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めぐりめぐる因果の輪を考えやすくする「因果ループ図」
»2012年2月20日
開米のリアリスト思考室
めぐりめぐる因果の輪を考えやすくする「因果ループ図」
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
現代社会はいろいろと複雑な問題に満ちています。
Aという問題を解決するためにBという手を打っても、それが期待通りの効果を挙げるとは限りません。たとえば、「国の財政難を解決するためには増税が必要だ」ということで増税してみたら経済がしぼんでしまい、かえって税収が減ってしまうということもありえます。「増税」という手段には「税収増」という本来の作用の他に、「経済活動の縮小」という副作用があるため、期待していた作用が得られないことがあるわけです。
そこで、「問題を解決する適切な方法を考える」ためには、複雑な因果関係の輪をうまくたどって、作用と副作用の連鎖を追跡する必要があります。
・・・がしかし、それには
1.増税をすると税収が増える
2.増税をすると経済活動が縮小する
3.経済活動が縮小すると、税収が減る
といった箇条書きや文章の形でいくら書いていっても限界があります。箇条書きは「因果関係を追跡するのには向かない」方法なんですね。
じゃあどうすればいいのか? を知るために、ある方法を紹介しましょう。
システム・シンキング (@IT)
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ここではしちめんどくさい理論的な説明はしません。そういうものが読みたい方はリンク先をどうぞ。要は因果関係を図解表現する手法の1つです。
具体例としては例えばこういうもの。
因果ループ図の手法をどこかで勉強したことのある方は「ん? 書き方が違うぞ」と思うかもしれませんが気にしないで結構です(教科書の記法と違う、と言って怒る人がたまにいるので念のため)。自分が考えるために書く分には、自分にとって書きやすい書き方で十分です。
「因果ループ図」というのは、要は「因果関係を追跡しやすく表現した図」というだけのことで、それ以上でも以下でもありませんから、書き方は自分で好きに工夫してください。どのみち、現在はこの手法は大して広まっているわけでもないので、人と議論するときはそれぞれの記号が何を意味しているのかを解説しないと通じません。
さて、そういう前置きをおいた上で説明しますと、上記因果ループ図中の(S)はsameの略で、正の因果関係を表します。例えば、「資金不足」から「借金」の間に(S)の矢印がありますが、これは「資金不足になると借金のニーズが高まる」という関係を表します。
一方、逆に「借金」から「資金不足」に向かって(O)の矢印がありますが、これはoppositeの略で、負の因果関係を表します。言葉にすると「借金をすると、資金不足が解消される」という関係です。
矢印に「遅れ」と注記があるときはその因果関係に時間差があることを表します。
さて、複数の要素の間に一定の因果関係がある場合、それをこのような記号で表していくと、特徴的なパターンが現れます。その中でも基本的なのが、
バランス・ループ
拡張ループ
の2つ。
どちらもループ状の因果関係で、上図では「資金不足-借金」の2者間の関係がバランス・ループ、「資金不足-借金-借金返済」の3者間の関係が拡張ループです。
バランス・ループというのは、(S)と奇数個の(O)によって構成されるループで、一定の状態を保とうとする作用があります。「借金をすれば、資金不足はおさまるのでそれ以上の借金は必要なくなる」というわけです。これがバランス・ループです。ネガティブ・フィードバックと言って通じる方はそう理解してもらって大丈夫です。
一方、拡張ループは(S)と偶数個の(O)によって構成されるループで、雪だるま式に膨れようとする作用があります。「借金をすると、利子つきで返さなければならなくなるから、いずれもっと資金不足になる」というわけです。これが拡張ループで、ポジティブ・フィードバックになります。
こんなふうに、現実世界のしくみ、現象を要素に分解して、それら相互の因果関係を抽象モデル化して矢印で表現することで追跡しやすくするのがシステム思考の因果ループ図という手法です。ただそれだけのものなので、別に難しいところはありません。ありがたがらずにどんどん使いましょう。
手法、なんてものはガンガン使って慣れるが勝ちです。続きます。
