誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

【書評】東京スカイツリー (サイエンス・アイ ピクチャー・ブック)

【書評】東京スカイツリー (サイエンス・アイ ピクチャー・ブック)

杉林 貢司

教育産業にて講師、管理部門、制作部門担当を経てカラーコンサルタントRosa マネージャー/デザイナー/ライター。同社にてWeb、DTP制作、執筆等を手掛けている。

当ブログ「書評ブログ「イケてる本棚」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/sugiba/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


2012年5月22日、いよいよ東京スカイツリーが開業します。
テレビやメディアでは連日特集が組まれ、634メートルという自立式鉄塔としては世界一の高さであることは勿論のこと、350メートルの第一展望台、450メートルの第二展望台から見える絶景は多くの人をワクワクとさせていることでしょう。

この「天望デッキ」の入場券は7月10日まで完全予約制、以降は当日券が販売されるそうですが、私のような人間が異次元の高さを初体験するのはまだまだ先のことになりそうです。

東京スカイツリーについての情報は、多くのメディアによって報じられているのでここで記すことではありませんが、基本的な役割は東京タワーに代わる電波塔です。かつては高層建築と言えば、新宿副都心の高層ビル群、池袋のサンシャイン60がその代表だったと思いますが、今や横浜ランドマークタワー、六本木ヒルズ森タワー、東京ミッドタウンなど200メートルを超えるビルは珍しくなくなりました。

これだけビルがあると、東京タワーの333メートルではさすがに電波を完全に届けることができなくなってしまいますし、地上デジタル放送へ完全に移行されると東京タワーではとてもとてもエリアをカバーできません。そこで建設されたのが600メートルを超える東京スカイツリーだったのです。

東京スカイツリーが着工したのは2008年7月。
多摩地区にある私の自宅からその威容を確認できるようになったのは高さが300メートルを超えた2010年3月頃でした。
以降は2011年の3月18日に634メートルに達するまでタワーが少しずつ伸びる様子を観察することができました。これから何十年と東京、いや日本のランドマークとなっていく建築物の建設の様子をリアルタイムに体験できたのは貴重な経験ですね。

とっても興味があり、開業が待ち遠しいけれども、当面足を運ぶことはないであろう。しかし、東京スカイツリーの建設、開業と言う歴史的瞬間に立ち会うことができたことを誇りに思い、いつか必ず足を運び、数十年後、若者や子ども達にスカイツリーに関する薀蓄を垂れようと思っている私にとってとても嬉しい本を献本いただきました。

【東京スカイツリー公認】東京スカイツリー (サイエンス・アイ ピクチャー・ブック)



本書が発行されたのは2011年8月、東京スカイツリーに関する情報をカラー写真を交えながら以下の五章に分けて紹介しています。

第1章 東京スカイツリーってなんだ?
第2章 東京スカイツリーができるまで
第3章 東京スカイツリーの内部
第4章 夜に見る東京スカイツリー
第5章 東京スカイツリーの楽しみ方


建設に至る背景、「ものつくり大国日本」の技術の粋を集めた工法などにスポットが当てられ、観光ガイド的なものになりがちな数あるガイドブックとは一線を画しています。

難条件のそろった敷地で「世界一」を実現するために、スカイツリーにはどんな技術や工夫が注ぎ込まれているのだろう。本書は、そのメイキングプロセスを追う豊富な写真や図版と文章で、スカイツリーの成り立ちをサクッと理解できるようにまとめている。


と著者の平塚桂氏が冒頭で述べているように、本書は東京スカイツリー建設のために投入された技術の粋が余すところなく紹介されています。建設中に見舞われた東日本大震災に象徴される地震への危惧、海抜ゼロメートル地帯かつ軟弱地盤、しかも限られた敷地内でのタワーの建設。素人目に見ても常識ではありえない敷地で世界一高い自立式鉄塔が立ったこと自体が「すごい」ことなのです。

本書は、こういったある意味「奇跡」の数々、間違いなく素人には分かり得ない複雑な計算の上に成り立っているのだと思いますが、それらがとっても分かりやすく、図解や写真も交えて紹介されています。スカイツリーのガイドブックは数あれど、技術的な側面をこれほど分かりやすく紹介している書は見られないのではないでしょうか。

東京スカイツリーは、ライトアップの「粋」「雅」、そしてメディアで紹介されている江戸切子が用いられた内装など東京が歩んできた歴史をかなり意識していることが分かります。「パックス・ジャポニカ」とまで呼ばれた江戸の風情が残る下町に天空を突き刺すように伸びる最新のテクノロジーの粋を集めたタワー、温故知新と言いますが、古きものと新しきものの絶妙な組み合わせがとても面白いと思います。ただ本書では、上記を期待すると少し物足りないかも知れません。

日本復興の希望をのせて

東京スカイツリーが開業してもなお、東京のランドマークであり続けるであろう「東京タワー」は、ALWAYS三丁目の夕日で窺い知れたように日本の戦後復興、高度成長の象徴でした。近年は昭和を模したテーマパーク的なものが盛況ですが、決して豊かではないけれども、希望に満ち溢れていた昭和の時代がセピア色の街並みとなって再現されているのだと思います。

東京スカイツリーは、「失われた20年」と言われるほどの未曽有の不況の時代に建設されました。そして建設中には東日本大震災が発生。被災地は勿論、日本経済も大きなダメージを受けました。「焼け野原」ではないにしろ、日本が今非常に苦しい状況に置かれているのは事実です。
そんな中、日本が苦しい時期に東京スカイツリーは世界に誇る技術を集めて建設され、圧倒的な存在感を放っています。
東京スカイツリーは、世界一の自立式鉄塔であるというばかりでなく日本復興の希望をも背負って建てられた平成のランドマークであると思っています。

いよいよ開業まで約2週間、未体験の高さから東京の街を見下ろすのはいつの日になることやら...

おすすめ度・★★★★★ 5点