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モノづくりビジネスは製造業ではなくなる、かも

モノづくりビジネスは製造業ではなくなる、かも

林田 浩一

デザインディレクター、プロダクトデザイナー、商品開発コンサルタント、プロジェクトごとに役割は色々変わりますが、新たな価値創造を求める企業、経営者の黒子役としてお手伝いしています。 自動車メーカーでの10年ほどのインハウスデザイナーの後、コンサルティング会社等を経て、2005年よりフリーランス。プロダクトデザイン開発のほか、商品企画から販売支援まで価値を「つくる」と「伝える」の両面への好奇心から活動中。

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今回はワタシの妄想と「すでに起こった未来」が混ざったような話しを、書いてみようと思います。(何となく思いついただけなんですが。 笑)

モノづくりのビジネス=メーカー(製造業)だと我々は思いがちです。実際これまではそうでしたし、「モノづくり立国」なんて表現で何かが語られるときには製造業の話しでした。そう、これまでは、「つくる人」と「売る人」は分かれているというのが、我々の中での認識ではないでしょうか。

でも、そうでは無くなるような時代はもうすぐそこまで来ています。

なぜならば、大量生産を前提としない技術は実用的なものとなってきており、それが発展していくとモノづくりのビジネスは、旧来の製造業者だけのものではなくなると考えるからです。



■『Full Printed』の世界

まずは次の『Full Printed』アニメーションのストーリーを見てみてください。


このアニメーションに描かれている、大量生産からパーソナルなオーダーメイド(超富裕層のためのものではなく、ごく普通の生活者の日常のためのもの、というところがポイント)へという世界は絵空事ではなく、部分的には既に始まっている世界です。

アニメーションでも描かれているモノづくりの核となっている技術のひとつに積層造形というものがあります。素材や用途などにより、光造形やレーザーによる粉末溶融などいくつかの種類がありますが、いずれも3Dデータを元に数十ミクロンというピッチで作られる等高線状の断面形状を、文字通り積層していって立体を作るという点は共通しています。

この技術、ワタシが初めて眼にしたのは、自動車メーカーのデザイン部門にいた90年代の前半だったと記憶しています。その時は紫外線で固まる樹脂を利用した光造形といわれる手法のもので、試作用途での新たな技術紹介としてサンプルを見たのでした。その時点ではまだ寸法精度やデータの再現度から、外観の雰囲気を検討するモックアップくらいでしか使えないものでしたが、ワタシはワクワクする感じがありましたねぇ。何故なら、この技術で少量生産の『商品』を作れる時代がくるなぁと感じたからでした。


我々の身の回りで"同じ姿形"のものが"複数個"存在している場合、多くの場合『型』が存在することで、同じものを作っています。これはクルマのような大きな工業製品から鯛焼きまで同じことです。そして多くの場合『型』を作るにはそれなりの大きな金額を必要とします。それ故に、大量生産しなければビジネスとしては成立しないという、原則的な状況があります。

これが光造形を初めとする積層造形、あるいは最近のアップルが好んで使う手法である、材料の塊から削り出す切削加工(形状によっては、削って捨てる量の方が製品より多くなってしまう可能性もある)など、『型』を使わずに作る手法であれば、生産数量への対応に柔軟性がでてきます。このことは、今までは超富裕層向けのワンオフ製作(フル・オーダーメイド)と一般向けの大量生産の両端にしかビジネスの機会がなかったような商品でも、様々なビジネスが展開できる可能性へつながってきます。

と、そうやってワクワクしていたのですが、残念なことに積層造形に関連するものは、日本では試作用途に留まっていたように思えます。そこには、ある種の『思い込み』も存在していたのではないでしょうかねぇ。光造形をはじめとするこの手の関連分野を、ずっとRP(Rapid Prototyping)と称していたからそう感じるのですけれど。Prototypeという言葉に引きずられていたような印象があります。個人的には、少量でもオリジナル商品が作れる手段として、早く発達しないかなぁと、視界の隅には入れておきつつもモヤモヤとしていました。


