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旅の追伸:ハーバードビジネススクールの先生たちってやっぱりすごいです。

旅の追伸:ハーバードビジネススクールの先生たちってやっぱりすごいです。

山崎 繭加

ハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アソシエイト。主に日本企業やビジネスリーダーに関するケース作成を行っています。

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それにしても、HBSの先生たちは、すごい。

まず、教えることにかける時間と情熱たるやハンパない。ケースメソッドというのは、何を言い出すかわからない生徒の発言をベースに、豊かな議論へと発展させ、そこから皆が学んでいくという教授方法。同じ先生で同じ教材で同じテーマを扱っても、クラスによって全く異なる議論になる。オーケストラの指揮者が、楽団員の一人一人の個性を活かし、さらにはその日の天気や場の雰囲気によって異なる演奏を引き出すようなもの。のだめとシュトレーゼマンのような感じ?

指揮者が楽譜を読み込み、作曲家のこと、その時代のことを学び、かつ音楽の基礎に精通しているように、HBSの先生も、ケースを読み込み、その会社や地域のことまで含めて広く学び、どんな質問をすればいいかを考え抜く。個人でも勉強するとともに、同じケースを教える先生の間でミーティングを繰り返す。

本番は、世界中から集まる、まあよく頭が切れること、口もよく回ること、といった生徒が勢ぞろい。おもいっきり生意気な90名を相手に、渾身の指揮を行う。どんなに準備したところで、即興の部分が大きいから、毎回が真剣勝負だ。顔と名前が一致するように、すべての先生の机の前の壁には、席順に(ちなみに円錐型の教室なのですべての生徒の顔が見える)生徒の顔写真と名前を書いた大きな紙が貼ってある。そんなのを週に2回。そして生徒がオフィスにやってきたらどんな時でも最優先で対応。

 

同時に、彼らは学問を追求する身。Assistant ProfessorからAssociate Professorへ、Associate Professorからテニュア(引退するまでポジションが確保されるという意味)のProfessorになるところで、それぞれとても厳しいふるい分けが行われ、そこでは研究の質が最も問われる。事業仕分けじゃないけど、それぞれの専門領域で世界でトップクラスでないといけない。

今回の出張中に、Faculty Research Symposiumといって、何名かの先生が自分の研究を他の先生の前で発表する会に参加させてもらった。めちゃくちゃおもしろかった。日々の授業の鍛錬でどの先生もプレゼンはお手のものなのだが、なんといっても内容が、新しくわくわくするような視点と非常に厳格なアカデミックなアプローチの両方がある発表ものばかり。そこで配られた、各先生の「今年のパブリケーション」という冊子をみると、多い人は本も書いてジャーナルのペーパーを数本書いたりしている。もちろんみな新しいケースも書いている。

 

研究・教育ともに、とてつもなく高いハードルをクリアし続けないといけない。そんな先生たちの、日々の過ごし方は、とてもストイックだ。朝早くから晩まで働いている。お酒を飲まない人も多い。ジムには熱心に通う。

常に頭はフル回転。でも、決してしんどそうではなく、内側からあふれ出る満タンな好奇心で、学び続け走り続けてる。その積み重ねが今の彼らを作っているんだろう。

 

しかも!さらにすごいのは、ルックスは感じのよい存在感があり、性格はびっくりするほどナイスだということ。心を込めて生徒に接し、常に人から世界から理論から真摯に学びつつけるという生き方が、こういう人たちを作るんだろうか。もちろんもともとの素質も大きいに違いないけど。

例えば。前述のFaculty Research Symposium。主役は教授陣だが、運営はスタッフ部門が行っていた。顔見知りの先生も何人か発表するし、ちょうどキャンパス滞在中だし、ということで、シンポジウムに参加させてもらおうと軽い気持ちで頼んだら、原則としてスタッフは部門の長しかシンポジウムに参加できない、だから日本からだろうと何だろうとあなたはだめよ、とすげなくその部門の人に断られ、私のボスが掛け合ってもどうにもならず、しゅんとしていた。予想外の官僚的反応。

そうしたら、それを聞きつけた仲のよい先生たちが「そんなのおかしい!Mayukaがいろいろな先生の研究内容を学ぶことはみんなにとっていいことなんだ!」とか言い出して、頼んでないのに、激忙の中それぞれ担当の部署と掛け合ってくれ、私が参加できるように手配してくれた。ああ、いとありがたきかな。

それ以外でも、人の話はまっすぐ聞くし、こっちが時間をとってもらっているのに「来てくれてありがとう!」と恐縮するほど感謝してくれるし。あと、家族とも仲が良さそうで、奥さんや旦那様や子供たちを大切にしている感じがひしひしと伝わってくる。ちなみに女性の先生の中には子供が3人いる人も結構いる。この世には、いるんですね。めちゃくちゃ有能で頭が切れて、同時にいい人、というスーパーな人々が。本当に。

 

HBSの先生たちと話をしていると、いや、話をしなくても教授のオフィスが入っている建物の入るだけで、自分がいかにいつも伸びたゴムみたいに生きているか、ちょっと忙しいだけで他のことに気が回らなくなるほど器量が小さいか、つくづく思い知らされる。

そして、猛烈な(しかし一時的な)自己反省を行いつつも、こんな人たちとフラットにフランクに仕事ができることの幸せをかみしめ、東京での仕事にいつもよりだいぶぴりっとした気持ちで戻る。