことを考えてこういうアウトプットになったのかを自分なりに遡ってみるのが楽しいのかもしれません。

身近なものの中では文房具なども、その対象です。昔から色々な切り口での商品が出てくるので、文房具の売り場はウロウロするのは楽しいです。

文房具には必ずしも実用品としてだけでなく、ライフスタイルや場合によってはコレクションなどホビーの対象にもなるという面があるというところが、観察をしていて面白い理由のひとつなのでしょうね。これは購入するユーザーが色々違う(=市場が異なる)ということですから、モノもさることながら、商品が並ぶ店舗にも、小さな町の文房具屋さんから銀座伊東屋みたいな大きな専門店、バラエティショップ、専門用品が並ぶToolsみたいな画材屋、あるいはデルフォニクスのようなライフスタイル訴求のセレクトショップまでとバラエティに富んでいるという面白さもあります。(世の中には、文房具好きな人って結構多いような気もします。笑)

という訳で、今回は最近ニュースなどで眼にして気になったもの、自分で買って使用してみたものから、切り口について少し考えてみました。


■切り口色々な文房具に興味津々

キングジム『ショットノート』

2月に発売されるという、手描きメモを手軽にデジタルデータ化できるメモパッドです。Evernoteを使うようになって以来、確かに手描きメモやアイデアスケッチやら、いただいた名刺やら、どんどんスキャンかEye-Fiカード(WiFi入りSDカード)入れたデジカメで撮って、Evernoteに放り込むという行動が普通の動作になってきているので、出るべくして出てきた商品だなぁと思いました。

詳細はメーカーの商品紹介ページをご覧いただくとして、一番の特徴はiPhoneで撮影すると、歪みなどをアプリで補正して自動的にiPhoneの画面ピッタリになるようノートに仕掛け(マーカー)があることでしょう。ワタシ自身は、デジカメや携帯のカメラでメモや名刺を撮影してデジタル化する時は、さして精度を求めていないので多少の歪みはOKだし、ちょっと注意しながら撮ればいいや、くらいに思っているタチなので、物欲はあまり湧いてきませんが、手軽さを求める人には訴求力がありそうです。


キングジム社のプレスリリースによると『デジタルガジェットと手描きメモをつなぐ次世代文房具としてとらえた、知的生産の向上ツール』という位置付けとのこと。同様のコンセプトでの今後の商品展開も楽しみなところ。("ノート"の形にしなくても、恐らくマーカーシールみたいなものも、技術的には成立するのでしょうし。)


この「ショットノート」に限らず、キングジム社の商品には「文房具」「事務用品」「ガジェット」といった領域が混ざったような商品が色々と展開されているのも興味深いところです。きっと商品企画する際の視点が柔軟な組織なのだろうなあと想像します。

そういえば、ワタシも最初のポメラが出た際には"思わず"買ってしまったのでした。(iPad以降持ち歩かなくなってしまいましたが)



三菱鉛筆『クルトガ』

芯がクルクルと回ることで、芯先が尖った状態を保ち続けるシャープペン。0.3mmの細い芯で2B~3Bを入れて使いたいワタシは、従来のシャープペンシルでは頻繁に芯を折ってしまうので、発売直後に購入し現在も使用中。

残念ながらアイデアスケッチなど、ストローク長く使う際には上手く回転しないので偏減りしてしまうのですが、文字を書くストロークだとちゃんと芯が回転して、確かに先は尖ったままです。理屈はシンプルだけど、具現化するのは結構大変だったろうなぁと想像がつきます。ネットを見渡してみると、このあたりの開発ストリーのインタビュー記事がありました。(→こちら

KuruToga01.jpg

このクルトガ、実用性もさることながら、小さなギアが一コマづつ動いて芯を回転させている様子が見えるのもポイント。工場見学的な楽しみを持つガジェットとしても
個人的には、実用性もさることながら、小さなギアが一コマづつ動いて芯を回転させている様子が見えるのもポイント。じっと見ていると、工場見学をしているみたいな楽しさがあるのです。こういったものは、やがて好奇心に駆られて分解してしまう遊び方もするので、ワタシにとってのクルトガは、もはや文房具なのかどうか解りません。通常のシャープペンよりも部品点数が多く、凝った回転のメカが入っていたりするので、組み立て方とか細かい部品の加工の様子を観察したりとか、これはこれで好奇心が湧いて楽しめるのです(笑)。

クルトガ分解.jpg

商品を「物体としてのモノ」としてだけでなく、「モノを買う行為」として少し離れたところから眺めてみるというのも、企画の切り口探しにはいいかもしれません。今回ワタシにしても、必ずしもシャープペンにお金を支払ったのではないことも見えてきます。現にシャープペンなんて既に何本も机の周辺に転がってる訳ですし。

子どもの頃から馴染んでいるシャープペンに、これまでとは違うところへ焦点を当てることで、"作り手"がある意味消費者を驚かそうとしている行為に対して『ウケた』から購入した、ということがあります。買い物には、商品やサービスの送り手(作り手)への"賛成票"とか"応援票"を入れるという面もありますね。



■顧客ニーズ探し以上に、作り手の『この指とまれ!』

ショットノートやクルトガを見ていると、作り手がユーザー(顧客)にとっての『思いがけない経験』への提案を積極的に行おうとすることが、商品開発の新しい切り口なり視点を創り出す上での強さに感じます。 『この指とまれ!』と。

ユーザー(顧客)はもちろん大事です(最終的に顧客側の感情が動かないと購入して貰えませんから)。しかし、顧客ニーズを吸い上げて"対応"すること以上に、商品やサービスの作り手や送り手は、顧客を観察し洞察し『この指とまれ!』と提示していくような、顧客起点のプロダクトアウトでいかないと、顧客に『期待以上の何か』を感じて貰う(もしくは『ウケる』)のは難しいように感じます。

だって例えば、自分が生活者(消費者)の立場でレストランへ食事に行った際に、料理人が出てきて『肉はどこで仕入れてきたのが好きですか?』くらいのレベルからコト細かく"ヒアリング"していった上で、自分が答えた通りの内容だけの料理が出てきても嫌でしょ?それで『ニーズに応えました』って言われたとしても(笑)

なので、商品やサービスの作り手・送り手側のお手伝いをさせていただく仕事が基本であるワタシとしても、『この指とまれ!』の姿勢を忘れず、日々の仕事にも取り組みたいと思うのですよ。



林田 浩一