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あらかじめ閉ざされた市場への参入~2~

あらかじめ閉ざされた市場への参入~2~

倉澤 コイ

40代、仕事を持った腐女子。 某ジャンルにハマり09年夏に初めてコミケという場所に赴く。 さらに同人デビューを画策、悪戦苦闘の日々。

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その存在や魅力を全く知らない人々に向かって
「ここにこんな素晴らしいものがありますよ!
 是非ご覧になってください、そして買ってください。お勧めです!」
と、広くあまねく世間に宣伝して購買欲をそそる、
といった、前世紀的なマーケティングはそこにはない。
腐女子たちは、
その良さを知らない、解らない人々を啓蒙する気などさらさらないのだ。
「私が思うこの良さを理解してくれる人に届けばいい」と思っている。
しかし同時に、
「その数が多ければ尚、素晴らしい」とも思っている。

 

検索避けは推奨されてはいるが、
もちろん強制ではないので、
「そんなもん知らん、面倒くさい」
と我が道を突き進むこともできるのだが、
(実際、検索避けについてはいろいろな議論があるようだ)
私はその仁義に添うことにした。
そのほうが結果的にはより多くの同胞に届くだろう、
と判断したのだ。

なぜならば、
検索避けして同じジャンルのサイトからリンクを貼られるほうが、
検索避けをしないで、不特定多数の人間の目に触れるより、
より効率的な結果がでるだろう、と思ったからだ。
検索で出ないで、どうやってアクセスをしてもらうのか、
というと、そこには「限定された入り口」がある。
「サーチサイト」というリンク集と、
「個人サイトのブックマーク」というリンクだ。

サーチサイトというのは同じジャンルの
(規模の大きいジャンルになるとさらにキャラごとに分かれていたりする)
二次創作サイトをリンクしたサーチエンジンだ。
サイトマスターはそこに自分のサイトのデータを登録して、
同じものが好きな腐女子たちが見つけてくれるのを待つ。
探す側としては、
そこからたどり着いたお気に入りサイトから
そのサイトマスターが気に入ってリンクを貼っているサイトに飛ぶ、
という風にサーフして、嗜好の合うサイトを発掘していく。
こういった手順を面倒くさいと思う者はそこにはいない。
ぼーっとテレビを見ていて画面に映ったものに興味を示す、
といった受動的な態度ではなく、大変に能動的で行動的だ。
腐女子たちはそれが自分の求めているものなのか、違うのか、
直感的に判断し、選択していく。
そこでは、あらかじめ限定された需要にたいして
あらかじめ限定された供給がなされているのである。

とにもかくにも、
古臭いウェブ構築ソフトを使って、
なんとかサイトを立ち上げた私は、
とりあえず、規約のゆるいサーチサイトに登録してみた。
しかし、そう簡単にアクセスがのびるものでもない。
それでも楽しい。
誰かからやれと言われたわけでもないことに
エネルギーを注ぎ込む。
それが楽しい。
なぜなら、自分のサイトの一番の客は自分自身なのだ。
「自己満足ではないか」と問われれば「その通りです」ということになる。
その自己満足の産物に共鳴してくれる誰かを待って、
私はひっそりと、生物がどのくらいいるのか解らない深海に釣り糸を垂らしてみた。