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世は変わっても上司はやっかい【一次選考通過作品】

世は変わっても上司はやっかい【一次選考通過作品】

「誠 ビジネスショートショート大賞」事務局

ビジネスをテーマとした短編小説のコンテスト「第1回 誠 ビジネスショートショート大賞」(Business Media 誠主催)。ここではコンテストに関するお知らせや、一次選考を通過した作品を順次掲載していきます。


 21世紀の日本では少子化って騒がれてたらしいけど、2232年の日本は10億人もいるって、あの頃の人はたぶん想像もでけへんかったやろな。ただ"人"って数えていいのか、良う分からんけど。

 僕は、いま勉強をしてるんや。来月の人事異動でやってくる上司対策のために。

 ちょっとぶつくさ独り言をいうけど、これが僕の勉強スタイルやよって、しばらく我慢してな。

 ふんふん。上司対応の歴史な。

 1985年に男女雇用均等法ができて、女性上司への対応方法や、男性部下を持つ女性の心構え、なんてことが話題になってたんやねえ。

 昔の人は、そんなこと気にしてたんやなあ。でも逆に、その頃の日本の男は偉かったんかもしれんな。ちょっと憧れるわ。

 1990年代以降は、外資系企業が大挙して進出してきて、外国人上司にどう対応するかなんてことが、こんどは話題になってたんかぁ。

 同じ地球人やん、そんなん。ああ、でも英語とか勉強せんとあかんかったんやな。今はそんなんまったくいらんもんなあ。

 宇宙人が来たんは、2124年やった。「ふいににしから宇宙人」って覚えるんや。学校で習ろた。

 昔の人は、宇宙人が地球に来るからには、侵略に来ると思ってたんやね。ところが、宇宙ではそんな乱暴なことはもう流行らへんってことで、平和な取引が主流になってたんや。

 日本にとって、ほんまラッキーやったんは、そのα星雲から来たとかいう宇宙人たちの言語が、大阪弁そっくりやったこと。偶然ちゅうのはあるんやね。姿かたちも日本人似てた。ただ、目と髪の色が緑やっただけ。

 そのおかげで、初期の頃の宇宙人との交易は日本がほぼ独占してたんや。これは本当に助かったとひいおじいちゃんなんかは、よう言うてる。そう、今はなかなか死なへんねん。平均寿命は120歳ぐらい。

 やつらも、日本が気に入ったみたいで、住み着いてしもた。日本のほうも言葉が違う外国人よりも、言葉が同じ宇宙人の方がいいということになって、積極的に宇宙人を受け入れたんや。

 その頃は、日本の人口も4000万人ぐらいになっていて、背に腹は代えられへんって感じやったんやろね。

 当然日本の企業に就職する宇宙人も出てきた。そしたら、やつらのほうが優秀なもんで、どんどん出世して、すぐに宇宙人上司っていうのが出てきよったんや。

 まあ、姿かたちも言葉も、それにメンタリティも似てたんで、あまり摩擦はなかったらしい。ただ、宇宙人上司は要求水準が厳しくて、当時の日本人は1日の半分は勉強しないと追いつかへん。それで神経をやられたり、鬱になったりする人がたくさん出たんが社会問題になったらしい。

 今は、宇宙人たちの作った教育カリキュラムで僕らは育ってるから、そんな苦労はないけどね。おかげで、日本は圧倒的な経済大国として復活したってわけや。

 ちなみに、僕がこんな言葉で話してるんは、宇宙人の言葉が標準語になったからやねん。

 さて、そこまでは良かったんやけど、情報工学や機械工学なんかも進んでしもて、人間並み、いやそれ以上のロボットができちゃってん。

 2140年代には、とうとうロボット上司なんてのが出てきた。こいつらがまた、人権意識が強うて、とうとう人権まで獲得しちゃってん。そんで、人口の中にロボットも含まれるようになったんやね。

 勝手に増えへんからええかと思ってたら、そのうち自分たちでロボットを作りだすようになったんで、こっちもどんどん増えてった。

 そのうち生物学の分野で、あほなことをやってしもたんや。猿に知性をつける実験なんて、やめときゃええのに。もうお分かりやろけど、猿の上司が現れてん。これが、2210年代のことや。もちろん人口に入ってるよ。

 こういう流れって止まらへんねんなぁ。

 来月、僕の部署に来る上司は、犬なんや。その対策本を読んでたんよ。

 なになに、犬は上下関係に厳しいから、まずそこを理解しようやて。

 いややなぁ。昼飯とかも上司より先に食べたら、ほえられたりするんやろなあ。

 そんでも、今月でお別れの猫の上司も大変やった。叱られるときはネコパンチやし、気に入らないとすぐに書類を爪でずたずたしよった。トイレの掃除も部下の仕事やねん。今の上司は1日3回砂を入れ替えないと気に入らないんで、マジでまいったわ。

 でも、ひいばあちゃんが、猫の飼い主なんて猫の奴隷みたいなもんやったっていうから、昔から変わってへんのかもしれん。

 それそろ日本人の上司がほしいけど、日本人の管理職って1%ぐらいしかおらんもんで、滅多に当たらへんのや。

(投稿者:保志貧一)

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【事務局より】「第1回 誠 ビジネスショートショート大賞」の一次選考通過作品を原文のまま掲載しています。大賞や各審査員賞の発表は2012年10月17日のビジネステレビ誠で行いました。