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中国語でハーバードは「哈佛」です(後半)

中国語でハーバードは「哈佛」です(後半)

山崎 繭加

ハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アソシエイト。主に日本企業やビジネスリーダーに関するケース作成を行っています。

当ブログ「ボストンと東京のあいだで」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/mayukayamazaki/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


P1020252.JPGエレベーターを降りた瞬間、口をあんぐり。広い。ワンフロアが、全部「哈佛」だ。そして豪華。落ち着いた木目のインテリア。Harvard China FundとHBSの企業幹部向けプログラムの運営のためのスタッフに加えて、私と同じ仕事を中国でやっている、つまりHBSの先生と中国企業のケースを書く、という仕事をしているNancyという同僚もここをオフィスとして働いている。

彼女にぐるっとフロアのツアーをしてもらって、さらにあんぐりしてしまった。広々とした個別のオフィスに、たくさんの会議室、共有スペース、教室、レセプションスペース、談話スペース。窓からは、浦東のシンボル、テレビ塔がばばんと見える。わが東京オフィスなぞ、受付部分のスペースで十分にすっぽりとおさまるだろうな...

教室は、机の配置から黒板からIT設備まで、ほとんどボストンと同じしつらえになっているが、二つだけ違う点がある。一つは椅子の数。ボストンは90席だが上海では88。数をとても大切にする中国らしく、縁起のよい数字にそろえてある。それから同時通訳ブース。中国の企業幹部向けのプログラムの場合、同時通訳に、さらには先生の板書を同時に中国語で横に書き出す筆記バージョンの同時通訳もつけて行うそう。

P1020247.JPGのサムネール画像

ひとしきり、ほー、とか、おおー、とか、歓声を上げて一回りした後、会議室でNancyと雑談した。今はほぼ月一回の割合で、何らかの企業幹部向けのプログラムを開催しているので、ボストンからしょっちゅう先生がやってくる。それだけで、先生がほとんどやってこない日本チームから見ると垂涎の的なのだけれど、多くの先生の興味は今インドに向かっているし、インド系に比べると中国系の先生はまだまだ圧倒的に少ないこともあり、中国の企業のケースを作成してもらうのは、それなりに努力が必要だと言っていた。なるほど。

 

いろいろ教えてくれた中で、おもしろいな、と思ったのは、現在すごい勢いで成長している中国の製造業の話。彼らは日本の製造業をすごく尊敬していて、学ぼうと必死だそうだ。例えば、リチウムイオン電池や電気自動車の製造・販売で脚光を浴びている1995年創立のBYD(比亜迪)。

その創業社長は、日本のような高品質のものづくりを可能にするには、製造過程を学ぶのも重要だが、工場で働く人の生活スタイルや習慣まで日本に学ばなければいけないと言って、工場労働者が住む寮では、時間のことやら部屋の掃除やらトイレの使い方やら何やらを徹底的に教え込み、規律を持った生活に切り変えさせた。人の行動が実際に変わるまでには結構時間がかかったが、今ではすっかりそういう習慣が根付いたそうだ。よく日本にやって来て、トヨタの工場などを見学しているらしい。

中国で作られるものには、「安かろう、悪かろう」のイメージがまだちょっとあるけれど、振り返れば戦後の日本もそうだった。そこから数十年で、日本が高品質の代名詞へと変貌したことを思えば、今の時代、10倍ぐらいの圧倒的なスピードで、中国で生産されるものの品質が上がっていって当然である。

その他、会社に対する忠誠心が薄く、機会があれば軽々と競合を含む他の企業へ移ってしまうという労働市場の中で、優秀な人材を確保し維持することが、中国でビジネスを行う企業にとっての最大の課題の一つであるということも教えてくれた。

 

今回の訪問で、いつか、中国を工場ではなく市場として捉えて事業を展開し成功を収めてきた日本企業のケースを作成したい、と強く思うようになった。成長するダイナミックな市場で闘っている企業の事例は、きっと元気を与えてくれるはず。それにBYDが日本の企業の経験から大きく学んでいるように、日本企業が強みとして、もしくはその良さとして自然と育んできたことが、実は中国での事業の成功に直結してくるということが、結構あるかもしれない。そうか、でも中国語ができないと、中国には行かせてもらえないか。ケース作成を夢見つつ、中国語の勉強も開始してみようかな。