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「良い文章の書き方」を守ると、わかりにくくなることもある
»2011年7月28日
開米のリアリスト思考室
「良い文章の書き方」を守ると、わかりにくくなることもある
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
こんにちは。知識の構造化に尋常ならざる執念を燃やす開米瑞浩です。
本日は本業のほうの話題で、「良い文章の書き方を守るとわかりにくくなる」という事例をご紹介しましょう。
まずはこの文を読んでいただきましょう。同じ内容を2種類の違う書き方で書きます。まずは「ナチュラル版」から。
「石油製品」について説明している文章ですが、とりたてて難しいことを書いているわけでもなく、ふんふんそういうことか、と楽に読める内容です。文章としてもごく自然に書かれています。(だから、「ナチュラル版」と呼んでみました(笑))
・・・・が、しかし実は「文章としてごく自然に読めるように書かれている」ことが、ある問題を引き起こすことがあります。それはいったいどんな問題かを知るために、「自然に読めるように書かれて」いない、「ギクシャク版」のほうと比べてみましょう。
なにかギクシャクしてますよね?
ナチュラル版との違いは2ヶ所だけ。「ある特定の製品」「全部の種類の油」の2ヶ所をいずれも「石油製品」に統一しただけです。
ギクシャク版のほうは「石油製品」という同じ言葉が何度も出てきて、どうしても少し幼稚な感じがしませんか? 実は、「良い文章」を書くためのセオリーのひとつにこういうものがあります。
このセオリーを守っているのが「ナチュラル版」で、守っていないのが「ギクシャク版」です。
実際、小学生に作文を書かせるとよくギクシャク版のような書き方をします。
文章としてはどうしてもナチュラル版のほうが良質ですし、作文指導であれば上記の「同一表現繰り返し禁止」セオリーには意味があります。
ところがこのセオリーが弊害を産む場面があります。
それが、「解説書、説明書を書くとき」です。
解説書、説明書の目的というのは、「読者に名文を味わってもらうこと」ではありません。
「同一表現繰り返し禁止」というセオリーはこの目的にはそぐわない場面が多々あるんですね。
読者がまだ知らない、ある概念を説明する、という場合、AならAという対象概念について、それをさまざまな側面から解説した「解説文」を書くことになります。そういう場合は当然、
という表現を多用することになりますし、「A」という同じ用語を何度も使うことになります。
その結果、「同一表現繰り返し禁止」のセオリーには反することになり、ギクシャクした文章になります。
・・・が、たとえギクシャクしてもそうするべきなんです。
読者がまだ知らない概念を説明する時は、その「対象概念」を表す用語を言い換えずに何度も使って、ギクシャクしたままで書くべきです。
繰り返しますが、その種の文書の目的は、「名文を味わってもらうこと」ではなく、「この文を書いているオレは頭がいいだろう」とアピールすることでもありません。まだ知らない概念をすばやく正確に理解してもらうことです。
そのためには、「まだ知らない概念」に意識を集中してもらう必要があります。そのためには、同じ用語をうんざりするぐらいに何度も使って印象づけるほうがいいんです。
逆に、表現を言い換えてしまうと、何しろ読者は対象概念についてまだよく知らない素人ですから、
という迷いを生じさせます。「油って、石油製品のこと・・・だよな? それともちょっと違うのか??」と思ってしまうわけですね。
まあ、迷いを生じさせることによって、「よく考える」反応を引き出し、本質的な理解を深めることを狙うというテクニックもないではありませんが、それはかなりの特殊例です。普通に解説書を書く場合はそんな変則的テクニックを使うべきではありません。
これが「良い文章の書き方を守ると、わかりにくくなることもある」という例です。
「同一表現繰り返し禁止」というのは、ライティングテクニックの中でも基本的かつ重要なものなのですが、説明書を書くときはあえてそれを無視するべきときもあるわけですね。
今回事例に上げた「石油製品」という問題はもともと図解問題として開米が読解力図解力の企業研修で使っているものです。図解問題としての解答に興味のある方は下記リンク先から出題と解説をどうぞご利用ください。
「石油製品」問題 (アイデアクラフト研修資料室内)
本日は本業のほうの話題で、「良い文章の書き方を守るとわかりにくくなる」という事例をご紹介しましょう。
まずはこの文を読んでいただきましょう。同じ内容を2種類の違う書き方で書きます。まずは「ナチュラル版」から。
【ナチュラル版】
石油製品には、ガソリン、灯油、重油、軽油などがあり、いずれも原油を精製して作られる。
原油を精製してガソリンや灯油などを作る場合、ある特定の製品のみを作ることは出来ず、必ず全部の種類の油が生産されてしまう。
このため、石油製品は連産品と呼ばれることがある。
「石油製品」について説明している文章ですが、とりたてて難しいことを書いているわけでもなく、ふんふんそういうことか、と楽に読める内容です。文章としてもごく自然に書かれています。(だから、「ナチュラル版」と呼んでみました(笑))
・・・・が、しかし実は「文章としてごく自然に読めるように書かれている」ことが、ある問題を引き起こすことがあります。それはいったいどんな問題かを知るために、「自然に読めるように書かれて」いない、「ギクシャク版」のほうと比べてみましょう。
【ギクシャク版】
石油製品には、ガソリン、灯油、重油、軽油などがあり、いずれも原油を精製して作られる。
原油を精製してガソリンや灯油などを作る場合、ある特定の 石油製品のみを作ることは出来ず、必ず全部の種類の石油製品が生産されてしまう。
このため、石油製品は連産品と呼ばれることがある。
なにかギクシャクしてますよね?
