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チャラビズ【一次選考通過作】
「誠 ビジネスショートショート大賞」事務局通信
チャラビズ【一次選考通過作】
ビジネスをテーマとした短編小説のコンテスト「第1回 誠 ビジネスショートショート大賞」(Business Media 誠主催)。ここではコンテストに関するお知らせや、一次選考を通過した作品を順次掲載していきます。
「はじめまして。どうぞよろしくお願いします」
あ、ちわっす。どもども。よろしく。
「えーと、それでは早速、おうかがいしますが、現在あなたはどようなお仕事を?」
あ、今は何もやってないって言うか、いわゆる充電中?ってか。自分、ちょっと前まで、資産運用やってたんすよね。 親がくれた小遣いが結構あったもんで。でもほら、ちょっと景気がアレなもんで、だいぶ目減りしちゃったんで今は凍結中って言うか。でも世の中こんなだから、仕方がないっすよね?
「ああ、そうですか。わかりました。それでは、これまでの職歴とか資格について教えてください」
あ、自分は他人の下についての仕事って、ちょっと違うかなとか思ってて。職に就くとか、資格とか、そう言うのは最初からノーチョイスで。 ま、将来のために経験を積みたいって言うか。上場会社の社長さんとお話したこともあるんスけどね。アンタら、ちょっと経営の考え方がぬるくね?とか意見しちゃったんですけどね。自分の考えは曲げられなかったんで。うん、何でも言っちゃいますね、自分。いや、そう言う人間なんで。ポリシーっていうか。
「はい、就業経験はなしで、資格もなし、と。それでは、現在は?」
ああ、ちょっとしばらくダレちゃったんスけどね。自分、行動はすごい出来る人なんですけどお、すぐ飽きちゃうって言うか。 がーっとやる時は、エネルギー全開でいっちゃうんすよ、自分。だけど、すぐに他に目がいっちゃうって言うか。 うん、新しいことにしか感心ないすからね。
そうそう、自分探しに行ってたんすよ、学生の時は。あ、高校の雰囲気合わなかったんで、途中で辞めちゃったんすけど。 まあ、自分にとってメリットなかったって言うか。学校で勉強しなくたって、勉強なんてどこでも出来ますよね?大学なんて行ったって、皆、遊んでるじゃないすか。そんな回り道するよりは、早く会社起こしてガッツリ儲けたいって言うか。これからの世の中、学歴じゃないと思ってるんで。叩き上げでも、政治家になってる人もいますよね?まあ、リーダー目指すなら最終的に政治家?って選択肢もあるかな、みたいな。国を動かすってカッコいいすよね。そんで、今みんな職がないじゃないすか。だから、起業ったら、すぐ百人くらい雇ってやりたいすよね。 ああ、それから自分、ボランティアもやってて。公園の空き缶拾いとかもやって。人が喜ぶことをやりたいんすよね、最終的に。あ、NPOとかもやりたいす、うん。
「あの......、今回はベンチャー起業での融資のご相談と言うことですよね。具体的な起業プランや将来的な事業計画書は作られました?」
え、起業の内容っすか?んー、それはこれから見つけようと思ってるんすよ。大体、頭ん中には画は出来てるんすけどね。まあ、自分、人を集めるのは得意って言うか。何かみんなをばーっと集めて、自分がヘッドで、があーっとウェーブを起こすって言うか。「イノベーションは誰がリーダーで、誰が追随者かをはっきりとさせる」バーイ、ジョブズ。なんてね。
トレンドに乗る方じゃなくて、発信する方になりたいって言うか。ま、リスクってないと思うんすよね。自分、どんな困難でも乗り切れる自信あるし。
「その......、考え方が、だいぶ軽いように思われるのですが......」
あ?ああまあ、いい意味でライト?って言うか。軽妙? うん、持ち味っすかね。
「それでは、その『頭の中で出来ている画』のために何か今、ご自分で努力されてることとか、ありますか」
んーと。ああ、友人と色んなところ行って、色んなものを見たりして自分のものにしてるって言うか。あ、友人と一緒にフットサルやったりしてるんすけど。あ、関係ないすね。そうそう、自分、尊敬してる先輩がいるんすよ、経験豊富な。バーテンやってるんすけどね。自分の店を持って、好きな音楽かけて、自分の見つけてきた酒を揃えて。お客さんにも尊敬されてるんすよ。
