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開発会社はなぜ短命に終わるのか?

開発会社はなぜ短命に終わるのか?

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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実は私はコンピュータシステムの開発会社を経営しています。

この業界というのは面白い物で、基本的には、建設業と同じような封建的なヒエラルキーと徒弟制度っぽい部分を残しつつも、どこか青臭く、組織力が弱いという特徴を持っています。

IT系の会社は、一般にドッグイヤーと言われます。(申し訳ありません。ITと言うと、「今時分ICTだろ?」と言われる方がいらっしゃいますが、どちらでもいいと思っておりますので、とりあえずITで統一します。)

犬の年齢と同じように、1年持てば成犬で、あとは他の業界の4年分くらいずつ歳を取り、10年持てば大成功、20年生きる会社はほとんどありません。

これは、決して組織としての成長が早いというのではなく、それくらい組織のコントロールが難しく、得てして早々に空中分解してしまう、ということだと思います。

私はこの理由には以下の3つが挙げられると思います。

 

  1. 知識の逆転現象が起こる
  2. ボスの成長に揺さぶられる
  3. 王より上位の神が存在する

 

▼1.知識の逆転現象が起こる

プログラムの開発というのも、基本的には知識・ノウハウの積み重ねです。なので、キャリアを積めば積むほど実力がついてくるのですが、メーカーや建設業などに比べ、あまりにも技術革新が早すぎて、せっかく習得した技術が陳腐化してしまうことが多いです。

ベテランが陳腐化しつつある技術をコツコツと切磋琢磨しているウチに、若いエンジニアが最新の知識を習得していく、ということがよく起こります。

これは実はかなり深刻な事態です。

通常の製造業(建築業も含む物作りの業種)は、あるテクノロジーを採用したら、経験曲線をいち早く駆け下りるために、その技術を使い倒すことに腐心します。

経験曲線の説明については、こちらをご覧下さい。

経験曲線 - @IT情報マネジメント用語事典

要するに、ビー玉でもメンコでも、一番始めに流行らせた人間が一番たくさんやっているので、一番強い、ということです。

しかし、その経験曲線を降りるよりも前に、もっと効率的な開発手法が編み出されると、それまでの積み重ねがまったく無駄になる、ということが起こりえます。

先発組よりも後発組の方が有利だった、みたいな話でして、こんなことは滅多に他の業界では起こりえません。

これは、努力した部分の財産がすべて霧消するような話で、損失以外の何物でもありません。


▼2.ボスの成長に揺さぶられる

IT会社に限らず、会社経営者にとってのボスは、その会社が提供しているソフトウェアやサービスを利用する消費者です。

ただこのボス達が、他の業界に比べて極めて嗜好の移り変わりが早いのが問題です。

例えば、情報伝達の仕方だけをとっても、15年前はパソコン通信で満足していたユーザーが、Eメールになり、SNSになり、メッセンジャーになり、twitterになり、、と、どんどん進化してしまいます。

これは開発会社内部の統制ではどうにもならず、どんなに強権政治で引き締めを行ったところで、ボスたる消費者が「もうお宅の仕事に興味がないんだわ」と言われれば、会社は存続できないのです。


3.王より上位の神が存在する

最後にもう一つ。

組織力を強め、顧客ニーズに必至に食らいついていく組織があったとしても、どうしてもあらがえないのが、その組織のトップ、すなわち王様よりも偉い神というのがエンジニアの心の中には必ず住んでいるという事実です。

技術の神髄を追及しようとするエンジニアはこう考えます。

勤め先の社長は、金儲けのマスターでありこの会社の王かも知れないが、自分の本当のマスターは神でありその人はネットの世界にいる。

これは、王が会社組織という城を丁寧に築いたところで、その地盤がぐずぐずに液状化してしまっているような状況を引き起こします。


IT会社を取り巻く環境はこんな状況ですので、3年、5年と経営してきますと、この3つの原因のどれかが原因となり、あるいはその複合で、組織の『真のリストラ』が起こりやすいのです。

真のリストラとは、経営者が言うことを聞かなくなった従業員を解雇するということもあり得ますが、それだけではなく、若いエンジニアがベテランエンジニアや会社経営者を取捨選択するということも含めての再編成です。

これは、会社存亡の危機をもたらします。外部からの大津波ではなく、自分の立っている地面そのものが液状化するような現象なので、対応が極めて難しいです。


皆、技術という藁にしがみついて協力して登りますが、有る程度まで登ると、自重に絶えられなくなり、くしゃんと折れ曲がってしまい、またバラバラになって次の藁を探さなければならなりません。

技術革新はこの業界のおもしろさでもありますので、それ自体を忌み嫌うことは本末転倒ですが、組織というのは何年もかけて強くなっていくものですので、数年というスパンで大きな組織改編を余儀なくされるのは困ったものです。