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知ってることがそんなに偉いことなのか?
そろそろ脳内ビジネスの話をしようか
知ってることがそんなに偉いことなのか?
株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。
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▼とある日曜日、私は焦っていた...!
日曜日の昼下がり、私は焦っていた。車をとある郊外の商業ビルの前に横付けすると、奥さんと子供たちを置いてビルの中に走って行った。奥さんには、車を駐車場に入れ、子供を連れてくるように、と言い残して。
速足でビルに入り、エスカレータを駆け上がり、人混みを縫うように走って、回転寿司屋の中に入って行く。そして入口付近に置いていある現在の待ち状態を案内するためのキヨスク端末の前に行き、ポポポっと操作する。
よかった。どうやら間に合ったようだ。
店内を見れば、席は超満員。大変にぎわっている。しかし入店を待っている人はほとんどいない。私は、待合い用のベンチに腰掛け、奥さんにメールを打つ。「大丈夫そうだからゆっくりおいで」と。
弾む息が収まってきて、ふと見ると、私の横に、40代くらいの女性と70代とおぼしき男性の2人組みの姿があることに気がついた。どうやら親子のようだ。どういういきさつか分からないが、きっと滅多にない父娘の外食にこの店を選んだのだろう。
しかし男性の方はかなり苛ついている様子。
「随分と待つのにちっとも呼ばれない。一体どうなってるんだ!」
女性の手にはしわしわになった整理番号の札が握られている。
「そうね。ちょっと時間かかりすぎね。」
と女性も首を伸ばしてはしきりにレジの方を伺う。
「もう1時間近くも待ってるぞ。」
店員はこの店では、順番待ちの客の方にほとんどやってくることはない。少ない店員は、もっぱらフロア内で忙しく動いている。
まもなく私の家族が店に到着し、それとほぼ同時にレジからアナウンスが入る。
「お待たせしました。ご予約のシマダ様。席のご用意ができましたので、お越しください。」
私はかなり申し訳ない気分で一杯になったが、その両名の前を通って席へ向かった。事情を知らない奥さんや娘は「全然待たなくてよかったねえ」などと言って喜んでいる。
▼知らないと損をする、携帯予約システム
みなさんは、この手のシステムを採用している回転寿司をご存じでしょうか?一度でも痛い目をみると否が応でも頭に叩き込まれてしまうのですが、某大手回転寿司チェーン店では、携帯電話による席の予約システムが取り入れられています。
予約の方法は2つあります。
・日時を指定して予約
これは言ってみれば通常の電話やぐるなびなどで行う予約と同じです。日にちと時間を指定して予約を入れます。予約を入れるとその日の朝と、確か30分くらい前にアラートメールが飛んできます。
・順番待ち予約
これは、まさに今、順番待ち状態である場合に、その並んでいる列の最後尾に並ぶことができるということです。低価格戦略により、順番待ちが常態化している繁盛店だからこそ導入が必要な機能なのでしょう。これはあまり見かけませんね。
私はその日、この後者の方の仕組みを使って、1時間半くらい前に車の中から見えない順番待ちの列に並んだのでした。それで、店頭で1時間も待っているお二人さんよりも先に、席に案内されたということです。
私はこの回転寿司屋の採っている方法は、ビジネスとしては非常に理にかなっていると思います。
店にとっては、とにかく出来る限り多くのお客さんを並ばせて、なるべく途切れることなく寿司を提供したいのです。しかしとは言っても、店の前に長蛇の列を作らせるのは得策ではありません。そんな列を見れば、多くのお客さんが「今日は混んでる、またにしよう」と帰ってしまうからです。最悪の場合は、「あそこはいつも混んでる」とハナから選択肢から除外して考える「順番待ち嫌い」な人もいるでしょう。(→私です)
そこで、店の前では決して並ばせたりせず、バーチャルな空間で並ばせることで、お客さんにはストレスなく長蛇の列を作ってもらえ、ピーク時間を延ばし、安定的にサービスを提供し続けることができます。
その店ではその目論見がまさに当たり、いつ行っても、それこそ14時、15時とか変な時間に行ってもたいてい店内は満員、列はほとんど無し、なわけです。
私はその店のシステムを、何年か前からウォッチしていますが、年々工夫を重ねていることを知っていまして、その経営努力にシステム屋としては非常に好感を持って見ていました。目には見えないのですが一種の「機能美」を感じさせます。多分今後、他の薄利多売系の飲食店でも導入されて行くのではないでしょうか。導入コストがさほど高いとも思えませんしね。
▼知ってることがそんなに偉いのか?
しかし、今回の一件で、私の気持ちはざわつきました。
確かに私はこの店の予約システムの存在もその操作の仕方も知っています。だから店に後から入ったにもかかわらず、前に並ぶお二人よりも先に寿司にありつくことが出来ました。「ああ、予約してよかった」なのですが、しかし本当に私は先に案内されるほどのことをしたのでしょうか?
私はただ店の用意したルールを知り、その通りに携帯を操作したにすぎません。努力をした人間は、しなかった者よりも報われるべき、とは思いますが、特に私は何の努力をしたわけでもなく、二人を出し抜いてしまいました。
これがもしかして、ネット上で言われている情報強者というものなのでしょうか?長時間店頭で並んでいたお二人は、「席には店に来た順番で案内される」という、これまで通りのルールしか知らなかった。それが、大量に順番抜かしされるほどのいけないことなのでしょうか?
もし私が仕事として、「ウチは飲食店やっていて、携帯で予約するシステムを作りたいんだけど」という相談を受ければ、当然全力で取り組みます。この回転寿司の店以上のものを作る自信があります。
しかし、そのシステムを導入した結果、ある層の人々に生む「がっかり」までは、当然考えることができません。いや、そこまでは考えることは求められていない。あるいは考えてはいけないのでしょう。
ちょっと仕事人としての切なさのようなものを感じた出来事でした。このようなことは、みなさんの会社、あるいは業界でもあるのではないでしょうか...。
ちなみに、当然私も1回目は、このお二人と同じで店頭に並ぶことをしました。
私は気が短いので、システムの存在を知り、15分で帰ってしまいましたが...。