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東電叩きは何も生み出さない
そろそろ脳内ビジネスの話をしようか
東電叩きは何も生み出さない
株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。
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どうもここのところ、メディア各社もネット上でも東京電力叩きが激しさを増してきていますね。
いつまでも収束しない苛立たしさは分からないではないですが、収束しないから怒りをぶつけるという反応には、まったく生産性を感じられません。
特に最近では、「情報をもっと開示しろ」「遅いじゃないか」「間違ってるじゃないか」の繰り返しですが、このやりとりが私にはどうも不毛に感じられて仕方有りません。
専門性の高い障害事案においては、詳細なデータの報告、リアルタイムな報告にほとんど意味はありません。それを出すことで、人々を落ち着かせることができるというのは大きな誤りだと思います。
まず受け手側の問題が3つあります。
- 多くの人が発表された情報の正確な意味を理解できない
- 仮に理解できたとしても適切な行動を取ることができない
- そもそも利害が対立している(と思いこんでいる)機関から発表された情報を信用することができない
よって、いくら詳細な情報を垂れ流しに出してもらっても、ほとんど意味はありません。
リテラシーの高い人には有意義かも知れませんが、今パニックを起こしているのはそういう人たちではありません。
また発信側の理由もあります。
- 上記の3つの状況を発信側はよく分かっている(従って懲罰としか思えない)
- 状況は時間単位、分単位で変化する(発表されている時にはもう状況が変わっている)
- 伝達ミス、誤謬等当然存在するが、そのたびに叱責を受ける
こうなってくると、現場の作業員の間には、情報の発信に消極的になり、また不利な情報は隠そうという発想が生まれます。これは至極自然な流れです。
今は、
「こっちで判断したいからどんどん詳細な情報を出せ!」
「しかし間違ってたら許さない!」
「これからどういう方針で何をやろうとしているのか説明しろ」
「いったいいつ収束するのか予測を立てろ」
などという追い詰めは、事態収束チームの足を引っぱる以外の何物でもないことに気づくべきです。
東電社員はもちろん、東電の役員もこのような事態を起こしたくて起こしたわけではありません。
いまだ被害の拡大が進行中の状況にあっては、むしろ私たちは彼らの行動を出来る限りバックアップする必要があると思います。
現場作業員はいいが、役員は許さん!
という意見もあろうかと思いますが、この発想もいただけません。組織は生き物です。頭のない手足だけの生物が生きられないように、指揮命令系統の壊れた組織もまた整合性の取れた活動ができません。
役員クラス、管理職クラスの志気を下げるような追い詰め行動を「今」我々はするべきではありません。殿様が逃げれば、兵隊は一瞬で無力化します。
「現場で働いている人がいれば、上はいらない」などというのは幻想に過ぎません。
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私はこのシチュエーションにあって、東電社員が自社の名前で、日々の放射線量であったり復旧活動の内容を記者の前で発表したり、計画停電の輪番表を発表するなどというのは、まったくもっておかしいと思います。
東電が事態の収束作業に集中し、もっともパフォーマンスを発揮できるように、そこは政府機関が矢面(やおもて)に立つべきです。
どうも政府機関が、国民側に立ってしまっていることが気になります。今は、政府はどんな批判を受けても、国民側ではなく、東電側(すなわち事態収束チーム)の味方になってあげるべきです。
「撤退などあり得ない!」
「放水しなければ処分する!」
こういった発言は国民の代弁者としてのものなのでしょうが、こんなことを言えば、収束チームとしては意識がバラバラになってしまいます。
「官邸に情報が上がってくるのが遅いぞ!何をやってるんだ!」
官邸に情報がスムーズに上がってこないのは、現場が「報告しても何のメリットもない」「怒鳴られるだけ」と思っているからです。恥ずかしいので自身の管理者としての無能さをさらけ出すのはやめた方がいいです。
危機管理の長というものは、現場からなにかしら不利な情報を聞いたとき、決して報告者を怒鳴り上げてはいけません。これは、障害対応では基本中の基本なのですが、どうもそれが政治家には分からないようです。
今さらという感じではありますが、政府は危機管理の能力が無いのですから、アメリカなどの助けを借りて危機管理のエキスパート集団を構成して、東電、自衛隊、消防庁をその管理下に置くべきです。
このエキスパート集団は、評論家や大学教授などのインテリ集団ではなく軍隊組織に似たトップダウンのチームである必要があります。また必要に応じて他人の家をぶっ壊しても構わないような強い権限が必要です。(もちろん後で十分な補償をしてあげなければいけませんが)
危機管理のプロは情報管理のプロでもあり、何でもかんでも情報を垂れ流したりはしません。曖昧さ、不確実性の残る情報は人々を混乱させるからです。
こんな機関があれば、東電も情報をどんどんそのチームに上げるでしょう。
東電も、自分達にこのレベルのシチュエーションでの危機管理能力が無いのは重々分かっているはずです。
まあ、後半はやや無茶を承知で提案してみましたが、政府機関が矢面に立つというのは重要なことです。
とりあえず、不毛な東電叩きはやめましょう。彼らはサラリーマンです。犯罪者ではありません。家族もいます。