誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。
「掛け算には順序がある」・・・なんて、ご冗談でしょう?(2)
»2011年12月24日
開米のリアリスト思考室
「掛け算には順序がある」・・・なんて、ご冗談でしょう?(2)
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
前号の続きです。
1.「掛け算の意味」がきちんとわかる
2.その理解が a × b = b × a という実数の乗法の交換法則に自然につながる
3.さらに、除法では交換法則が成り立たないことも自然にわかる
ような「掛け算の教え方」が欲しい、というところまで書きました。
ここでもう一度、「掛け算には順序がある」という主張の例を見てみましょう。
↑この回答は「掛け算には順序がある」派のものですね。
さて、この例を踏まえて以下のチャートです。
たどって欲しい思考プロセスは左端の列の通り。「問題文」を読んで「状況」を理解し、式を立てて、計算して答を出す。この場合、立式自体は 3x4 でも4x3でも、少なくとも「数学」的には合っています。
ところが、脳内で「状況理解」をせずにショートカットしていきなり式を立てようとする子がいるわけです。「要するに出てきた順に数字を並べればいいのね」と。実際こういう子がいるのは確かで、文章題をやらせると惨憺たる成績になります。ショートカットしちゃいけないんです。
そこでショートカットを防ぐための対策として、「かける数とかけられる数を区別しよう」という教え方が出てきました。
ここで困るのは、「かける数」「かけられる数」という考え方はかなりの抽象概念だということ。これは「一単位あたりの量」という概念を得て初めて区別できるもので、本来は「割り算」との親和性が高い考え方です。となると、
割り算をやる前に、
割り算をやらないとわからない考え方を使って、
掛け算を教えようとしている
という話で、教える順番が間違ってます。何もそんなアクロバットのようなことをしなくても、「掛け算」をするのがいったいどんな状況なのかという状況理解は抽象概念を使わずに可能なんです。
ちなみに私は「人が脳内に持っている概念をどう表現するか」ということをテーマに、図解を多用する説明の手法について高校時代以来しつこく追及してきて、関連する本も9冊出しています。
そういう私の経験上から言うと、同じ言葉が複数の意味に使われうる「多義的な言葉」は極めて極めて極めて人の理解を妨げやすいものです。 だから、
そういう目で「掛け算の順序」問題を見てみると、たとえばこの「3人に4本ずつ鉛筆を配る」問題についても、まさしく「言葉の多義性」がボトルネックになっている部分があります。だから、その多義性を明確に可視化できるようなワークを繰り返しやれば、「状況理解」の助けになることでしょう。
ではその「多義性」がどこに出ているかというと「3」という数字です。「3人に4本ずつ鉛筆を配る」という状況において、「3」という数字は2つの意味を持ちます。それは、
3人 という意味と 3倍 という意味
です。これを区別できるような仕掛け、可視化する仕掛けが必要なんです。
それはいったいどんな仕掛けなのか?
ベースになるのは、こういう図です。
要は鉛筆をタテヨコ長方形状に並べて掛け算を表現しよう、というだけの単純な図ですね。ちなみに「人」と「鉛筆」を両方書いているのには意味があるので、人を消しちゃダメです。人を消してしまうと「3人」と「3倍」を区別できなくなります。
さらにこれをベースにもう一工夫します。というのは、「教育」という観点からすると、「質問して考えさせて答を出させる」というのが重要。そこで、この図のどこに関してどんな質問をするかを考えて、その質問がしやすくなるような仕掛けを作ります。
ちなみに、同じことを図解しているように見えても下記のように一直線に書くのはダメです。こう書くと駄目な理由はまた別途書きます。
以上、続きは次回。
次回は、タテヨコに並べた長方形状のバージョンをベースに一工夫した形から始めます。
(・・・続く)
1.「掛け算の意味」がきちんとわかる
2.その理解が a × b = b × a という実数の乗法の交換法則に自然につながる
3.さらに、除法では交換法則が成り立たないことも自然にわかる
ような「掛け算の教え方」が欲しい、というところまで書きました。
ここでもう一度、「掛け算には順序がある」という主張の例を見てみましょう。
■質問者:私の娘が「3人に4本ずつ鉛筆を配るから 3×4」と式を立てましたが、先生は「4×3」の順序でなければいけないと言うそうです。どうしてこのような指導をするのでしょうか?
