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大手SIerの役割とは

大手SIerの役割とは

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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先日、「SIerを退職しました - ギークに憧れて」という記事を見かけましたたが、もしギーク(=凄いプログラマ)を志すのであればSIer、とりわけ安定してそうな大手SIerなどに入ってはいけません。

まあ、彼も「あ、これは違った」と思って早々に退職を選んだのだと思いますが。

一口にIT企業と言ってもいろいろな業種がありまして、SIerはプロダクトを創り上げる会社ではないのです。

いや、「創り上げる」という定義はなんぞや、と突っ込まれると、社員に給料を出してシコシコ内製するのと、外部に発注して作らせるというののどこが違うのか微妙ではありますが、まあ要は、大手SIerの社員になってしまうと基本的にはゼロからプログラムを組むことはなく、もしプログラムを書くことがあるとしても、初期に動作検証用のサンプルプログラムを書いてみるとか、お手伝い的に雑用的なクラスだけ書くとか、受け入れ時にテスト用のプログラムを書くとか、そういう副次的なお仕事になると思います。

SIerの主たる役割は、ものを作るなんていう泥臭い穢れた仕事ではなく、商社+保険屋+金融屋の意味合いが強いのです。

商社的とは、たとえば発注者たるユーザー企業が何か基幹業務システムが欲しくなって、どこかに仕事をお願いしたいなーと思ったとします。

ところが一つ基幹業務システムと言っても大きなものになると、弊社のような手を動かすのが得意な小さい開発会社が1社いればいいというわけではなく、サーバや端末1000台とか用意できるハードウェアベンダーや、データセンターから社内までのネットワーク周りをお願いするインフラ屋さん、既存業務フローの改善を提案してくれるコンサルタント、システム導入後の教育や運用の手伝いをしてもらう運用サポートチームなどなど、様々な役割の人間が必要となってきます。

その際に、自らタウンページをめくって一社ずつ会社を選定するのはあまりに苦しい作業です。

そこで大手のSIerにお願いして、適当に必要な業者を見繕ってもらうのです。ここがいわゆる総合商社的なところです。

また、大手SIerというのは保険屋的です。

彼らは人月うん百万という法外な報酬を要求してきますが、社の名誉にかけて必ず仕事はお客様が満足していただけるまできっちり終わらせます。

いや、嘘を言いました。

お客様が満足していただけるまできっちり終わらせようと努力します。

いや、まだ嘘がありますね。

要件定義に書いた内容を実現するまできっちり終わらせようと努力します。

という感じでしょうか。うん、わたし的にはこれで胸のつかえがとれました。

とりあえず、まあ発注時にハンコをついてしまった内容のものはおそらくな確率で出来上がってきます。

経験の浅い小さな開発会社では、どんな仕事をされるかわかったものではなく博打的な一面がありますが、大手のSIerならその点安心です。高いお金を払うことによって安心を買っている、という点において、SIerは保険屋的です。

最後に金融屋的側面についてご説明します。

発注者の立場からしますと「え?SIerからお金なんて借りないし、リース組んだりするときは別の専門会社にお願いするけど?」と思われると思います。

確かにその通りで、私が言っているのは我々のような下請ベンダーにとっての話です。(ちなみにプラムザはここ数年SIerの下請仕事はしていません。このふざけた記事はいつでも消し去りますので、どうか仕事をください。)

末端の下請ベンダーというのは零細な会社が多いので、開発の最後に一括でお支払いをいただくのでは資金繰りがかなり厳しくなってしまいます。特に大手SIerから流れてくるような仕事は20人月とか30人月とかの足の長いお仕事が多いですから。

と言ってもエンドユーザーの会社さんは大手企業だったりして、資金繰りに困るという意味が分かってもらえず、無慈悲に社内規定で「システムは検収完了後に一括で支払う」とかと決まっていたりします。

そこでお金持ちのSIerさまが間に入り、小さな開発会社に「禄」を小出しに切り出してもらって、めでたく我々は米をはみはみコードを書くことができるようになるのです。その分、丸投げにも関わらずごっそり金利たる中間マージンを持っていかれますが、ここが金融屋的側面というわけです。

と、こういう特性を持ったのが大手SIerですので、そんな会社に行っても「ギーク」になんてなれるはずもないです。

ただ、冒頭の記事のように「未来がないか」と言われれば、こういう3つの役割を担う会社はどうしても必要なので、一概にそうも言えない気もしますね。(仕事ください)


あと、やはり社員数の多さも問題ですね。

社員数が多くなればなるだけ、柔軟性は欠けてきます。

最近よく目にするソニックガーデンさんという会社の主張(アジャイル開発では機能を全部つくらない)のように、初めに決めた要件定義どおり仕事をしない、つまり後からつけた何らかの機能とバーターで当初約束していた機能をやり残す、なんてことが法務部的に許されるとは到底思えません。

あるいは、シゴトビトでご紹介したモンスターズガレージさんのように「オンサイト保守が要件とありますが、代替機を何台かストックしておけば問題ないですよね?」という発想というのも難しいと思います。人数がいると、ありがたいことに社内に必ず「それは要件違反だろう」と進言してくれる人間が出てきます。

そんなこんなで、開発力をつけたいなら中小かベンチャーに行くしかないと。かように思っております。

弊社は最近SEが6名になりましたが、うち4名が大手SIerからの転職組です。とてもイキイキというか青色吐息で仕事していますね。

なんだ、また自社の自慢で終わるのか。はい、すみません、そんな感じです。


追記

シゴトビトはモンスターズガレージさんの後編がリリースされました。