誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

UXによるグランドデザイン

UXによるグランドデザイン

鹿島 泰介

長年のプロダクトデザインから離れ、インターネット最前線に飛び込んで10年が経過。ITの世界を多角的視点から取り組むデジタルマーケターの鹿島泰介が、デジタルマーケティングとUXの現在や未来について、予見力を駆使しブログを書きつづる。

当ブログ「鹿島泰介の「UXのトビラ2」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/tkashima/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


・UXデザインのれい明

1980年代半ばに、米国・サンフランシスコのID Two(アイディーツー)という会社を訪問したことがある。その時初めて耳にした言葉が、インタラクションデザインだった。
当時のアップル社のアイコンやGUIの多くは、この会社で制作されており、アイコンを作るために小さな蛇口や戸棚、ノートやペンなどのミニチュア模型が机上に散乱し、そのミニチュアを見ながら、デザイナーはデスクトップアイコンを丁寧に制作していた。
画面上では、単に2次元に表示されるものなのに、どうしてこれほどまでの立体感が必要なのかという、半ば疑問を感じながらも、究極のリアリティーを追求する姿に感動したことを覚えている。その後90年代初頭には、他の2デザイン事務所と統合され、現在世界でも、最も有名なデザイン事務所のひとつであるIDEO(アイディオ)が誕生した。いわゆるUXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)の母体は、ここで生まれたのではないかと個人的には思っている。

image_09-1.jpg

これからのUXデザインの要件

画面の中で、人は各種のシステムと対峙し、数々の業務をこなすが、その作業プロセスでいかに効率を上げるか、いかに多くの作業量をこなすかが基本課題だ。しかし、それだけが仕事ではない。その仕事の中で、いかに豊かな経験を得られるかや、いかに楽しく仕事をこなすかというエッセンスの組み込みが、昨今のビジネススキームの中心課題であり、それが米国では、ほぼ30年も前から考えられていたというのは、今考えると驚きだ。

image_09-2.jpg

ますます身近になるUX

今年に入って、さまざまなIT系雑誌でUX特集が組まれており、ユーザー(カスタマー)エクスペリエンスという言葉がますます身近になってきた。多くはGUI改善にスポットライトが当てられているが、一方でビジネススキーム全体を通してUXが語られる機会も増えてきている。


image_09-3.jpg

SMBG(スマートビジネスゲートウェイ)とは

今回は、その一例として、当社が本年2月よりサービスを開始し、多くのお客さまを獲得し続けているスマートビジネスゲートウェイを取り上げてみよう。
本サービスは「企業に蓄積されたデータに、ソーシャルメディアなどのビッグデータをブレンドすることにより、お客さまのニーズに応じた形でのデータ活用・分析を支援するサービス」だ。


image_09-6.jpg

このようなサービスは、一昔前には考えられなかったが、以下のような数々の革新が同時に起こったために実現できるようになってきた。これらの背景がそのままビジネス企画となり、本サービスを提供しているが、その企画段階からUXは検討されてきた。お客さまが当社サイトや社員、サービスと接触するタッチポイントの全てで、UXのエッセンスを封入しようと試みた。

ビジネス企画に至る背景とSMBGの誕生

1.ビジネストレンド : ビッグデータのハンドリングがビジネスの優位性を決定
2.テクノロジートレンド : Hadoopなどの大規模データを効率的に分散処理・管理できるソフトが現れ、一方ハードの機能や処理性能も大幅に向上
3.ソーシャルトレンド : FaceBookやTwitterなどのソーシャルメディアが急速に普及し、マーケティング全般への影響力が増大

これをもとに企画は進められたが、単に世の中がその方向に動いているからというだけで迎合したビジネス企画なら、市場には受け入れられない。ここでUX観点から見落とせないのは、すでにお客さまがお持ちの既存データにフォーカスしたことだろう。従来の商品開発では、自社データのみがベースになるが、これにSNSなどのビッグデータをブレンドすることで、その商品がヒットする精度は向上する。また、インフルエンサーという言葉をお聞きになったことがあるかもしれないが、彼らはヒットの予兆を先取りし、その盛り上がりの前に話題としてSNS上に情報を提供する、いわば口コミのプロであり、先導役だ。彼らはSNSの世界では、すでにマークされており、その発信や発言は、情報の価値や発信タイミング・頻度などにおいて一般の方々とは一線を画している。マーケティング観点から見ると、新商品やサービスの開発に大いに有効だ。
このデータブレンドとインフルエンサーの扱いにより、今回のサービスは有効性を認められたが、それは単に価値があるだけでなく、お客さまの分析能力や新商品開発能力を拡張したとも言え、経験価値(UX)の向上に大きく寄与している。


