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技に溺れず、技の向こうにある「世界」をイメージするということ
»2012年7月12日
開米のリアリスト思考室
技に溺れず、技の向こうにある「世界」をイメージするということ
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
21世紀初めのある日、あるとき、ある場所に。
数ヶ月ぶりの再会を祝う男と女の姿がありました。二人はかつて同じ職場で働き、お互いの才能も性格も熟知している友人同士でした。
男「とりあえず、元気なようでなにより。乾杯!」
女「乾杯! ありがと。あなたもね」
男「まあ俺は酒が飲める程度にはぼちぼちやってるよ」
女「そうみたいね。相変わらず子供っぽいよね」
男「にゃにおう!」
女「あは、そーいうところ。変わんないなあ」
男「まあそいつはおいといて、ひとつ聞きたいことあるんだけど」
女「なに?」
男「小学校の時から頭よかった?」
そう聞かれると彼女はちょっと困ったような顔を見せたものの、彼に対して今更謙遜してみせるのも意味がないと思ったのか、すぐにうなずきました。
女「まあ、そうね。でもなんで?」
男「いや実はこのごろ、変な話だけど『天才的』な人に会う機会が多くて」
女「天才的な人?」
男「そう。うわこの人マジすげえ、なにをどうすりゃこんなアイデア出てくんの? みたいに思えちゃってしゃーない、そんな人」
女「へえー」
男「そういう人を立て続けに見てたら、なんか興味涌いてきて。で、俺がざっくばらんに話を聞ける相手で一番、天才的なの誰だろう? って考えたら君だったわけだ」
女「かなり返事に困る話なんだけど、それ(笑)」
男「あ、困る? いや、それでね、気になってるのは、勉強の仕方が何か違うのかな? ってこと」
女「勉強の仕方・・・」
オウム返しにそれだけつぶやいた彼女ですが、何か思うところはありそうな様子です。
男「たとえば小学校では勉強に苦労しなかった?」
女「・・・まあね、授業は全然聞く必要なかったし」
男「それで、いつも全校一番?」
女「そう。中学もね。高校でもほとんどそうだったよ」
男「ほえ~」
女「なに口あんぐりしてんのさ!」
男「いやあ、すげえなあと思ってさ」
女「まあ、いいわ。それで、勉強の仕方って言われると・・・そうねえ・・・」
男「何か違う?」
女「ひとつ違うなあと思ってたのは・・・」
男「うんうん、なになに?」
女「同級生のほとんどは教科書を勉強してたけど、私は世界を見てた、っていう感じはするわね」
男「世界を? 世界を見てた?」
女「世界っていってもグローバリズムとかじゃなくてね。なんていったらいいかなあ・・・ たとえば物理学ってあるじゃない? あれはモノとモノがぶつかるときにどう動くかを観察して見つけた法則をまとめた学問なわけでしょ?」
男「そ、そうなのか」
女「そうなのよ。それでね、昔はわかんなかったけど今思うのはね、私は教科書覚える気ぜんぜんなくて、世界がどう動いてるか知りたかったの」
男「世界がどう動いてるか・・・」
女「そう。世界がどう動いてるか知りたかった。そのための手がかりが物理の法則だったから、勉強してた、そんな感じ。だから教科書も試験も点数もどうでもよかったのね。ただ知りたいからやってた。そうしたらテストの成績もついてきた、ってわけ」
男「そ、そういう感覚でやってるのは君だけだったってこと?」
女「私だけでもないけど、すごく少なかったのは確かよ。1学年に数人っていう感じ」
男「そういうの、わかるんだ?」
女「誰がそうかはだいたいわかったわね」
男「そういう人たちがその『天才的』なのかな?」
女「『天才的』の意味によるけど・・・教科書に書いてないアイデアが出てくるっていう意味でなら、そうかもしれない・・・。自分の目で対象を見て考えてるから、いろんなこと思いつくわけよ。教科書から公式探してるだけの人とは違う発想が出てくるってのは言えると思う」
男「そうかあ・・・いや、わかるようなわからんような・・・」
★ ★ ★
女「そこなんだけどね、こういう感覚あなたもわかってそうな気がするんだけど?」
男「俺が? 俺に?」
女「あなたさ、音楽やるじゃない?」
男「やるけど、でも、一時期セミプロやってたっていうだけのただのアマチュアだぜ?」