「ご立派な先輩さんですね。その方は、ご自分で努力してそこまでなられたのでしょ?」
やっぱ才能?って言うか。まあまあ良くやってるな、とは思うんすけどね。ま、自分だったらもうちょっと事業拡大できてるかな、みたいな。そうそう、あと自分、環境とかにも興味あって。ストップ温暖化ってやつっすか。地球に優しい行動を取るのがトレンドって言うか。その辺りでビッグな商売もできるかな、とか。あ、儲けて余った金は寄付するって言うか。何をやるにしても、基本、常に自分のやりたいことをやっていきたいんすよ。
「んー、そのやりたいことをどうして今、具体的に出せないのですか?」
だーかーらあ、それは、これから見つけていきたいって言ってるじゃないスかあ。
「あの、これからの具体的な行動計画を、もう一度お聞きしたいのですが?」
だからあ、今はゆっくり世の中を眺めているんですよ。充電中って言ったじゃないすか。色んな人と出会って、吸収したいって言うか。まだ自分、若いし、可能性無限大と思ってますから。「経営者は、その企業の将来について、もっと時間と思索を割くべきである」バーイ、ドラッカー。なんてね。
「あなた......本気で生きてらっしゃいますか?」
え?自分? あ。いつもガチっすよ。でも自分、本当の本気出したら凄いっすから。無限の才能って言うか?自分で自分の気づいていない才能がまだ眠ってるって言うか?うん。多分、時代が自分に追いついてきたら覚醒すると思うんすよ。まだ、トリガー引かれてないって言うか。 まあいつか、そう言う時が来ると信じてるんすよ。
「なるほど、ご主旨はよくわかりました」
アレっすかね?こう言うのって、最初にどんだけ融資してくれるもんすかね?
「はあ?」
だからあ、出資金て言うの?どんくらい出してもらえるのですかね?五百万、いや計画の規模がデカかったら一千万円とか?
「何のお話でしょうか」
やだなあ、あんた投資をしてくれる人なんでしょ?今の自分見てこんぐらいならって、出してくれる金を計算してくれるんでしょ?早いとこサクっと頼んますわ。自分も忙しいんで、あまり時間とってらんないすよね。
「む......、この......お前は......。ふざけるなぁっ!お前みたいな世間知らずのバカに金を出すやつがいると思っているのかあっ!世の中をなめるのもいいかげんにしろっ!」
おっ?
「これ以上、お前なんかと話なんてしてられるかっ!この馬鹿ガキがあっ、......はっ?」
あ~あ。
「あ、......いや、つい興奮してしまって」
ブ―ッ。やれやれ、はい終了ね。あれだけ相手のペースに巻き込まれないようにって最初に釘を刺しておいたのになあ。
「いや、あの課長、申し訳ありませんでした。つい課長のバカぶり、いや演技に気を取られてしまって」
それが駄目だって言うんだよ。これが本番の客だったら台無しだよね。せっかくの上客を自分から手放すようなもんだよ。いいかい?今回のカリキュラムの設定は『資産家の親を持つスネかじりの放蕩息子』だったよね。
「は、はい。それで遊び金に窮して、起業で一発当ててやろうと目論んで融資をお願いしに来ていると言うレッスン11のパターンでした」
わかっているだろ?こんな馬鹿の起業話なんてどうでもいいんだ。適当におだてて融資を承諾する、そのためにこちらから事業計画書まで準備してあげる、仕上げに親の連帯保証を取らせ、契約書に実印を押させる。ここまでクリアして合格だったよな?
「申し訳ありません......。まだ修行が足りなかったです」
そんなんじゃ、この厳しい時代、新規顧客なんて取れないよ? まあいい。最初は誰でもそんなもんだよ。これから頑張れ。 それじゃあ復習をかねて、さっきの途中からやり直しね。
(投稿者:MANAMI)
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【事務局より】「第1回 誠 ビジネスショートショート大賞」の一次選考通過作品を原文のまま掲載しています。大賞や各審査員賞の発表は2012年10月17日のビジネステレビ誠で行いました。