image_09-4.jpg

サービス開発におけるUXベースのアクション

1.データの利用者視点 : マーケターだけでなく、経営者や研究者、開発者さらに一般の従業員まで、そのターゲットを幅広く考慮
2.偏りがちな地域情報にもフォーカス : 関東/関西/中京地区に分け、その内容を分解表示(将来はさらなる細分化も企画中)
3.各種販売促進ツールをサービス公開に同期させて準備 : 単にWebサイトやペーパーメディアを準備するだけでなく、特に動画を充実させ、UXの向上に寄与

企画したものをリリースするには周到な準備が必要で、宣伝やプロモーションといった具体的なアクションは商品がヒットするかどうかを左右する。もちろん、これらだけでなくセミナーや、各種イベントへの参加もお客さまとのタッチポイントとして重要だ。資料一つをとっても、UXが練り込まれ、それが浸透していればサービスとしての一貫性を経験していただけるし、タッチポイント別の動画を用いることで感動までの導線が引ける。


image_09-5.jpg

 

・重要なことはサービスを触ってみて、驚くGUI

1.キーワードでの検索をベース : 事前設定でルーティン検索をサポート、もちろん自然検索にも対応
2.UXを意識したドリルダウン : 検索ワード→ランキング表示→気になるワード→SNS本文→詳細チェックのように思考の流れに沿って深堀が可能
3.インフルエンサーの発言にフォーカス : インフルエンサーのみに絞って表示
4.ランキング情報をカテゴリーで絞り込み : お客さまの知りたいことと、絞り込み結果が連動

本サービス自体は、そもそもマーケティング担当を意識していたが、ふたを開けると企画通りに、広報担当や開発者などにも活用シーンが広がり、素材集めや広告後の効果測定、イベントの反響など、最近は想定外の使い方にまでそのシーンが広がっている。
これらは、UXを織り込むことにより「こんなところでも使える!」といった使用価値をお客さま自身が見つけ、その一つひとつは経験価値として蓄積された証左だと言える。

・動画ベースのUXプロモーション

一度、本コラムで動画に焦点を絞って執筆したこともあるが、本サービスはまさに動画が最も機能している。営業観点やユーザー視点、オペレーター視点など豊富に動画を準備することにより、サービスに対する理解や活用効果まで瞬時に把握できる点は、UXを起点としたビジネスサービスとご理解いただけるだろう。

「Smart Business Gateway」コンセプト業種編

thumbnail_sbg_01.jpg

「Smart Business Gateway」コンセプト業務編

thumbnail_service1_05.jpg

ソーシャルデータ活用・分析サービス 活用編

thumbnail_service1_01.jpg

ソーシャルデータ活用・分析サービス 機能紹介編

thumbnail_service1_02.jpg

ソーシャルデータ活用・分析サービス 各部署での活用編

thumbnail_service1_03.jpg

ソーシャルデータ活用・分析サービス 営業企画での活用編

thumbnail_service1_04.jpg

GUIの単なるユーザビリティ改善がUX向上というのもありとは思うが、ビジネスサービス全体のグランドデザインをUXを通して考えるという今回の試みは、お客さまへのより豊かなUX(経験価値)を提供している。今回は新開発のサービスだからこそ実現できたのかもしれないが、既存のサービスであっても、ビジネススキーム全体を入り口から出口まで、お客さまのタッチポイントをベースとして見直し、UXを作り込めば、おのずとGUIのユーザビリティ改善もその方向性が変わってくるのではないかと思う。今回は、サービスのグランドデザインがUXに直結するというテーマだったが、スマートビジネスゲートウェイはまさにその考え方を体現している。次回は、UXとブランドの関連性について考えてみたいと思う。

※文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

 

------------------------

■日立システムズ 関連コラム
・BtoBインタラクティブマーケティングへのいざない
・ユーザーエクスペリエンスのチカラ 日本航空(JAL):「めざすのは世界一の顧客満足、マーケティング活動のすべてが顧客満足につながる」(第4回)