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疑問が残るような教え方、してますか?
»2011年4月23日
開米のリアリスト思考室
疑問が残るような教え方、してますか?
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
前号の続きです。
「何かの仕事を指示する人が実務者に説明する」シーン、たとえば新入社員に仕事を教えるような場面でよくやりがちな失敗の4・5番はこれでした。
■失敗4:網羅的に説明しすぎている
■失敗5:一方的に説明してばかりいる
この2つは「説明が多すぎる」という失敗です。
ちょっと下の図を見ていただきましょう。
左端の「先生」が何か説明をすると、それは「学習者のアタマの中」にいったん入ります。「学習中のナレッジ(K)」というのがそれですね。ですがそれは単に言葉のうわっつらを聞き取った/読んだだけのことで、理解はされていません。それが理解され、身につくためには、経験の裏付けが必要です。
そこで、「トライアル(T)」をします。要は試してみるわけです。実際に対象世界に対してその学んだ知識(ナレッジ)を試してみる。そうすると結果がわかる(フィードバックが得られる)ので、それを得て自分なりに「意味づけ(M,meaning)」をする。
こういう過程を経ると、知識(K)は単なる丸暗記から、「経験の裏付けを得た、使える知識」になります。
そこで、本当の力をつけさせるには「トライアル(T)」→「フィードバック(F)」→「意味づけ(M)」の流れが何度も回るようにしなければなりません。これを短くTFMループと呼んでおきましょう。
TFMループを加速するために気をつけなければいけないことがいくつかあります。
■「学習中のナレッジ(K)」を与えすぎてはいけない
よく、「一度に1つだけ教えること」が大事と言われますが、その話です。
一度に大量のナレッジを与えすぎると、混乱してどれからトライアル(T)していいのかわからなくなります。
したがって、ある仕事をするのに10個のナレッジが必要だったとして、その10個を一度に全部教えてはいけないわけです。
では、10段階に分けて1から10まで順番に全部教えればよいのでしょうか?
実はそうでもありません。
■必要なナレッジをすべて教えてはいけない
必要なナレッジが10あるとしたら、そのうちの2つか3つは、普通に考えれば推測がつくようなものの場合が多いです。そういうものは教えずに「自分で推測」あるいは「発見」させるほうがいいです。
そのために非常に効果的なのは、「失敗と成功」の経験です。TFMのループを何度か繰り返して「成功」と「失敗」の事例をいくつか集めると、そこから自分で「成功と失敗を分けるポイント」を見つけられることがあります。それは自分で見つけたナレッジ(K)であり、これはそのまま「ベース・ナレッジ」になります。
だから、1から10まですべて教えるのはやめましょう。自力で発見するように仕向けて待つことも、教える者の責務です。
ただしその間、学習者は必ず何度も「失敗」をすることになるので、「失敗できる環境作り」が先生の大きな課題になります。
■T、F、Mをそれぞれ刺激するような働きかけをする
学習者によっては、「説明を聞いて覚えること」だけしか意識がなく、TFMのループを通して何度も失敗することを通じて学ぶことが大事だ、という感覚を持っていないケースがあります。こういう場合は「とにかく試してみな。やってみな」といくら言っても、
え・・・自信がありません とか、
絶対にうまくいく方法を教えてください
といった反応で、なかなか自分からトライアル(T)を踏み出さないことがあります。こうした行動傾向はそれまでの人生経験の集積の結果なので、すぐには変わりませんが、あの手この手でトライアルを始めさせるようにしましょう。
また、トライアルはしていても、そこからのフィードバック(F)→意味づけ(M) がうまく行かないというケースもあります。
フィードバック(F)というのは、トライアルの結果が事実としてどうであったかを認識することですが、ここでしくじるという場合、「結果」を全体として漠然と眺めているだけで、重要な部分にピンポイントで意識を集中できていないことがあります。そういう場合は「注意して見るべきポイント」を一言二言アドバイスするだけでうまくいくかもしれません。(後日、補足を書きます→「3つに分けて表を作れば?」の話)。
もうひとつ、意味づけ(M)というのは、結果として起きた事実を見て、自分なりの解釈/判断を下すことです。これをしないでただ単にT・Fだけのループを回していても何の意味もありません。
そこで、先生は「質問」しましょう。
T・Fの後で、Mをうながすために「そこからどういうことが言える?」と、質問しましょう。質問して、「説明させる」ことで、意味づけ(M)を刺激することができます。
だから、
■失敗4:網羅的に説明しすぎている
■失敗5:一方的に説明してばかりいる
ということが言えるわけです。
すべてを説明するのではなく、一部に穴を残しておきましょう。「ここはいったい何だろう?」という疑問は、人のアタマを働かせる大きな要因です。1から10まで説明せずに、教えないことを残すことが大事です。
そして、説明しない代わりに「質問」しましょう。人は、他人に説明しているときに一番よく学習が進みます。「一方的に説明」するのは、そんな学習の機会を奪っていることになります。どこでどんな質問をするかに神経をつかいましょう。
