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私が『イクメン』という言葉を嫌いな理由

私が『イクメン』という言葉を嫌いな理由

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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震災の影響でそれどころではなかったからでしょうか。しばらく沈静化していた『イクメンごり押しキャンペーン』ですが、ここのところまた活性化してきた気がします。

ここ1月ほどの間に、ニュースサイトやまとめサイトなどで、何度か立て続けに目にしました。

私自身はと言えば、一応3人の子供の父親で、まあ人並みには育児をやっていると思うのですが、この『イクメンごり押し』の風潮がどうしても好きになれません。

好きになれないというか、「大きなお世話だ!」という。。

さて、今回は、仕事とはまったく関係ないお話。しかも育児系のお話なので、お時間のない方、ご興味のない方は、LEAVE NOW←こちらをクリックしていただければと思います。


■そもそもの定義は?

『育児をするパパ』なのか、『ママの育児の手伝いをするパパ』なのか?

まずよくわからないのが『イクメン』の定義です。新聞雑誌等のメディアの文脈では、どう考えても後者であることが多いです。『たま○よ』や『ベ○モ』のような新米ママさん向けの育児雑誌の場合は100%後者です。

『イクメン』が、『育児期間中のママの負担を軽くするためにお手伝いをするパパ』という定義であれば、それは『イクメン』ではなく、『育児ママヘルパーメン』などと呼ぶべきではないでしょうか?

受益者がすり替わり、これからその職に就くべきかどうか迷っているうら若き男性たちを煙に巻くようなネーミングはある意味ペテンに近いです。


■操作主義の臭い

『一つのライフスタイルを定義され、いくつかの実行すべき作業内容を決められ、その通りやれば全方位から誉められる』

これがイクメン主義の骨格です。

こういう人の使い方はマネジメントでは『操作主義』と言われます。ちょっと頭の良い人なら『バカにするな』と思うでしょう。

誰しも他人の思い通りに動きたくはないものです。結果的に取った行動が同じであっても、自発的にこうすべきと思って行った場合と、他人にいいように操作されてやったという場合とでは、心情的に大きな違いがあります。


■効率性を求めるのは男の常

単純作業では、経験曲線をいち早く駆け下りた方が効率的になることが知られています。

たとえばおむつ替えであれば、その作業が上手か下手かは単純に『それを何回やったか』にかかっています。生まれもっての身体能力の差などはほとんど関係ありません。

経験曲線の傾きが緩やかになる前に作業をシェアするのはよくなく、特に新米ママもうまくできないアーリーステージでは、ママが集中してやった方がいいです。

そして、パパは、別の家事(食器の後片付け、掃除、風呂洗いなど)を担当した方が合理的です。

ただし、作業は効率性だけを求めればいいという訳ではありません。同時にリスクヘッジというの考える必要があります。

ママが熱でダウンしてしまったとき、はたまたストライキを起こされたときのために、一通りの作業は出来るようになっておくべきです。

いずれにしても、『パパもママと同じ苦しみを味わえ』みたいな意図で作業をシェアするというのは、不合理な行動と言えます。



■いじめである

『物理的作業の手伝いに徹するのであれば、頭は要らない。一方で、頭を使えと罵倒される。』

これは体育会運動部、あるいは飲食系のバイトでありがちなシゴキ、あるいはイジメです。

少し口答えすると『理屈じゃねえんだ。つべこべいわず言われたとおりやれ!』と言われ、そうかといって言われた通りにやって失敗すると『バカヤロウ!少しは考えろ!脳みそあんのか!?』と。

こういう家庭を何件か知っています。

また、『たま○よ』などの雑誌では、これに似た感じで右往左往する哀れなパパが嘲笑されています。

あ、あの手の雑誌は本当に酷いです。赤ん坊の成長スケジュールみたいなのは役に立ちますが、座談会系の記事は男性は絶対に読むべきではないです。

パパが参加している座談会も、間違いなく男の味方はしてくれません。

フルボッコにされるサンドバッグ役か、ママにとって都合のいいパパ役の可能性が高いです。油断してはいけません。



■今言う必要があるのか?