■回答者:a × b と書くのは aのb倍という意味になります。 これでは3 人の4倍で答が 「12 人」になってしまいます。 これでは問題文の状況を理解しているとは言えません。 正しくは4本の3倍ということで 4×3という式が適切です。これなら答えが「12本」になります。問題文の状況を読み取って式を作ることを指導するためには、かけ算の順序を意識させてください。
↑この回答は「掛け算には順序がある」派のものですね。
さて、この例を踏まえて以下のチャートです。
たどって欲しい思考プロセスは左端の列の通り。「問題文」を読んで「状況」を理解し、式を立てて、計算して答を出す。この場合、立式自体は 3x4 でも4x3でも、少なくとも「数学」的には合っています。
ところが、脳内で「状況理解」をせずにショートカットしていきなり式を立てようとする子がいるわけです。「要するに出てきた順に数字を並べればいいのね」と。実際こういう子がいるのは確かで、文章題をやらせると惨憺たる成績になります。ショートカットしちゃいけないんです。
そこでショートカットを防ぐための対策として、「かける数とかけられる数を区別しよう」という教え方が出てきました。
ここで困るのは、「かける数」「かけられる数」という考え方はかなりの抽象概念だということ。これは「一単位あたりの量」という概念を得て初めて区別できるもので、本来は「割り算」との親和性が高い考え方です。となると、
割り算をやる前に、
割り算をやらないとわからない考え方を使って、
掛け算を教えようとしている
という話で、教える順番が間違ってます。何もそんなアクロバットのようなことをしなくても、「掛け算」をするのがいったいどんな状況なのかという状況理解は抽象概念を使わずに可能なんです。
ちなみに私は「人が脳内に持っている概念をどう表現するか」ということをテーマに、図解を多用する説明の手法について高校時代以来しつこく追及してきて、関連する本も9冊出しています。
そういう私の経験上から言うと、同じ言葉が複数の意味に使われうる「多義的な言葉」は極めて極めて極めて人の理解を妨げやすいものです。 だから、
多義的な言葉が出てくる場合には、なんですね。
それを明確に意識化、可視化できるような仕掛けが必要
そういう目で「掛け算の順序」問題を見てみると、たとえばこの「3人に4本ずつ鉛筆を配る」問題についても、まさしく「言葉の多義性」がボトルネックになっている部分があります。だから、その多義性を明確に可視化できるようなワークを繰り返しやれば、「状況理解」の助けになることでしょう。
ではその「多義性」がどこに出ているかというと「3」という数字です。「3人に4本ずつ鉛筆を配る」という状況において、「3」という数字は2つの意味を持ちます。それは、
3人 という意味と 3倍 という意味
です。これを区別できるような仕掛け、可視化する仕掛けが必要なんです。
それはいったいどんな仕掛けなのか?
ベースになるのは、こういう図です。
要は鉛筆をタテヨコ長方形状に並べて掛け算を表現しよう、というだけの単純な図ですね。ちなみに「人」と「鉛筆」を両方書いているのには意味があるので、人を消しちゃダメです。人を消してしまうと「3人」と「3倍」を区別できなくなります。
さらにこれをベースにもう一工夫します。というのは、「教育」という観点からすると、「質問して考えさせて答を出させる」というのが重要。そこで、この図のどこに関してどんな質問をするかを考えて、その質問がしやすくなるような仕掛けを作ります。
ちなみに、同じことを図解しているように見えても下記のように一直線に書くのはダメです。こう書くと駄目な理由はまた別途書きます。
以上、続きは次回。
次回は、タテヨコに並べた長方形状のバージョンをベースに一工夫した形から始めます。
(・・・続く)