ところがこの間に主にヨーロッパでは、これらの技術を試作ではなく、最終プロダクトへ活用する動きが着々と進んでいます。彼らはRP(迅速な試作)ではなく、AM(Additive Manufacturing:積層による製造)と称しています。それに伴い、例えば、ベルギーのマテリアライズ社(AMの代表的な企業)は、B2Bでは自動車産業などへの試作や少量生産、医療分野で治療や手術をするようなシーン向けの個別生産サービスを提供しつつ、B2C向けに照明器具などでアート性の強いインテリアプロダクト(.MGX by Materialise)も展開しているといったように、工業製品、医療、アートといった広い領域の様々なフェーズで活動しています。また個人向けには、ユーザー作った3Dデータから積層造形をしたものを届けてくれる、ネット通販も行なっています。(i.materialise


MGX_site01.jpg


i_materialise_site.jpg

AMのコンセプトは、モーターショーに出てくるコンセプトカーやF1、航空機などから、宝飾品的なもの、痛めた頭蓋骨を復元する命に関わるものまで、静かに拡がっています。

変わったところでは、アメリカで開催されたツタンカーメン展用に、ミイラのレプリカを造形したりなんてものも。この様子はYouTubeに公開されています。このプロジェクトでは、マリアライズ社にしかない世界最大の光造型機(確か最大2Mのものまで造形できると、マテリアライズ社の方より聞いた記憶があります。)





■モノづくりビジネスもサービス業と考えてみると・・・

『Full Printed』の世界ほどではありませんが、最近は日本でも出力3Dプリンティングの出力ビューローを、事業として展開する企業もだんだんと増えてきている動向を感じます。また、アメリカのMITから始まったFabLab(ファブラボ:3次元プリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備えた、誰もが使えるオープンな市民制作工房)の動きが日本でも始まっていたりとか。

以前は企業のデザイン部門や設計・試作部門などの周囲で従事している人以外には、あまり(ほとんど、かも)知られていなかった技術が一般へも表出しつつあるのは、新たな産業の創出機会としても、個人的な好奇心的にも興味深く楽しいです。


更にこの先へと眼を向けていくと、現状の3D造形のサービスビューローもFabLabも拡大して、B2B、B2C、C2C、パーソナルメイド ...そういった利用者や目的に垣根無くごちゃ混ぜにサービスを提供する、レンタル工房やモノづくりコンシェルジュみたいなものが出てきてもいいなぁ、とワタシは妄想してしまいます(笑)

データを持ち込んで造形したら、出来たものを眺め、場合によっては『その場』で手加工して形状修正、その修正形状をスキャンしてデジタル化、再度造形機で造形...と、デジタルでも自分の手を使うでも、両方の「つくる」ができる場所。フルデジタルの造形機もあれば、ノミ、ハンマー、万力、定盤にトースカンのような人の手がなきゃ何も起きないものもある。そんな場所・・・。

自分で試行錯誤しながら作る場になったり、一定数量規模の製造工場になったり、中小企業にとっては人や情報と出会う場になったり、そんな場所があったらワクワクしてしまします。というより、そんな場ならワタシが管理人をやりたいくらい!どなたか、そんな妄想にお付合いいただけませんかねえ(笑)


我々に物理的な身体がある限り、モノが無くなることはありません。ということはモノづくりのビジネスもなくならない。でも、モノづくりビジネスのプレイヤーは(今の)製造業だけとは限らなくなっていくのではないでしょうか。積層造形や切削加工など様々な製造手段が、最終製品作りに選択肢として増えてくると、例えば、文房具やインテリア雑貨などのセレクトショップみたいなところがオリジナル商品を作って売っても何の不思議もありません。(今回のエントリーとは直接関連ありませんが、最近のアップルが切削加工を好んで使っていることについては、こんなことも考えてみたことがあります。)

そこへの過程では、ソーシャルメディアがインフラのようになってきている、ということも無縁ではないですね。ソーシャルメディアを活用して、顧客と交流を活発に行なっている企業ほど、顧客起点からプロジェクトが始まっても不思議はありませんものね。

そういった面では、モノづくりの行為そのものが『サービス業』になる、ということなのかもしれません。


モノづくりのビジネスもまだまだ捨てたもんじゃありません。それとも、ワクワクしてるのはワタシだけ?



林田 浩一