『予防接種があるなら、当日言ってよー』

子供の頃、誰もが思ったはずです。

起こりうる苦しみを事前に知らされるのはただ恐怖の時間が長くなるだけです。

案ずるより産むが易し。生まれたら育てるが易し。育児なんて、昔から適当に泥縄式にやってきたことです。大したことではありません。いや、本当は大したことなのですが、今、後進に対して『大変だぞ~』というメリットがありません。

もちろん、この苦しみを避けて欲しいと思うなら吹聴する意味がありますが、子供のいる生活はとても充実していて楽しいものです。私は個人的には、子育てを避けて一生を終えるのはあまりにもったいないと思います。



■女性の方が切迫してます

避ける避けないで言ったら、男性は女性よりは気長に構えることができます。実際は、私の男性の友人でも、30後半になるとなかなか結婚したという話を聞かなくなりますが、女性は生殖能力的に切実です。

こんな記事も最近読みました。



今の状況は、適齢期を迎えた肉食女子達が野山に狩りにでていると、後方から「イクメン支援砲」の砲撃が始まり、獲物のウサギさん達がびっくりして一目散に逃げていく構図だと思います。

『イクメンは大変だぞー』『絶対にイクメンになれよー』などと配偶者候補生を脅かすことは、彼女らには大きな逆風になるでしょう。


■現実と乖離しています

・経済的な問題

おむつを替えてる時間があったら、しっかり稼いで来て!という家庭だってあるはずです。

現実問題として、パパとママが同じように育児休暇を取って、仕事の量を減らしたら、二人とも専門性の高い仕事はできなくなります。20代30代での休職は、仕事上の成長ベクトルを緩くさせてしまうでしょう。もちろん本人の頑張りように因るところはありますが、大きくマイナスに働くことは間違いありません。

ここは家族の未来を考えて、どちらかがきちんと仕事を続けておくことを考えるのが得策ではないでしょうか。

もちろん、ママが働いた方が有利な家庭もあるでしょう。それぞれの家庭でフラットに考えればよいと思います。

平等に負担する、というのは一般的には『どちらもプロフェッショナルになれず、二人していつまでも大変だ』ということになります。


・おっぱいがない

あろうことか、男にはおっぱいがありません。いや、ありますが、どうやらそれは似て非なるもののようで、まったく役に立ちません。

赤ん坊が生まれてから1歳くらいまでの子供を育てる上で、これほどのディスアドバンテージがあるでしょうか?

基本的に赤ん坊の困った状態というのは、『寝ない』『ぐずる』の2つだけです。寝てるか、機嫌がよければ万事OK。その両方が、おっぱいで達成できます。まさにパパ垂涎のアイテムであり、それ無しでこの戦さに臨むはまさにベリーハードモードというものです。

そして、赤ん坊はパパよりも、ママのおっぱいが大好きなのです。この嗜好性は、彼または彼女をどう説得しても変えることができません。

その意味で、パパはどうあがいてもママの変わりはできないのです。これは男性を卑下することによって世のママさん方を持ち上げるものではありません。できないからできないと言っているだけで、だから

『寝付かせ、ぐずり対応、及びそれに付随する作業は、ママがやるべきだ』

とまで言ってしまうのです。

先の『おむつ替えの経験曲線をどちらが先に降りるか』という問題のその答えがママである理由がここにあります。

申し訳ないのですが、もう白旗です。



■なんとなく、おかしいじゃないか

なんとなくの話です。

たとえばパパが大企業の社長、たくさんのテナント収入があるビルオーナー、ベストセラーを何本も持つ売れっ子作家。このように経済力も自由な時間もあるパパには、イクメン強要の風当たりが弱い気がします。

ママ友の会でも『そういう凄い人なら、まあしょうがないよねー』的な会話がなされるイメージがあります。

いやいや、そういう成功者パパは、5軒両隣の子供達の面倒まで見るべきだと、私は思うのですが。



■制度改革を新米パパの意識に求めるのはお門違い

もちろん、始めから分かってます。

「イクメンごり押しキャンペーン」のもともとの目的は、出産後の女性の負担を減らし早急な職場復帰を目指す、というものです。それは分からないでもないですが、それを右も左も分からない新米パパの意識に頼るのはお門違いというものです。