女「私は音楽やらないからわからないけど、あれもただ楽譜なぞって弾いてる人と、本物のミュージシャンじゃ全然違うんじゃないの? そういう感覚、ない?」
男「あ、あー・・・・・そうか!! うん、違う、全然違う!!」
女「やっぱり違う?」
男「そりゃもうね、全然違う。いや、うん、よくわかった。確かにね、演奏のテクニックはそりゃ大事なんだけど、ただ単にテクニックだけ磨いて指が動くようになっても意味ないんだよ。『うん。君上手だね。で、だから何なの?』みたいなことになっちゃうんだよな」
女「上手だね、で終わっちゃう・・・」
男「うん。楽譜通りに弾けるテクニックだけじゃ音楽としてワクワクドキドキするものには絶対ならない。でもテクニックに走っちゃう人がすごく多い・・・」
女「教科書通りできてもダメって話に似てるかもね」
男「あ、それだ! それ! 世界だよ、世界!」
女「世界?」
男「さっき言ったじゃん、物理の話で。世界がどう動いてるか知りたいから、そのための手段で物理やるんだって」
女「うん」
男「音楽もさ、それなんだよ。昔すごい有名なピアニストの話聞いたことがあるんだけど、その人が名門の音楽学院に留学したとき、一時期テクニックに走っちゃって怒られたことがあるっていう話」
女「テクニックに走っちゃって怒られた?」
男「そう。なんたって名門だからさ、まわりはみんな凄いレベルなわけよ。で、自分がテクニックで負けてるような気がして必死に練習したんだって。ところがそれやってたら教官に、おまえはいったい何をやってるんだ!! と。ガツンとやられた」
女「あらら・・・で、どうなったの?」
男「大事なのは、『おまえが音楽でどんな世界を見せたいのか、その世界観を磨くことだ』、っていうわけ。音楽はそのための手段でしかない。自分が見たい世界、人に見せたい世界のない奴にはいい音楽は作れない。それがないままで超絶技巧磨いても一流にはなれん!! とガツンとやられたそうな。で、それで目が覚めた、と」
女「へえー!! おもしろい!!」
男「だろ? 世界を知るための手段として物理を学ぶのと似てるよな、これ」
女「似てる似てる。うん。本質そういうことだと思う」
「小学校の時から頭よかった?」という、答えづらい問いから始まった会話ですが、終わってみれば二人とも、今まで気づかなかった真実を手にしたような、そんな晴れ晴れとした思いでした。
21世紀初めのある日、あるとき、ある場所で。
そんな会話があった・・・・のかもしれません。
数ヶ月ぶりの再会を祝う男と女の姿がありました。二人はかつて同じ職場で働き、お互いの才能も性格も熟知している友人同士でした。
男「とりあえず、元気なようでなにより。乾杯!」
女「乾杯! ありがと。あなたもね」
男「まあ俺は酒が飲める程度にはぼちぼちやってるよ」
女「そうみたいね。相変わらず子供っぽいよね」
男「にゃにおう!」
女「あは、そーいうところ。変わんないなあ」
男「まあそいつはおいといて、ひとつ聞きたいことあるんだけど」
女「なに?」
男「小学校の時から頭よかった?」
そう聞かれると彼女はちょっと困ったような顔を見せたものの、彼に対して今更謙遜してみせるのも意味がないと思ったのか、すぐにうなずきました。
女「まあ、そうね。でもなんで?」
男「いや実はこのごろ、変な話だけど『天才的』な人に会う機会が多くて」
女「天才的な人?」
男「そう。うわこの人マジすげえ、なにをどうすりゃこんなアイデア出てくんの? みたいに思えちゃってしゃーない、そんな人」
女「へえー」
男「そういう人を立て続けに見てたら、なんか興味涌いてきて。で、俺がざっくばらんに話を聞ける相手で一番、天才的なの誰だろう? って考えたら君だったわけだ」
女「かなり返事に困る話なんだけど、それ(笑)」
男「あ、困る? いや、それでね、気になってるのは、勉強の仕方が何か違うのかな? ってこと」
女「勉強の仕方・・・」
オウム返しにそれだけつぶやいた彼女ですが、何か思うところはありそうな様子です。
男「たとえば小学校では勉強に苦労しなかった?」
女「・・・まあね、授業は全然聞く必要なかったし」
男「それで、いつも全校一番?」
女「そう。中学もね。高校でもほとんどそうだったよ」
男「ほえ~」
女「なに口あんぐりしてんのさ!」
男「いやあ、すげえなあと思ってさ」
女「まあ、いいわ。それで、勉強の仕方って言われると・・・そうねえ・・・」
男「何か違う?」