ナチュラル版との違いは2ヶ所だけ。「ある特定の製品」「全部の種類の油」の2ヶ所をいずれも「石油製品」に統一しただけです。
ギクシャク版のほうは「石油製品」という同じ言葉が何度も出てきて、どうしても少し幼稚な感じがしませんか? 実は、「良い文章」を書くためのセオリーのひとつにこういうものがあります。
「同じ表現を何度も繰り返して使ってはならない」
このセオリーを守っているのが「ナチュラル版」で、守っていないのが「ギクシャク版」です。
実際、小学生に作文を書かせるとよくギクシャク版のような書き方をします。
文章としてはどうしてもナチュラル版のほうが良質ですし、作文指導であれば上記の「同一表現繰り返し禁止」セオリーには意味があります。
ところがこのセオリーが弊害を産む場面があります。
それが、「解説書、説明書を書くとき」です。
解説書、説明書の目的というのは、「読者に名文を味わってもらうこと」ではありません。
説明したい概念を素早く正確に理解してもらうことです。
「同一表現繰り返し禁止」というセオリーはこの目的にはそぐわない場面が多々あるんですね。
読者がまだ知らない、ある概念を説明する、という場合、AならAという対象概念について、それをさまざまな側面から解説した「解説文」を書くことになります。そういう場合は当然、
Aは・・・である
という表現を多用することになりますし、「A」という同じ用語を何度も使うことになります。
その結果、「同一表現繰り返し禁止」のセオリーには反することになり、ギクシャクした文章になります。
・・・が、たとえギクシャクしてもそうするべきなんです。
読者がまだ知らない概念を説明する時は、その「対象概念」を表す用語を言い換えずに何度も使って、ギクシャクしたままで書くべきです。
繰り返しますが、その種の文書の目的は、「名文を味わってもらうこと」ではなく、「この文を書いているオレは頭がいいだろう」とアピールすることでもありません。まだ知らない概念をすばやく正確に理解してもらうことです。
そのためには、「まだ知らない概念」に意識を集中してもらう必要があります。そのためには、同じ用語をうんざりするぐらいに何度も使って印象づけるほうがいいんです。
逆に、表現を言い換えてしまうと、何しろ読者は対象概念についてまだよく知らない素人ですから、
あれ? これはさっきのアレとは違うのか、それとも同じものなのか・・・
という迷いを生じさせます。「油って、石油製品のこと・・・だよな? それともちょっと違うのか??」と思ってしまうわけですね。
まあ、迷いを生じさせることによって、「よく考える」反応を引き出し、本質的な理解を深めることを狙うというテクニックもないではありませんが、それはかなりの特殊例です。普通に解説書を書く場合はそんな変則的テクニックを使うべきではありません。
これが「良い文章の書き方を守ると、わかりにくくなることもある」という例です。
「同一表現繰り返し禁止」というのは、ライティングテクニックの中でも基本的かつ重要なものなのですが、説明書を書くときはあえてそれを無視するべきときもあるわけですね。
今回事例に上げた「石油製品」という問題はもともと図解問題として開米が読解力図解力の企業研修で使っているものです。図解問題としての解答に興味のある方は下記リンク先から出題と解説をどうぞご利用ください。
「石油製品」問題 (アイデアクラフト研修資料室内)