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【書評】なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持だったのか?

【書評】なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持だったのか?

森川 滋之

ITブレークスルー代表、ビジネスライター

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ここ数年、人生の行き詰まりを打開してくれるのではないかという本を意識的に探してきた。

おかげさまで、幸福ということについては何となく分かってきたようで、今の僕は、精神的には以前に比べてかなり安定した。ぶっちゃけ幸福な状態なのです。

友人や仲間に恵まれ、妻との仲も良く、嫌な仕事はほとんどしていないし、取材などで話を聞く人もみな素晴らしいし、時間に関してもかなり自由で、夕方以降働いていることはほとんどない。

こんなに幸せで罰が当らないかとも思うのだけど、ただ1つ肝心なものがない。

それは、お金。

マネタイズ(現金化)が下手と言うのか、それなりに世の中に提供できる価値はあると思っているのだが、その価値が収入に結び付かない。

お金に対するリテラシーがないと言われると全くその通りだと思うのだが、しかし、一方でお金に対するメンタルブロックがあるなどと言われると、それはちょっと違うんじゃないのと思う。

お金をもらうことを卑しいとは思わないし、くれると言うならもらっておこうというタイプだ(ただ、実際、もらったお金に値するだけの成果物を出せないと落ち込むのも事実だが)。

かといって、今更貯蓄や投資について学ぶのも何だかなあと思っている。

こんな僕にぴったりの、お金に関するリテラシーを学べる本などないと思っていたのだが、あった。

『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持だったのか?』(山口揚平、ダイヤモンド社)がそれだ。

 

■ 注意事項

まず、お断りしておきたい。ゴッホやピカソの話はほとんど出てこない。

『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持だったのか?』というタイトルを見たら、ゴッホとピカソのエピソードをベースにお金に関するリテラシーを紹介する本だと、多くの人が思うだろう。少なくとも僕はそう思った。

実際には、ピカソのエピソードがちょっとだけ出てくるが、ゴッホのエピソードはほとんど出てこない。基本的には著者の考え方が中心で、補強のためのいくつかの事例でもピカソやゴッホの話はほとんどない。

僕は、実はゴッホやピカソの話を読みたくて買った。でも、騙されたとは思っていない。それ以上に得るものがあったからだ。

もう一つ、注意事項がある。

本書はお金に関するリテラシーを向上させるための本だが、貯蓄や投資、つまり資産増殖法については全く書いていない。

これは、僕の要望にはぴったりだったのだけど、利殖をしたいという人にとっては期待を裏切る内容となる。しかし、もっと重要なものを増やす方法については書かれている。

 

■ 本書のベースにある考え方

本書の根底にある考え方は、下図に集約できる。

2013040901.pngこの図をベースに、どうやって価値と信用を作っていくかが書かれている本だと思って間違いない(なお「信用」とは、クレジットカードの与信のような経済的信用も含まれるが、そういうのもひっくるめた本来の広い意味での信用)。

そうすればお金は自然についてくるし、またお金さえ要らなくなる――そういう話だ。

 

■ 本書が類書と一線を画すると考える理由

どこかで聞いたような話だと思うかもしれない。

たしかに、『フリー』や『シェア』などの現代の経済を語るベストセラーにも同じようなことが書かれている。また、内田樹さんのように「利他心」が今後の経済を形作るという人の主張とも似ている。企業理念が企業の繁栄につながるという『ビジョナリーカンパニー』や『本当のブランド理念について語ろう』などの本の主張とも通じる。

本書が、これらと一線を画すのは、上のピラミッドの図を見れば分かるように、考え方がすっきりと整理されているということ。

たとえば、利他の心がお金を生むと言われても、それだけではすっきりしない。企業理念についても同様だ。世の中、そんなキレイゴトだけでは金にならないのではないかと思う人が多いはずだ。

また、フリーやシェアというのも考え方としては分かるが、どうしてそれで世の中が回るのかということになると、今一つ明確な答えが出てこない。

何となく世の中変わりつつあると思っていても、本当にそれに賭けていいのかとなると、考え込んでしまう人が多いだろう。

また、資本主義が行き詰っていると考える人も多いようだが、ではその先のビジョンが見えている人はほとんどいない。それがフリーやシェアや利他心や理念の社会だと漠然と思っても、本当にそうかと言われたら確信を持って答えられる人は少ない。

少なくとも、僕は以上のようなもやもや感を持っていた。そしてこの本は、僕のもやもや感をほぼ完全にはらしてくれた。

もちろん著者独自の考え方であり、100%正しいとは言い切れない(未来予想も含まれているし)。しかし、僕にはかなりの納得感があった。

 

■ 僕の収入が少ないのは価値が足りないからか?

僕がこの本にかなりの納得感を抱くのは、書かれている理論をもとに今まで説明できなかったことができるようになったからだ。

たとえば、僕には以前から強く疑問に思っていたことがあった。 

それは、対価は価値に対して払ってくれるというものだ。

しかし、本当にそうなのか?

僕のような自由業は、ある年は稼げたのに、翌年はそうでもないということがよくある(前年よくて、今年はよくないという年の税金はつらい。地方税も国民健康保険税も源泉徴収してもらえないかと、こういう年には思う) 。

こういうとき、僕の価値が前年と今年とでは違うということなのだろうか?

こういうと、「対価=価値」派は、あなた本人ではなく、提供しているものの価値の話だという。

だとしたら、同じ内容のセミナーで何万円も取れる人と、数千円しか取れない人の違いは何なのか?

こんなことはよくあって、僕はこの前仲間内で無料でセミナーを開催したのだが、それが、某有名コンサルタントの数万円の同じテーマのセミナーより分かりやすくて、実践的だと評価していただいた。

要するに価値が価格を決めるのではないのである。

 

■ 「今の時代の信用」がお金になる

では、何で価格が決まるのか?

それについて本書は明確に答えている。

信用と価値の両方で価格が決まるのだ(※)、と。

よく言われるでしょう。「何を言ったかではなく、誰が言ったかだ」と。

某有名コンサルが語れば数万円でも、僕だと数千円だというのは、信用が足りないからなのだ。

これは思い当たることがあって、僕は自分の価値を高める努力はしてきたが、信用を高める努力はそれに比べればおろそかだった。

しかし、これからの経済においては信用がものを言う。

もちろん今までの経済においても信用は財産であった。しかし、これがネットに個人情報が蓄積される時代となって、今までとは違うレベルで重要性が増してきているのだ。したがって、今の時代に合った信用の蓄積法がある。

それを僕は知らなかった。そして、それが僕にお金が足らない理由だとはっきり分かった。

この本には、今の時代の信用の蓄積法についても分かりやすく書いてある。

まさに「人生の行き詰まりを打開してくれる」本だと言える。

※自分が言う「価値」の中には「信用」も含んでいるという人は、それはそれで正しいと思う。ただ、多くの論者は、価値を高めろとしか言わないので、収入が足りない人の多くが自分は無価値な人間だと思ってしまう。これは弊害だと思うので、本書のように「価値」と「信用」を分けて考えるほうが良いように僕には思われる。 

追記

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