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電子マネーにまつわる疑問(2)

電子マネーにまつわる疑問(2)

小林 利恵子

楽しい学びの場、ワクワクするコンテンツのプロデュースを提供する株式会社オプンラボの代表。 「考える」のではなく「感じる」気づきの場としてのセミナーや研修の企画・プロデュース。強烈な魅力のある個人のコンテンツ作りを得意とする。

当ブログ「学びの体験を創造する ~ セミナー事務局考」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/opnlab/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


国内外を巡って電子マネーを調査する流浪の研究者 国立情報学研究所 岡田仁志さんに、オプンラボ コバヤシが電子マネーにまつわる疑問を聞く第2弾。


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日本で電子マネーが普及したワケ

小林:先日、楽天が取扱高1兆円とのニュースが日本経済新聞の1面に掲載されましたが、電子マネーはネットの消費にどのような影響を与えると思いますか?

岡田:まず少し昔を振り返ってみますね。

クリントン政権の時代に、ゴア副大統領のリーダーシップでインターネットの商用化が推進されました。商用利用の典型であるEコマースの推進のためには、電子的な決済方法の開発と、国際的なルール作りが必要だと考えられました。

小林:1993年ごろでしょうか。情報スーパーハイウエイ構想(NII)ですね。そういえば国立情報学研究所も略称がNII。

岡田:当時、Eコマースは、アメリカ主導のグローバリズムで米国企業が席巻すると思われました。しかし、楽天に代表される日本企業が一大産業を形成しました。

小林:あ、一緒に昔を振り返れます。

楽天がエム・ディー・エヌという社名のころ、三木谷さんに講演をお願いしました。日本で急速にネット系ベンチャーが増えており、中でも勢いがあったからです。確かオフィスは目黒。打ち合わせの時に三木谷さんが「周囲の多くの人から、日本ではECは成功しないと言われたけれど、楽天は業績を伸ばしているんです」と、とても熱く語っていました。

ちなみに、そのセミナーは「インターネットはどこへ行くのか」(1998年)。時代を感じるタイトルです(しみじみ)。

岡田:2004年ごろ中国でもECは成功しないといわれました。それでも、友人は中国でECを始めたましたが、大きなビジネスになっています。今は、タイがECはダメだといわれます。果たしてどうなるか。

電子決済の分野では、アメリカのクレジットカードと暗号化技術が世界を支配するかと思われていましたが、日本では電子マネーという独自の支払い手段が普及しました。

小林:それはなぜですか?

岡田:クレジットカードと電子マネーの違いは、現金感覚の有無です。クレジットカードが特別な一枚として登場したのと対照的に、電子マネーが目指していたのは現金です。

小林:現金的な利用感覚が日本人に受け入れられたのですね。

岡田:ネットの消費でも現金感覚で購入できるのが電子マネーの良いところです。

取扱高1兆円という時代を迎えて、ネットの消費はもはや特別な存在ではなくなりました。それはちょうど、近所のお店にがま口のお財布を持って行って、対面で買い物をしていた時代から、スーパーマーケットのレジで買い物をする時代へと移行した時期と、よく似た変化なのかもしれません。


ガラパゴス列島日本

小林:「日本は電子マネーもガラパゴス」ということを聞きましたが具体的にどのような状況なのでしょう? 

岡田:普及した技術が、国際標準ではなかったからです。

日本で普及している電子マネーのほとんどは、ソニーの開発したFeliCa技術を使っています。日本国内での発行枚数は1億5千万枚超です。

小林:日本国民が1人1枚は持っているのですね。

岡田:そのうち1800万台はおサイフケータイ。日本はいまや、世界でも有数の電子マネー大国に成長したといえます。

しかし、世界にはFeliCa以外の技術も存在しています。非接触ICカードの標準を決めるISOにはタイプA、タイプBという技術が国際標準として定義されています。

小林:FeliCaはどちらに該当するのですか?

岡田:どちらでもなく、さらにタイプCといった定義を得ることもできませんでした。ISOに定義されていないと、公共調達では不利に働きます。外国企業を締め出す非関税障壁とみなされる可能性があるからです。TPPに参加するのであれば、なおさら重要なことです。

小林:国内で普及していても、国際標準で認められないと、海外でのビジネスに影響がでてくる。

岡田:けれどもその後、FeliCaは機器間通信のプロトコルを定義するISOの定義書には採用されました。ISOに定義されていないからFeliCaを採用できない、といった心配はなくなりました。

このプロトコルはNFC(Near Field Communication)と呼ばれ、NFCフォーラムのような国際協議の場を通じて、欧州だけでなく日本の企業も主体的に参加して定義を構築しています。

小林:そうなんですね。よかった。

最近、日本が国際競争力を高めるために「パブリック・アフェアーズ」を強化すべきだという話しを聞きました。政府や公共団体、標準化などの機関に働きかけ、自国の技術の競争力を発揮できる枠組みにもっていくことです。電子マネーの分野では、しっかり日本もルールを決める側に入っているようですね。

岡田:NFCはタイプA、タイプB、FeliCaのいずれにも対応しています。NFC携帯というのが日本にも登場しましたが、NFC携帯には、欧州やアジア諸国で広く交通カードとして使われているタイプAクレジットカードに使われているタイプB、そして、日本で普及しているFeliCa電子マネーのすべてを搭載することができます。日本の電子マネーがガラパゴス化する心配は、NFCの登場で解消したと見ることができそうです。

小林:前回の電子マネーを体験して紛失してみた、というゆるやかな話しから、今回は技術的かつ国際的な話しになりましたね。

岡田:それでも、まだ安心できないという見方もあります。

小林:え、そうなんですか?

岡田:そもそも電子マネーがこれほど普及している国は、世界を見渡しても日本しかないのです。

その意味において日本は独自の進化をとげたガラパゴス列島です。欧州やアジア諸国で使われているのは、主に交通カードとしての用途だけであって、生活全般に利用できる電子マネーというのは海外では稀です。

小林:便利なものをとことん使い込みたくなる気質だからですね。携帯電話のように。。

岡田:日本が世界に先駆けて先頭を走っているのか、それとも不思議な国として進化を遂げているのかは、後世の人たちに振り返って見てもらわないとわからないわけです。

(オプンラボ 小林利恵子)



【参考資料】
電子マネーがわかる』(岡田仁志、日経BP)
パブリック・アフェアーズ戦略』(西谷武夫、東洋経済新報社)


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opnlabでは岡田さんを招いて勉強会を開催

第2世代の電子マネー:ソーシャルコマースで変わる消費行動」(2月22日(水))

 

[岡田仁志プロフィール http://researchmap.jp/hokada/


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