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会社は作りますが、ベンチャーではありません

会社は作りますが、ベンチャーではありません

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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私が今の会社を興したのは28歳の時でした。もう12年も前になってしまいました。

当時は、いわゆるITバブルと呼ばれていた時代で、ビットバレー(笑)と呼ばれていた渋谷では、石を投げるとIT屋に当たると言われていました。

私もその隅っこではありますが、渋谷区の代々木上原にわずか9坪の城を構えました。

その当時、どうも私が違和感を持ったことがあります。

それは、友人や親戚に「会社を作った」と言うと、

「おおー!ITベンチャーの社長じゃん!」

とか

「ベンチャーじゃいろいろ大変でしょう」

と言われたことでした。

IT会社を作ると自動的に「ベンチャー」扱いでした。そして、「勇気ある決断者」とか「無謀な挑戦者」といういくつかのレッテルが貼られました。

私は確かにあまり普通ではない生き方を選択しましたが、危険を冒しているという意識はまるでありませんでした。

仕事は私が技術的に対応出来る範囲で取ってきました。アルバイトを雇っても、私がカバーできる範囲のことしかさせませんでしたし、納品前は必ず全ソースのレビューをしていました。間違っていたら私が書き直しました。

単に自分に出来ることをやっていただけなので、リスクはほぼゼロです。

もちろん体を壊したり、顧客からお金が振り込まれないなどというリスクはありますが、それが普通のサラリーマンよりも大きなリスクかと言えばそんなこともないでしょう。

数年してから、

「なるほど、会社をやるってこういうことか。」

「お金ってこうやって使うのか。」

という事が次第に分ってきて、自分に出来ないことをやれる人を雇い、少しずつ対応できる業務範囲を広げていきましたが、常に「一丁冒険してやれ!」という発想はありませんでした。

登山に喩えるなら、一般的なベンチャー企業がハーケンを1本打ち込んだら次々登っていくのに対し、私はハーケンを3本打ち込まないと上には上がりません。

しかしそれゆえに、少々のトラブルでは決してずり落ちることなく、確実に上がって行っている実感がありました。

もちろん景気の波を受けて仕事が減り、経営的に苦しいことはありますが、それは自らが打った無謀な賭けが原因ではなかったと思います。

取引先はどんなに羽振りの良いところであっても、絶対に年間売上の3割を越えないように調整しました。
周りの開発会社から、これからは絶対○○が流行ると言われても、ビジネスマッチングサイトなどでそれを使った案件が複数載らない限り始めませんでした。

......さて、私はこの昔話を持って「オレってすごくねーか?」と自慢したい訳ではありません。

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今、日本では若い起業家が求められています。

日本の古い因習を引き摺った会社では、現代のこのダイナミックな変化の波を乗り越えられないだろうと言います。

それが正しいかどうかはさておき、日本の雇用を増やしていくためには、どうしても国内の企業の絶対数が増えていかなければならないのは間違いないでしょう。

この主張は多くの評論家が異口同音に発するところなのですが、いつも気になるのがその引き合いに出てくるのがアメリカだということです。

やはりアメリカはすごい。今、マーク・ザッカーバーグのような才気溢れる若者が求められる、と。

しかし、私は日本の起業家が、アメリカのベンチャー経営者のようなスタイルである必要はまったくない思います。

日本人は、世界一真面目で責任感が強く失敗を恐れる国民です(要出典)

一部例外の人は居ますが、多くの人がそのような文化で生きているのに、起業家だけ「アメリカ流で行け」と言われても無茶な話です。

そうではなくて、私が言いたいのは「失敗を回避して地道に堅く起業する方法もある」ということです。

もちろん、ドカンと大当たりはしません。

しかし、顧客は「ギャンブルをしない地に足の付いた会社」というのも求めているのです。

私が顧客の立場であっても思います。

大きな仕事、失敗できない仕事であればこそ、最先端の技術を追いかける危なっかしい会社よりも、技術力はそこそこでも真面目で決して冒険しない会社の方に仕事を頼みたい、と。

そこには海底資源のような安定した需要があり、私の会社は12年それを糧にして生きてきました。

もちろんこれは、山坂道をずっと低速ギアで登るような経営手法で、難しいことは難しいです。しかし真面目な日本人にはその方が合っているのではないでしょうか。

「会社は作りますが、ベンチャーではありません」

そう胸を張って言うような若者に会ってみたいですが、いまだかつて出会ったことがありませんね。