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CS(顧客満足)はセレンディピティで感動へと進化する
鹿島泰介の「UXのトビラ2」
CS(顧客満足)はセレンディピティで感動へと進化する
長年のプロダクトデザインから離れ、インターネット最前線に飛び込んで10年が経過。ITの世界を多角的視点から取り組むデジタルマーケターの鹿島泰介が、デジタルマーケティングとUXの現在や未来について、予見力を駆使しブログを書きつづる。
当ブログ「鹿島泰介の「UXのトビラ2」」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/tkashima/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
・CSっていったい何なのだろう
CSは、すでに広範にカスタマーサティスファクションの略語として知れ渡っており、一般用語として定着してきた。しかし、それが横文字であるがゆえに、意外とその理解にはひとりひとり温度差があるようにみえる。
顧客満足とは、受けたサービスや購入した商品が、想定した期待を越えた時に生まれる。昨今、この「事前期待」をコントロールすれば、顧客満足は変えられるという考え方が出てきた。これまでは、顧客視点、お客さま視点で、一方的にお客さまが喜ぶ姿だけを求めて、サービスの品質向上や商品そのものの完成度を高め、満足してもらうことだけが最大目標だった。ところが、サービスサイエンスと呼ばれる新たな研究領域では、全く同じサービス、同じ商品でも、事前期待をコントロールすれば満足度は変わると考えられている。
・顧客満足とは事前期待のコントロールにより変化する
IT会社のA社とB社が、全く同じシステムインテグレーションのサービスを行ったと仮定しよう。
A社の営業員は、お客さまに対し「このシステムは難易度が高く、高度な技術を要しますが、お客さまのご意見やご協力をいただきながら、良いシステムに仕立て上げてまいります」と言い、やっとの事で受注に結びつけた。かたやB社の営業員は、「当社は最高の技術を元に、最高のシステムを作り込んで見せますので、すべてお任せください」と、圧倒的な競合との差をみせて受注した。その後、A社とB社は全く同一レベルのシステム構築を行った。
そこで、お客さまの事前期待にフォーカスを当ててみる。B社のお客さまは、「これだけ自信満々なのだからきっとすごいシステムを作ってくれるのだろう」と期待は膨らんだ。A社のお客さまは、「仕様は相互確認しているので、それなりのシステムは作ってくるだろう」と一般的な期待をしていた。この結果は、A社のお客さまの満足度が高くなる。
ここで伝えたいのは、顧客満足とは事前の期待をコントロールすることで、その度合いが大きくも小さくもなるということだ。ただ、少し注意が必要なのは、事前期待をコントロールし過ぎるがあまり、お客さまの期待も消えて、受注に結びつかない場合があることだ。これでは元も子もない。
さらに、CSを単純な満足から感動のレベルまで押し上げるプロセスが、その構築過程で盛り込まれていれば、サービスサイエンスの領域外で顧客満足の議論ができる。前回のコラム「商品力をUXで探る」ではオムニチャンネルの話をしたが、各タッチポイントにおける振る舞いの深さによって、満足から感動へのルートは作れる。
・セレンディピティから新たなアイデアが飛び出す
セレンディピティという言葉があり、ウイキペディアでは「ふとした偶然をきっかけに閃きを得て、幸運を掴み取る能力」とある。世の中はシナリオ通りに動くことはなく、偶然思いがけないところで、新たなサービスやそれを支えるアイデアが飛び出す。顧客満足と振る舞いの相関性はそこにあると常日頃感じている。
特にBtoBビジネスの世界では、顧客接点のある部署の人そのものが顧客満足と密接な関係を持っているために、お客さまとの応酬話法の中で培われる人間関係が、そのまま顧客満足すなわちCSと等価とも取れる。単なるご用聞き営業から脱却し、常にお客さまの事業の進歩やイノベーションについて考えていれば、会話の中のふとしたキーワードやヒントが自社サービスと協奏し、新たな価値を生むだろう。重要なことは、その関係の中で、常にセレンディピティを捉え続けることだ。過去に出会った優秀な営業員やSEは、常にその姿勢があったように思う。営業姿勢や開発姿勢、保守姿勢として、単にお客さまに満足してもらおうと思うだけでは、価値は生まれない。常にお客さまのなりたい姿を思い描き、提案する姿勢を忘れない。それこそが個客経験価値の創出であり、UXそのものだ。
・CSからHS(Human Satisfaction)への流れ
本コラムはUXを中心に据えているが、海外ではCX(カスタマーエクスペリエンス)、さらにHX(ヒューマンエクスペリエンス)といったキーワードまで登場している。以下は、Google社のGoogleトレンドというサービスで、世界の検索回数を捉えたものだ。
私はここで、以下の点に着目した。
(1)生産国はUX、消費国はCXを使う傾向
生産国と消費国という関係では、インドやドイツ、日本などの供給側すなわち生産国はUX、一方で英国、米国などの消費国はCXを使う傾向にある
(2)UX→CX→HXへの流れ
さらに、米国で登場したHXキーワードからは、ユーザー→カスタマー→人間へとセグメントの仕方が推移しているという仮説が成り立つ。従来の、サービスを受けるお客さまとしてのユーザーから、お客さま中心発想としてカスタマー、さらに壮大な人間性すなわちヒューマニティにまで進んでいるということである。
この仮説をそのままCSに転用すると、HSすなわちヒューマンサティスファクションという新たな領域へ足を踏み入れることになる。「エクスペリエンス/経験」と「サティスファクション/満足」が縦走しているこの時代こそ、単純なCSの枠を超え、人間として人類として接するさまざまな商品やサービスで、その本質を捉えた経験や満足の提供が求められている。
次回は、お客さまのタッチポイントにおいて、UXの提供手段として大きな力を持ちつつある動画について、掘り下げてみたい。
※文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。
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