働きかけるのであればまず、企業に対してであり、行政に対してです。

政策的なプラットフォーム無しで、新米パパに『気合いで行け!』と呼びかけるのは、単純に男性の「結婚回避」「子作り先延ばし」につながるだけです。


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さて、思いつくまま書き殴ってきましたが、勘違いして欲しくないのは、私は『男は仕事、女は家庭。男は育児なんかしないで外で金を稼いで来ればいいんだ』などと言いたいわけではありません。

男性も女性も初めて子供ができれば、育児は仲良くド素人なわけです。そして二人とも、赤ん坊に教わりながら徐々に育児がうまくなっていくのです。

大事なのはであり思いやりです。

新米パパは『イクメン』なんて言葉で外部から強要されなくても、次第に立派なパパとして開花していくのです。

奥さんが、出産という『アリマキかよ、こいつ!?』と思うようなとんでもない偉業を成し遂げ、ホッとしたのもつかの間、帰宅してから毎晩1時間おきに起こされて、疲れて、疲れ切って、ベッドの上で座って授乳しながら寝ていれば、夫はどんな育児書を読まされるよりもガツンと思い知らされます。

『女はすげえ!』

『こりゃ戦争でも行かない限り、敵わねえ!』

と。

そして、徐々に変わっていきます。深夜のゲームを止め、コーヒーを入れるようになったり、一週間分のカレーを作るようになったり(*1)

そしてまた徐々に、『おむつ替えもしてみようかな...』と思うようになり、『粉ミルクがあれば赤ん坊と二人で留守番できるかな...』と思うようになります(*2)

いずれにしても徐々に、です。

行動の変化は心の変化に裏打ちされ、それには一定の時間がかかります。外部から不要な圧迫は、そのスピードを遅らせることはあっても早めることはありません。

(*1コーヒー、カレーは授乳中のママにはあまりよくないですが、何をしていいか分からないので、私はとりあえず手当たり次第にやってみました。)

(*2母乳に慣れてしまった赤ん坊は、なかなか粉ミルクを飲みませんね。。結果、ギャン泣きで耳がキンキン、頭がジワンジワンする中、泣き疲れて寝るまで小1時間、だっこし続けるとか、ママには分からない辛さがありましたが、ここでは言いません。)


新米ママの方も、この『イクメン』という言葉に翻弄されると、始めからものすごい高い理想を持ってしまいます。

不幸とは不満によって起きます。不満のない不幸というのはあり得ません。

不満は、理想と現実のギャップによって起きます。理想のない不満はあり得ません。

そして、『イクメンごり押しキャンペーン』はこの理想を高く高く築き上げます。新米ママにとって、非常に不幸を感じやすい環境が作られる訳です。


、、、ということで、『イクメン』などというものは、これから結婚を控える男性にとっても女性にとっても、これから子供を作ろうという夫婦にとっても、害しか生まないと思うのです。知らないこと、何も期待しないこと、というのは、本当はものすごく強いことなのです。

あと大事なことですが、子供の笑顔はすべての苦労、イヤなことを吹き飛ばします。おそらくDNAにそのように完全に組み込まれているのだと思います。赤ん坊は、対処すべき最大のトラブルでもありつつ、究極の癒しアイテムでもあります。

ですから、『子供イラネ』と強固なポリシーを持っている人は別にして、『うーん、どうしようかな』『イクメンとか言われてうざいし、当分いいわ』と考えてしまっている男性諸君には、あまり心配する必要はないと言いたいです。

気になるのは、私の周りの仕事をバリバリ頑張ってる30代男性が、本当に結婚しないし、しても子供を作ろうとしないことです。

妻には仕事と育児をごっちゃにすると怒られてしまうのですが、2歳くらいから始まる育児(=教育)は、マネジメントの考え方に直結します。

人間の根源にある『欲望』というものを知ることができます。

『これが欲しい!』
『そのためには髪を引っぱってでも奪う!』

みたいな原始の感情から、徐々に

『これをやると怒られる』
『これをやるとママが困る』
『ルールを守るとトラブルを回避できる』

というように思考が複雑化していくところを目の当たりに出来ます。

それは一つのスペクタクルです。

40年の人生に起きたすべての事件は私を成長させて来ましたが、これほどまでに私を成長させたものはないと言って過言ではありません。

子供は最高の教師だと私は思っています。とてもいいものですよ。

一つのご参考になれば!