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フリーランスはこんなコンペに参加してはいけないんだ。たぶん。
そろそろ脳内ビジネスの話をしようか
フリーランスはこんなコンペに参加してはいけないんだ。たぶん。
株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。
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■やはりサラリーマンエンジニアとは分かり合えなかった
もうかなり心の中はカオスな状態です。
つい先日、こんな記事がfacebookやはてブ界隈で出回ってまして、以来、心がもやもやしていました。
20万円かけてランサーズでロゴマークを募集してみてわかったこと
http://blog.qooton.co.jp/entry/2014/10/16/113200
要は、この筆者はデザインをランサーズに「20万円」というかなりの高額報酬で依頼を出してみたら、砂場に置いた磁石にまとわりつく砂鉄のように、デザイナーが来るわ来るわで大賑わいだったよ、というお話。
私もこの手のマッチングサイトは依頼主としても業者としても使ってきたので、その状況分かります。
依頼主の立場に立てば、10万持ってラオスやカンボジアに遊びに行ったときのような王様感覚に見舞われます。業者の立場に立てば、「おいおいみんな冷静になれ。報酬20万とは言ってもライバルが380人も集まってれば期待値的には最早526円だぞ」と窘(たしな)めたくなりまして、もやもやするわけです。
この感覚は、自分の腕一本で生きるエンジニアならきっとわかり合えると思い、先日サラリーマンエンジニアのA氏と飲んだときに言ってみました。
「しかし、よくみんなあんなコンペに出そうと思うよねぇ」
するとA氏は私の期待を完全に裏切ってこう言いました。
「え?でもあれって多分1~2時間でちゃちゃっと書いてますよね。私も家で何か作って20万もらえるなら、試しに出してみようかなって思いますよ。」
うぬぬぬ...!!
やはりサラリーマンエンジニアとはわかり合えなかった...!
私は今でこそちゃんとした法人組織にしていますが、26~27歳のころはフリーランスをやっていました。
そのため、私には、サラリーマンエンジニアのそういう発想が勘弁ならないというか、そんなヤツはマッチングサービスに参加して来るなというか、いやそういう世間に散在する余剰のリソースを集められるのがクラウドソーシングのいいところなので、参加してもいいというかむしろ歓迎されるべき、、、なのかも知れないが、一緒にコンペに出ているフリーランスの身になってみろ、というか、別にそんなこと知ったことか、依頼主の希望とそれを叶えられる人間がマッチすればそれでいい、というのと、ますますもやもやは募るばかりです。
■フリーランスの報酬はいくらもらえばいいのか
いったんクラウドソーシングとかマッチングサービスはおいておき、そもそもフリーランスというのは報酬をどれだけもらうべきなのでしょうか?
いろいろな考え方があると思いますが、あまり業界ズレしてないフリーランス成り立ての方というのはこんな風に考えたりします。
「自分はこれまでデザイン制作会社でデザイナーをやってきた。その時の基本給が25万円だ。フリーランスは時間も自由になるし、うるさい上司もいない。好きな時にカフェに出かけて、のんびり小説を読んでる美しい女性の横で誇らしげにMBAを広げて慣れた手つきで電源取って、ハート形のラテアートをおもむろにかきまぜつつ仕事に入る。苦しいサラリーマン時代が25万なら、今の立場なら15万でもいいか。」
あるいは、
「まだ右も左も分からない駆け出しなので、とにかく何万でもいいから仕事が欲しい。実績欲しいし、精神安定的にも、仕事がない状態だけは避けたい。」
とかっていう人もいます。また、先ほどのA氏のように、
「2時間で作れる絵なら、時給1500円で計算して、3000円でもいいかな...?」
なんて言う人もいます。
おいおいおい。
(弊社が依頼主の時以外に)バカなことを言ったらいけません。
もしあなたがフリーランスであるならば、今、目の前にいるようなお客さんをつなぎ合わせて、家賃払ってラーメン食べてトイレの水を流さないといけません。
そして隣の彼女から「すごいですね。ここでお仕事されてるんですか?」とか話しかけられて
「そうなんですよ。一応デザインで食べてましてね。」
「わー、すごーい。私もできるかなぁ。」
「あ、ちょっと待ってください。今送信しちゃいますから、そしたら僕の自慢のMacBookAirで手とり足とり教えてあげますよ。」
みたいな感じで、付き合うことになってデート代やら結婚式代やらがかかってくるかもしれません。
つまり、フリーランスで仕事を依頼されるということは、その制作時間の2時間とかが拘束されているんじゃなくて、人生的に言うと常に拘束されている状態であって、たまたまお金を支払ってくれるタイミングが今目の前に現れたに過ぎません。
この感覚が、きっとサラリーマンデザイナーやエンジニアには無いんですね。
ぶっちゃけて言えば、そのお客さんには、不働時間の給料も払っていただく必要があるのです。それを払ってもらわない限り、自分は近いうちに廃業になり、同じような境遇で困っているまだ見ぬ将来のお客さんは、自分のようなデザイナーと会うことができないのですから、それは市場経済全体を見た時に避けられないというか避けてはならないコストです。
それをお客さんに説明しても絶対わかってもらえませんが。
もう一つあります。
デザイナーでもプログラマでも、腕一本で生きる人間は、その腕を磨いてきた学習コストというのがかかっています。
それはサンクコストではあるのですが、それはやはり、目の前のお客さんからきっちり回収させていただかないといけません。
それを回収できないとなると、後進達が、「先輩みたく一生懸命勉強したって、結局食っていけない。すき屋でバイトした方がマシ。」となって、市場は縮小し、同じような境遇で困っているまだ見ぬ将来のお客さんは、、、(以下同じ)
そのように考えると、スポットで仕事をいただくときの単価というのはそれなりに高くなる必要があります。
たとえばデザイナーで、1ヶ月に平均3本とか絵を書く仕事をもらっているのであれば、1本10万円です。1本にかかる実質の制作時間が2時間でも関係ありません。そうじゃないと生活していけません。
もちろん、これはまったく競争原理とか無視して言ってまして、このあたりの相場感で、プロ同士競争するのはいいことです。
しかし、先のA氏のような生活のかかってないサラリーマンがちょこちょこっと出てきて、ちゃちゃっとそれなりにいいものを出して、「競争率380倍を突破してまさかの20万ゲットー!」みたいな世の中はどうなのよと思うわけです。
いや、分かってます。つまりそんなコンペには、生活のかかっているプロは手を出しちゃいけないということです。
本当はみなさんそんなことは重々承知だったと思うのですが、ところが、今回は20万円という高額報酬だったため、「生活のかかっているプロ」も「駆け出しのセミプロ」も「サラリーマンデザイナー」も「素人」も一緒になってワイワイやった、という構図なんでしょうね。
もやもやは尽きません。