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中国へのソフトウエア委託開発の現状と課題

中国へのソフトウエア委託開発の現状と課題

鈴木 啓一

フリーランスのライター、IT先端技術コンサルタント。モバイルやクラウドを駆使するスマートワーク研究をライフワークとしている。

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昨日(9月26日)都内で開かれた「日中サービスアウトソーシング企業懇談会」に出席したので、今日はそのレポートをお届けしたい。

●日中サービスアウトソーシング企業懇談会





この会合は、中国商務部服務貿易和商務服務業司の主催でおこなわれたもので、主に「ソフトウエア開発の中国へのアウトソーシング」を活性化する目的で、中国からの訪日団と日本企業の交流を目的にしている。

尖閣諸島問題から、日中関係がぎくしゃくている中、主催側の説明によると、このような訪日団を招く会合はかなり久しぶりだそうだ。

冒頭、中国大使館の参事官が挨拶をし、商務部の役人が講演をするなど、中国政府が直接関わり、中国企業のソフトウエア開発受注を積極的に売り込む、そういう場である。


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写真 冒頭の、中華人民共和国日本国大使館経済商務参贊処 経済商務処 参事官  羅暁梅氏の挨拶の様子。

プログラムは、その後、中国服務貿易協会 執行役副会長 赵中屹氏、中華人民共和国商務部 副処長 贾峭羽氏ほかの講演があり、なかなか中身が濃く、勉強になった。


●ソフトウエア開発アウトソーシング先としての中国~まさに変革のとき

特に印象に残った贾峭羽氏の講演の部分をピックアップしてみよう。

贾峭羽氏によると、アウトソーシング市場において、中国から見た日本のクライアント企業、つまり、アウトソーシング先に中国を選び開発業務を委託するような企業のことだが、そのスタイルは「ピラミッド型」だという。贾氏は、このニュアンスをはっきりは言葉にしなかったが、私には、日本企業が、ピラミッドの上から、下にいる「下請け会社」として中国の会社を使っている姿が、すぐに浮かんだ。委託先に有無を言わさず、「この仕様をこの納期で仕上げなさい」という、上から下への業務委託の姿だ。

贾氏は、言葉を選びながら、「業務をやっていく中で信頼関係を築くのが重要」と述べた。私も全く同意見だ。

私も、5年ほど前、当時在籍していた会社で、中国の企業をアウトソーシング先として選び、開発を成功させ、大いにお世話になった経験がある。そのとき、私は、彼ら、中国のエンジニアを自然に尊重し、彼らの能力を引き出す形での業務委託をした。私にとっては自然なもので、特別なものとは思っていなかったのだが、妙に委託先から私の評価が高く、逆にとてもびっくりした経験がある。中国の技術者を、手足として使うのではなく、頭脳として使うこと。たったそれだけのことなのだが。

そして、実にそのときの開発の成果は、国内に同様の案件を発注した成果が思わしくなかったのに対し、この中国の会社が予想以上にレベルが高く、軽々と私の提示した目標を、半額の開発費で達成してしまった事例として、私の心の中にしっかりと残っている。

もしかして、贾氏は、私の勘が当たっていればだが、私のように、中国の企業を「下請け」ではなく、「パートナー」として使うアウトソーシングの姿を、日本の顧客企業に対し望んでいるのではないかと思っている。

中国の技術者たちのレベルが上がれば、当然、報酬も上がる。今、もうひとつの問題として、これまで開発コストを抑える目的で中国をアウトソーシング先に選んできた日本企業が、人件費の高騰により、中国を選びにくくなっているというのだ。

さもありなん。
先に述べたように、彼らのレベルが大変高くなっているのだから。

ここで、私も改めて時代の「変革点」を感じざるを得なかった。

贾氏以外の登壇者からも、詳細は省略するが、異口同音で、同じ「変革点」の指摘と提言があった。


●発注側、受注側、双方の課題とは?

登壇者の提言とも重なるが、この変革点をむかえ、私も、中国側、日本側、双方に課題があると思う。

特に日本側は、先に述べたような、中国のレベルの高いソフトウエア開発会社を、下請けとしてではなく、開発戦略パートナーとして扱う必要がある。アウトソーシングは、日本国内で開発者が不足していることを補う存在や、開発コスト削減の目的だけではないはずだ。

中国側も変わる必要がある。手足としてコーディングするだけでない、自分たちの実力を上手にアピールしなければならない。

中国は、世界のコンピュータの工場として、人件費の安さを武器に発展してきたが、人件費の高騰により工場は東南アジアへとシフトを始めている。
そして、「ソフトウエア工場」としても、同じことが起きているのだ。

まさに、日中のソフトウエア開発においても、新しい関係をお互いに模索し、お互いが発展できる道を選択していくべきと考えるが、皆さんはどう思うだろうか?