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【次世代PR試論】日本語で文章を書くときに意識しておきたいこととは?

【次世代PR試論】日本語で文章を書くときに意識しておきたいこととは?

森川 滋之

ITブレークスルー代表、ビジネスライター

当ブログ「ビジネスライターという仕事」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


※「まず日本語について考えてみた」を改題しました。

これを読んでいる人のほとんどは日本人だろう。仮に外国人だとしても、日本語でPR文を書きたい人だろう。なので、最初に日本語について考えてみたい。

といっても、新しい国語文法を提案しようなどという大それた考えはないし、実際のところそれほど文法に詳しいわけでもない。

いちおう日本国のプロのライターの端くれとして、普段日本語の文章を書くときに意識していることを書いてみようという意図だ。

●日本語は「主語+述語」ではない

意味不明の言動に対して、よく「主語は何なんだ?」と聞く人がいる。僕はこの質問に対して、若干の違和感を抱く。

質問者は「それって、誰がやったの?」という意味で聞いている(時々「誰に」という目的語の意味で聞くこともあるが)のだと思うのだが、だったらそう質問するのが妥当だろう。

なぜなら僕は、日本語には主語という概念はあるにしても、主語が必須だとは思わないからだ。実際、主語を表す助詞(主格)である「が」が出てこない文が大多数だし、また「が」の前にある名詞がいわゆる「主語」でないことさえある。

よく言われる例だが、「象は鼻が長い。」という文を考えればよく分かる(なお、この文について一冊書いた本があると記憶しているが、僕は読んでいない)。

一般に、英語に直すと「An elephant has a long trunk.」(下図)となると言われている。

2014012902.gif

英語では、「S(主語)+V(動詞)+その他(ない場合もある)」という構造があるので、「has」という元の日本語にはない言葉を補うことになる。

さて英訳を見ると、主語は「象は」ということになる。しかし、日本語側の助詞の働きに注目すると「鼻が」が主語に見える。

どっちなんだ?

こういうことをもってして、日本語は論理的ではないという人もいるようだが、そういうことではない。

日本語には日本語の論理があって、それは英語とは違うというのが正しいのだと思う。

僕が考えるに、日本語というのは「テーマと記述」という構造を持っているのではないだろうか(下図)。

2014012901.gif記述というのは、説明の場合もあるし、描写の場合もあるし、意見の場合もあるし、感想の場合もある。その他にもあろう。

いずれにせよ、テーマをまず提示して、次にそれを解決する(まるで交響楽のようだ)というのが日本語の基本的な論理構造だと考えると、日本語の文章は書きやすくなる(英文和訳でしっくりこないときも、このように考えると良い翻訳になることが多い)。

その証拠に、日本語の文では、「が」という主語を表す格助詞(必ずしも「主語」ではないことは前述したとおりにせよ)よりも、「は」という題目(テーマ)を提示する係助詞(中学では副助詞と習ったかもしれない)が圧倒的に多く使われる。

●日本語の文章は「箇条書き」的

「テーマ+記述」という構造は、文単位だけではない。文章でもそうだ(下図)。

2014012903.gifタイトルや見出し、あるいは文章の冒頭にテーマを明確にする文があって、そのあとに記述がずらずらと続くのが日本語の文章のスタイルである。

上図を見ると、日本語の文章というのは「箇条書き」的なものだと分かる。それどころか、見出しがあって、箇条書きだけ並んでいても文章として成立する(昔、SE時代に書いていたシステムの基本設計書などは、まさにこういう構造だった)。

記述の部分は文である必要さえない。名詞の羅列でも構わない(実際『枕草子』にそのような段があったはずだ。「ものづくし」というやつ)。タイトルや見出しもそう。

英語とはかなり違いがある。

もちろん、英語の文章でも、テーマがあってそれを解決するというものは多いが、後述する深層心理的なものではなく、S+Vの構造の中で明確に表現するのが普通だ。

●日本語の気分(深層心理)を意識せよ

以上、日本語の特徴を英語との比較で述べてきた。

わかりづらい議論もあったかもしれないが、大事なのは、日本語の気分、つまり深層心理を理解して文章を書くことである。

先に「テーマをまず提示して、次にそれを解決する(まるで交響楽のようだ)というのが日本語の基本的な論理構造だと考えると、日本語の文章は書きやすくなる」と書いた。

これは裏を返せば、日本語というのは、先にテーマを提示して、それを解決するという書き方に向いている言語であるということである。

言い方を変えると、日本人には、「テーマ+記述」の羅列でコミュニケーションするとお互いに理解が進むという特質があり、これは普段意識されていない。普段意識していないが、使っている言語について考えてみるとそれが明らかになる。なので、「深層心理」と表現したのである。

また、わかりづらくなったかもしれないが、英語と比較してみるとわかりやすくなるだろう。

先ほど、「象は鼻が長い。」の英訳は一般に「An elephant has a long trunk.」とされると書いた。英語の持つS+Vの構造に直すということであれば、これは自然だ。

だが、深層心理まで含めて訳すと少し違ってくる。それであれば、「I talk about an elephant--It has a long trunk.」(すみません、英語に自信はないのだけど、意図は伝わっているはず(※))と訳すべきものなのだ。

これが日本語だと「象は鼻が長い。」で済む。

日本語が、「テーマ+記述」というコミュニケーションに向いているというのはこういう意味、つまりそのための適した表現があるということなのだ。

具体的にいえば、英語では「I talk about(※)」の部分が、日本語では「は」という一語に込められているのだ。

我々は、日本語というものはこういうものだということをまず理解しなければならない。

そして、このように理解しておけば、巷で言われている「分かりやすい日本語の書き方」も自ずと導かれて来るのである。

次回は、「分かりやすい日本語の書き方」と今回述べた日本語の構造との関係について述べようと思う。

※これを書いた後、同時通訳をなさっている方から、「~は」という日本語が出てきたら、主語にするより先に「Regarding~」で置き換えられないか考えると教えていただいた。なるほど。言われてみればそうですね。であれば、先ほどの文は「Regarding an elephant, it has a long trunk.」となる。それでも、「Regarding」と「は」とでは雲泥の差だ。なお、プロの通訳は、こういうことをきちっと意識しているということを知ったのは意義深いことだった。

追記

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