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「戦後史の正体」の正体:イラン革命についての革命的(?)新説

「戦後史の正体」の正体:イラン革命についての革命的(?)新説

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 社会人の文書化能力向上研修を手がけている開米瑞浩です。
 あけましておめでとうございます。

 憲法改正デマの話を一旦おいといて、今日はこういう本の書評でもしましょう。

戦後史の正体 孫崎享 著


著者の孫崎享(まごさき・うける)氏は外務省で駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て防衛大学校でも教授をつとめた人物。元・国際情報局長です。防衛大学校教授です。期待できそうじゃありませんか。

と思ってこの本を読んでビックリしたのが、たとえばこういう記述です。

(「戦後史の正体」p157 の内容を要約)
冷戦たけなわのころ、アメリカはイランのパーレビ国王を支援していたが、パーレビは次第に大国の首脳のようなふるまいをするようになり、アメリカは彼を切ることを決めた。そして米国が背後から支援して、イラン革命が起こった


・・・・ちょっと絶句するような新説です。コーヒーを飲んでる時にこれを読んだら思わず盛大に吹きだすぐらいの驚天動地の説。「な、な、なんだってー!!」と2ちゃんのAAでも貼りたいぐらいです。

ところが、その根拠を孫崎氏は何も書いていません。


もしこれが正しいのであればこんな本でたった3行でさらりと書くような話じゃないです。コペルニクス的転回、というぐらいに東西冷戦史の見方が変わる話なんですが、そういう重大事を孫崎氏はあっさりさらりと主張しています。

実はこの孫崎享という人物、国際政治・軍事情報クラスタの間では、根拠薄弱なトンデモ説を振りまくことで以前から有名でした。私も2年ぐらい前からそれを知っていました。

とはいえ、トンデモ説をふりまく人物はどこにでもいます。いちいち気にしてもしょうがない。

と、ほっといたのですが、どうもこの「戦後史の正体」がベストセラーになっているようで、私の知人の間でも読んだという声がちらほらと・・・

そんなわけでここに書くことにした次第です。

で、イラン革命についてです。孫崎氏は「1979年のイラン革命はアメリカが背後から支援して起こしたものだ」と書いていますが、それを主張するならその根拠を示してもらいたいものです。

一般的には、イラン革命は、アメリカにとっての中東戦略上の重大な誤算であり失策だったというのが通説です。その通説を覆すのであれば、根拠を示してもらわなければなりません。

逆に、「誤算であり失策だった」ことを示す根拠はいろいろとあります。

  1. アメリカはイラン革命後、イランの在米資産を接収しています。
  2. パーレビ国王は革命後、アメリカに亡命しましたが、このことがイラン革命政権の反発を招き、1979年末にイランのアメリカ大使館人質事件が起きました
  3. パーレビ政権が西側に発注していた兵器等の装備は革命後すべてキャンセルされました
  4. 1976年から、アメリカ大統領はジミー・カーターでした。カーターは牧師でもあり「人権外交」を標榜した人物で、謀略嫌いでも知られています。とてもその種の陰謀工作が出来る人物ではありません。カーターはCIAの予算削減をして諜報能力を落としてしまい、それがイラン革命の見逃しおよび大使館人質救出作戦の失敗等にも響いたというのが一般的な評価。

そんなわけで、このへんの経緯を考えると、「アメリカが背後から支援してイラン革命を起こさせた」などという説が成り立つとはとても考えられないわけです。

したがって、孫崎享が「イラン革命のアメリカ陰謀説」を主張するなら、それに見合った根拠が必要なのですが、なにもなし。なにしろたった3行で終わってますからねえ・・・

とはいえ、こういう説を唱えているのは実は孫崎氏だけではないことを思い出しました。

"イラン革命を起こしたアメリカ" by 田中宇 2008/7/31

田中宇(たなか・さかい)というのも国際政治・軍事情報オタクには有名な(名前が出ただけでプゲラと笑われるような)トンデモジャーナリストでして・・・・まあ、「イラン革命のアメリカ陰謀説」というのは、そういう種類のネタなんですよ。

このイラン革命の話はほんの一例で、「戦後史の正体」は根拠薄弱な陰謀論全開の本です。読むなら、そういう見方があることを念頭に置いて読んでみてください。

参考までに、孫崎本についてそういう指摘をしている他の書評やまとめを貼っておきます。

"孫崎享「戦後史の正体」における普天間問題に関する記述について: 麦茶で一服"
"現在進行形の、いくらでも検証資料が手に入る事案でさえもこのように微妙に本当の事をまじえながら嘘をついているという事は、この本の大部分を占める歴史上の記述も、ご自分の都合の良いように微妙に本当の事を交えながら嘘をついていると確信させられます。"

"孫崎さんの主張のトンデモ具合について - Togetter"

"孫崎享氏の「戦争論」 - Togetter"  (コメント欄に注目)

"褌け! 佐々木俊尚さん、朝日新聞で孫崎某の陰謀本書評を一部削除される: やまもといちろうBLOG(ブログ)"
いや、実際にこの本はまあだいたいそういう内容です。本書においてアメリカの意図によると考えられる政界捜査は、昭電疑獄とロッキード事件を取り上げておるわけですが、その方面について分かっている人は「孫崎某は馬鹿か。いい加減にしろ」と突っ込みながら読み、


 とりあえず、以上でございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

・・・・・(続かない、はず)