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目的には論理と感情の両面からアプローチせよ

目的には論理と感情の両面からアプローチせよ

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 それでは前回の事例を検討してみましょう。
 先生が生徒に「食中毒予防のポイント」を教えるシーンという設定、再掲するとこういう会話でした。

【事例:食中毒予防のポイント】
先生:大事なのは、まずは、手を洗うこと。忘れないでね。
生徒:そういえば、ご飯を食べる前に手を洗いなさいってよく母に怒られました。
先生:ご飯を食べる前だけじゃないですよ。料理をするときもね
生徒:あ、はい
先生:もちろん、まな板や包丁やお鍋なんかもきちんとキレイに洗って置かなきゃダメよ
生徒:はい!
先生:あと、火を通せる料理だったらしっかり加熱することね。
生徒:はい!
先生:そもそもの話を始めたら、お店で食料品を買ってくるときも新鮮なものを選ぶこと、家に着いたらすぐに冷蔵庫や冷凍庫で保管するのも忘れないで
生徒:はい!
先生:あと食べ残したものを取っておく容器もちゃんとキレイなものを使う! いい? わかった?
生徒:わかりました!

 さてここで、4/22の記事で書いたこの図をもう一度見てみましょう。



 すると、とりあえず、

    「先生が目的(食中毒の予防)を語っていない」

 ということに気がつきます。まあきっとこの会話の前に話はしているのでしょう。
 それに、このぐらいの話なら改めて言わなくてもわかりそうです。
 が、もしかしたら中にはこういう生徒がいるかも知れません。

    先生:これから、食中毒を防ぐために大事なポイントをお話しします
    生徒:・・・(食中毒って何だろう?)・・・


 現代は昔に比べて衛生事情、医療事情が良くなっているため、食中毒の発生件数および死亡事例自体が減っており、「食中毒を防ぐ!」と言われてもピンと来ない子供がいる可能性があります。
 人間は必要性がピンと来ないと真剣に勉強しません。

    「ここ、試験に出るからね!」

 なんて言っても無駄です。こう言われて勉強したことなんて試験が終わったら即効で忘れますからね。

 そこで、「食中毒を防ぐ」という目的をきちんと認識してもらうためには、その背景を語る必要があります。たとえばこういう話ですね。

    (A) 食中毒を起こすと、ひどい場合は死亡することがある
    (B) 食中毒死者数は昭和30年代は年間300人程度あった
    (C) その後減少を続けてきて平成年代では年間10人弱程度
    (D) しかしここ10年間はそれ以前に比べて発生件数が増えており、件数だけ見れば昭和30年代なみになっている


 と、こんな背景をつけたほうが「食中毒を防ぐ!」という目的について「あ、それは大事なことだ」と納得されやすくなります。
 当然ですが、こういう説明をするためには事前準備が大切で、あらかじめ調べておかないと説得力のある話ができません。

 ただし、(A)~(D)で十分か、というともうひとつ欲しいものがあります。というのは、(A)~(D)はいずれも論理的な、データ的な話なので、少々無味乾燥なんですね。人間は論理だけでは動きませんので、感情的な話を添えることが大事。

 そして「感情的な話」というのは実体験をともなうものが一番説得力があります。
 たとえば、

    美味しいご馳走を食べた後で食中毒を起こしてさんざん苦しんでしまった
    しかもそれが大事な試合の前だったので本番で力が出せずに負けてしまった

 なんて話を自分の実体験として語れると都合がいいわけです。
 まあ、そんな都合のいい実体験がない場合は他人のものでもかまいませんが、何にしても感情をともなう体験談は身近な人のものであるほど効果的だということは知っておいてください。

 ちなみに、生徒が大勢いる場合はその場で「身に覚えがある人、いない?」と聞いてみる手もあります。もちろん、内容によっては聞けないものもありますのでそこは慎重にやらなければなりませんが、仲間内に経験者がいるとやはり真剣味が違ってきます。

 さて、ここまでが「目的」とその「背景」の話でした。

 次は、「課題」「手順」「材料」の部分を見てみましょう。
 家庭科の先生が「ああしなさい、こうしなさい」と説明している言葉が果たして「課題」「手順」「材料」のどれに該当するか、次回はその話を書く予定です。