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Aという問題を解決するためにBという手を打っても、それが期待通りの効果を挙げるとは限りません。たとえば、「国の財政難を解決するためには増税が必要だ」ということで増税してみたら経済がしぼんでしまい、かえって税収が減ってしまうということもありえます。「増税」という手段には「税収増」という本来の作用の他に、「経済活動の縮小」という副作用があるため、期待していた作用が得られないことがあるわけです。
そこで、「問題を解決する適切な方法を考える」ためには、複雑な因果関係の輪をうまくたどって、作用と副作用の連鎖を追跡する必要があります。
・・・がしかし、それには
1.増税をすると税収が増える
2.増税をすると経済活動が縮小する
3.経済活動が縮小すると、税収が減る
といった箇条書きや文章の形でいくら書いていっても限界があります。箇条書きは「因果関係を追跡するのには向かない」方法なんですね。
じゃあどうすればいいのか? を知るために、ある方法を紹介しましょう。
システム・シンキング (@IT)
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ここではしちめんどくさい理論的な説明はしません。そういうものが読みたい方はリンク先をどうぞ。要は因果関係を図解表現する手法の1つです。
具体例としては例えばこういうもの。
<「借金」の、文章による説明>これ自体はとりたてて難しくもない文章ですが、最初の例としてはこれぐらいが手頃でしょう。同じ内容をシステム思考(システム・シンキングのこと)の因果ループ図という手法で表現するとこんな形になります。
資金不足になったからといって借金をすれば、その時はとりあえず資金不足は解消されます。
しかし、借金はいずれ利子をつけて返さなければならないため、長い目で見ればさらなる資金不足を招いてしまいます。
因果ループ図の手法をどこかで勉強したことのある方は「ん? 書き方が違うぞ」と思うかもしれませんが気にしないで結構です(教科書の記法と違う、と言って怒る人がたまにいるので念のため)。自分が考えるために書く分には、自分にとって書きやすい書き方で十分です。
「因果ループ図」というのは、要は「因果関係を追跡しやすく表現した図」というだけのことで、それ以上でも以下でもありませんから、書き方は自分で好きに工夫してください。どのみち、現在はこの手法は大して広まっているわけでもないので、人と議論するときはそれぞれの記号が何を意味しているのかを解説しないと通じません。
さて、そういう前置きをおいた上で説明しますと、上記因果ループ図中の(S)はsameの略で、正の因果関係を表します。例えば、「資金不足」から「借金」の間に(S)の矢印がありますが、これは「資金不足になると借金のニーズが高まる」という関係を表します。
一方、逆に「借金」から「資金不足」に向かって(O)の矢印がありますが、これはoppositeの略で、負の因果関係を表します。言葉にすると「借金をすると、資金不足が解消される」という関係です。
矢印に「遅れ」と注記があるときはその因果関係に時間差があることを表します。
さて、複数の要素の間に一定の因果関係がある場合、それをこのような記号で表していくと、特徴的なパターンが現れます。その中でも基本的なのが、
バランス・ループ
拡張ループ
の2つ。
どちらもループ状の因果関係で、上図では「資金不足-借金」の2者間の関係がバランス・ループ、「資金不足-借金-借金返済」の3者間の関係が拡張ループです。
バランス・ループというのは、(S)と奇数個の(O)によって構成されるループで、一定の状態を保とうとする作用があります。「借金をすれば、資金不足はおさまるのでそれ以上の借金は必要なくなる」というわけです。これがバランス・ループです。ネガティブ・フィードバックと言って通じる方はそう理解してもらって大丈夫です。
一方、拡張ループは(S)と偶数個の(O)によって構成されるループで、雪だるま式に膨れようとする作用があります。「借金をすると、利子つきで返さなければならなくなるから、いずれもっと資金不足になる」というわけです。これが拡張ループで、ポジティブ・フィードバックになります。
こんなふうに、現実世界のしくみ、現象を要素に分解して、それら相互の因果関係を抽象モデル化して矢印で表現することで追跡しやすくするのがシステム思考の因果ループ図という手法です。ただそれだけのものなので、別に難しいところはありません。ありがたがらずにどんどん使いましょう。
手法、なんてものはガンガン使って慣れるが勝ちです。続きます。
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