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【第1回】UX(ユーザーエクスペリエンス/顧客経験価値)をES(社員満足)の視点で見る

【第1回】UX(ユーザーエクスペリエンス/顧客経験価値)をES(社員満足)の視点で見る

鹿島 泰介

長年のプロダクトデザインから離れ、インターネット最前線に飛び込んで10年が経過。ITの世界を多角的視点から取り組むデジタルマーケターの鹿島泰介が、デジタルマーケティングとUXの現在や未来について、予見力を駆使しブログを書きつづる。

当ブログ「鹿島泰介の「UXのトビラ2」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/tkashima/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


昨年はUXについて持論を展開してきたが、市場、特にIT市場では、各種専門雑誌やインターネットメディアなどで「UX」が盛んに報じられ、一躍時代のキーワードとなった。しかし、このUXは一過性でなく、すでに欧米ではその有効性議論がかなり深掘りされており、UXをコアに据えた経営を志向する企業ほど、成功をおさめている。

"UXは今や企業の収益を左右する要件となってきている。"(ロバート・ファブリカント(Robert Fabricant)氏/デザイン・コンサルティング会社フロッグ(frog)のクリエイティブ担当バイス・プレジデントのコラムより)

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また、企業が活力を持ち、収益を上げ、成功していればいるほど、その会社の社員満足度も高いという結果は日本国内でも一般的だ。そこで、昨年はUXをお客さまとの接点に据えコラムを書いたが、今年はその関係をES(社員満足)という観点で、内側から覗いてみたい。

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そもそもESはCS(顧客満足)が起点で、お客さまに喜んでいただくためには、やはりその喜びを提供する「社員自身が満足でなければ、お客さまに満足をお届けできない。」という考え方に基づいている。社員が、つらい、大変だ、困った、お客さまと会いたくないと思ってお客さまに会うと、自ずとその気持ちが見えてしまう。

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この感覚は多くの方が理解、納得されると思うが、実はそれだけだとCSとESの関係を越えられない。ここにUXへの導線を引くとするなら、単に喜びを提供するだけでなく、お客さまの驚きや感動を引き出す仕掛けにまで、想いを馳せておく必要がある。つまり、何か問題や課題、注文があった時に、事前期待を超えることが必要になる。 結果として「すごいですね。」「やるなあ。」「こんなことは思いもつかなかった。」「そこまで当社のことを考えてくれているんだね。」ということになる。通常は、何かお客さまとの間で不都合なことがあると、その点ばかりに気を取られ、頭の中が真っ白になるのだが、常日頃から、自身の仕事に誇りを持ち、積極的で、組織を超えた付き合いもして、楽しいと思いながら仕事に取り組んでいれば、当然ES度は高いし、お客さまへの対応にも余裕が生まれる。

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ここで、リフレームという考え方について述べてみたい。大阪ガス行動観察研究所の松波所長からお話を伺った。行動観察研究所は、高齢者にどのようなサービスを提供すれば喜んでもらえて、ビジネスとして成り立つか、というプロジェクトを実施したそうだ。今、高齢者向けのサービスはさまざまなものがあるが、大きく成功しているものは思ったよりも少ないという。そこで、高齢者の日常生活を観察することにした。自宅ではどんなふうに過ごしているか、外出するときにはどんなところに行くか、などを細やかに観察したところ、意外なことが分かった。それは、高齢者が望んでいるのは「サービスを受けること」よりも、「他者にサービスを提供したい」ということだった。高齢者は、自分たちが世の中に役に立つ、という実感を求めて、お金を払ってでも「他者に役立つ」ことをしようとしていた、ということを聞いて、目から鱗が落ちた。高齢者に喜んでもらえるサービスを提供しようとするのであれば、高級老人ホームのように、高齢者に毎日催し物を用意してサービスを受ける側に置くだけでなく、何らかの形で高齢者にサービスを提供してもらう機会を設ける、ということが新しいサービスのトリガーになりうる。表面的かつ一方向からお客さまを見るクセがついていると、画期的なサービスは生まれにくい。この例のように、解釈の枠組みを変えることをリフレームという。

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翻って、従来の課題解決や注文への御用聞きから、再度その課題を上記のようにリフレームすると、お客さまの事前期待を超えることが可能になり、顧客経験価値を高められる。そのためにも単に私たち社員が満足し、ぬるま湯に浸っているのではなく、どうすれば、さらに自分たちは仕事を楽しめるのか、感動できるのかを、常に考え続けることが、お客さまへの豊かなUXを提供する源泉になる。自分達が驚き、感動するような仕事をすれば、それはそのままリフレームを実現する近道となる。

仕事を面白くする。組織を超え、仕事を広げる。場合によって、業種や業界の枠すら超えて仕事に弾みを付け、組織の内部変革と共に外部との繋がりを大切にすることの継続が、ESからUXへのルートとなる。

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日立では、「お客様のうれしいが、私のうれしい。」というスローガンでUX活動を進めているが、これが一歩進んで、「お客さまの感動は、私たちの感動!」というところまで、今年は進めたい。次回は、その議論のプラットフォームについて考えてみたい。

※文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。