それでは明日は、具体的な事例を使って、教え方の改善案を考えてみることにします。
・・・(続く)
「何かの仕事を指示する人が実務者に説明する」シーン、たとえば新入社員に仕事を教えるような場面でよくやりがちな失敗の4・5番はこれでした。
■失敗4:網羅的に説明しすぎている
■失敗5:一方的に説明してばかりいる
この2つは「説明が多すぎる」という失敗です。
ちょっと下の図を見ていただきましょう。
左端の「先生」が何か説明をすると、それは「学習者のアタマの中」にいったん入ります。「学習中のナレッジ(K)」というのがそれですね。ですがそれは単に言葉のうわっつらを聞き取った/読んだだけのことで、理解はされていません。それが理解され、身につくためには、経験の裏付けが必要です。
そこで、「トライアル(T)」をします。要は試してみるわけです。実際に対象世界に対してその学んだ知識(ナレッジ)を試してみる。そうすると結果がわかる(フィードバックが得られる)ので、それを得て自分なりに「意味づけ(M,meaning)」をする。
こういう過程を経ると、知識(K)は単なる丸暗記から、「経験の裏付けを得た、使える知識」になります。
そこで、本当の力をつけさせるには「トライアル(T)」→「フィードバック(F)」→「意味づけ(M)」の流れが何度も回るようにしなければなりません。これを短くTFMループと呼んでおきましょう。
TFMループを加速するために気をつけなければいけないことがいくつかあります。
■「学習中のナレッジ(K)」を与えすぎてはいけない
よく、「一度に1つだけ教えること」が大事と言われますが、その話です。
一度に大量のナレッジを与えすぎると、混乱してどれからトライアル(T)していいのかわからなくなります。
したがって、ある仕事をするのに10個のナレッジが必要だったとして、その10個を一度に全部教えてはいけないわけです。
では、10段階に分けて1から10まで順番に全部教えればよいのでしょうか?
実はそうでもありません。
■必要なナレッジをすべて教えてはいけない
必要なナレッジが10あるとしたら、そのうちの2つか3つは、普通に考えれば推測がつくようなものの場合が多いです。そういうものは教えずに「自分で推測」あるいは「発見」させるほうがいいです。
そのために非常に効果的なのは、「失敗と成功」の経験です。TFMのループを何度か繰り返して「成功」と「失敗」の事例をいくつか集めると、そこから自分で「成功と失敗を分けるポイント」を見つけられることがあります。それは自分で見つけたナレッジ(K)であり、これはそのまま「ベース・ナレッジ」になります。
だから、1から10まですべて教えるのはやめましょう。自力で発見するように仕向けて待つことも、教える者の責務です。
ただしその間、学習者は必ず何度も「失敗」をすることになるので、「失敗できる環境作り」が先生の大きな課題になります。
■T、F、Mをそれぞれ刺激するような働きかけをする
学習者によっては、「説明を聞いて覚えること」だけしか意識がなく、TFMのループを通して何度も失敗することを通じて学ぶことが大事だ、という感覚を持っていないケースがあります。こういう場合は「とにかく試してみな。やってみな」といくら言っても、
え・・・自信がありません とか、
絶対にうまくいく方法を教えてください
といった反応で、なかなか自分からトライアル(T)を踏み出さないことがあります。こうした行動傾向はそれまでの人生経験の集積の結果なので、すぐには変わりませんが、あの手この手でトライアルを始めさせるようにしましょう。
また、トライアルはしていても、そこからのフィードバック(F)→意味づけ(M) がうまく行かないというケースもあります。
フィードバック(F)というのは、トライアルの結果が事実としてどうであったかを認識することですが、ここでしくじるという場合、「結果」を全体として漠然と眺めているだけで、重要な部分にピンポイントで意識を集中できていないことがあります。そういう場合は「注意して見るべきポイント」を一言二言アドバイスするだけでうまくいくかもしれません。(後日、補足を書きます→「3つに分けて表を作れば?」の話)。
もうひとつ、意味づけ(M)というのは、結果として起きた事実を見て、自分なりの解釈/判断を下すことです。これをしないでただ単にT・Fだけのループを回していても何の意味もありません。
そこで、先生は「質問」しましょう。
T・Fの後で、Mをうながすために「そこからどういうことが言える?」と、質問しましょう。質問して、「説明させる」ことで、意味づけ(M)を刺激することができます。
だから、
■失敗4:網羅的に説明しすぎている
■失敗5:一方的に説明してばかりいる
ということが言えるわけです。
すべてを説明するのではなく、一部に穴を残しておきましょう。「ここはいったい何だろう?」という疑問は、人のアタマを働かせる大きな要因です。1から10まで説明せずに、教えないことを残すことが大事です。
そして、説明しない代わりに「質問」しましょう。人は、他人に説明しているときに一番よく学習が進みます。「一方的に説明」するのは、そんな学習の機会を奪っていることになります。どこでどんな質問をするかに神経をつかいましょう。
それでは明日は、具体的な事例を使って、教え方の改善案を考えてみることにします。
・・・(続く)