女「ひとつ違うなあと思ってたのは・・・」
男「うんうん、なになに?」
女「同級生のほとんどは教科書を勉強してたけど、私は世界を見てた、っていう感じはするわね」
男「世界を? 世界を見てた?」
女「世界っていってもグローバリズムとかじゃなくてね。なんていったらいいかなあ・・・ たとえば物理学ってあるじゃない? あれはモノとモノがぶつかるときにどう動くかを観察して見つけた法則をまとめた学問なわけでしょ?」
男「そ、そうなのか」
女「そうなのよ。それでね、昔はわかんなかったけど今思うのはね、私は教科書覚える気ぜんぜんなくて、世界がどう動いてるか知りたかったの」
男「世界がどう動いてるか・・・」
女「そう。世界がどう動いてるか知りたかった。そのための手がかりが物理の法則だったから、勉強してた、そんな感じ。だから教科書も試験も点数もどうでもよかったのね。ただ知りたいからやってた。そうしたらテストの成績もついてきた、ってわけ」
男「そ、そういう感覚でやってるのは君だけだったってこと?」
女「私だけでもないけど、すごく少なかったのは確かよ。1学年に数人っていう感じ」
男「そういうの、わかるんだ?」
女「誰がそうかはだいたいわかったわね」
男「そういう人たちがその『天才的』なのかな?」
女「『天才的』の意味によるけど・・・教科書に書いてないアイデアが出てくるっていう意味でなら、そうかもしれない・・・。自分の目で対象を見て考えてるから、いろんなこと思いつくわけよ。教科書から公式探してるだけの人とは違う発想が出てくるってのは言えると思う」
男「そうかあ・・・いや、わかるようなわからんような・・・」
★ ★ ★
女「そこなんだけどね、こういう感覚あなたもわかってそうな気がするんだけど?」
男「俺が? 俺に?」
女「あなたさ、音楽やるじゃない?」
男「やるけど、でも、一時期セミプロやってたっていうだけのただのアマチュアだぜ?」
女「私は音楽やらないからわからないけど、あれもただ楽譜なぞって弾いてる人と、本物のミュージシャンじゃ全然違うんじゃないの? そういう感覚、ない?」
男「あ、あー・・・・・そうか!! うん、違う、全然違う!!」
女「やっぱり違う?」
男「そりゃもうね、全然違う。いや、うん、よくわかった。確かにね、演奏のテクニックはそりゃ大事なんだけど、ただ単にテクニックだけ磨いて指が動くようになっても意味ないんだよ。『うん。君上手だね。で、だから何なの?』みたいなことになっちゃうんだよな」
女「上手だね、で終わっちゃう・・・」
男「うん。楽譜通りに弾けるテクニックだけじゃ音楽としてワクワクドキドキするものには絶対ならない。でもテクニックに走っちゃう人がすごく多い・・・」
女「教科書通りできてもダメって話に似てるかもね」
男「あ、それだ! それ! 世界だよ、世界!」
女「世界?」
男「さっき言ったじゃん、物理の話で。世界がどう動いてるか知りたいから、そのための手段で物理やるんだって」
女「うん」
男「音楽もさ、それなんだよ。昔すごい有名なピアニストの話聞いたことがあるんだけど、その人が名門の音楽学院に留学したとき、一時期テクニックに走っちゃって怒られたことがあるっていう話」
女「テクニックに走っちゃって怒られた?」
男「そう。なんたって名門だからさ、まわりはみんな凄いレベルなわけよ。で、自分がテクニックで負けてるような気がして必死に練習したんだって。ところがそれやってたら教官に、おまえはいったい何をやってるんだ!! と。ガツンとやられた」
女「あらら・・・で、どうなったの?」
男「大事なのは、『おまえが音楽でどんな世界を見せたいのか、その世界観を磨くことだ』、っていうわけ。音楽はそのための手段でしかない。自分が見たい世界、人に見せたい世界のない奴にはいい音楽は作れない。それがないままで超絶技巧磨いても一流にはなれん!! とガツンとやられたそうな。で、それで目が覚めた、と」
女「へえー!! おもしろい!!」
男「だろ? 世界を知るための手段として物理を学ぶのと似てるよな、これ」
女「似てる似てる。うん。本質そういうことだと思う」
「小学校の時から頭よかった?」という、答えづらい問いから始まった会話ですが、終わってみれば二人とも、今まで気づかなかった真実を手にしたような、そんな晴れ晴れとした思いでした。
21世紀初めのある日、あるとき、ある場所で。
そんな会話があった・・・・のかもしれません。