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【書評】『バリュープロポジション戦略50の作法』~半歩進むことの大切さ
当ブログ「ビジネスライターという仕事」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
薄い本なんです。
表紙と奥付をいれて120ページしかない。
しかも、見開き2ページで1章です。1章ごとに改ページしなければ、たぶん80ページぐらいしかないと思われます。
でも、内容には厚みがある。
普通のマーケティングの本より半歩深い。
●半歩の工夫が大きな差に
一歩深いとまでは言わない。
半歩深く感じる。
でも、これってすごいことだと思います。
永井さんは、普通の人より、少しでいいから深く考えようとする人なのでしょう。少しである代わりに、あらゆる機会でそうするのでしょう。
こういう人には、なかなかかなわない。
たとえば、こういう感じの深みです。
1/4インチのドリルを購入した人々が必要としているのは、直径1/4インチの穴である
ハーバードビジネスレビューの編集長も務めたセオドア・レビット教授の言葉だそうです。顧客志向と製品志向の違いを一言で述べた言葉としてよく知られています。
私も、あるセミナーでこの話を聞き、自分のセミナーでも引用させてもらっています。
永井さんは、これを認めたうえで、さらに、本当に穴を開けるのがいいかまで考えないといけないと言います。
みんなが「そうだよね、欲しいのは穴だよね」と感心している中、永井さんは常にもうちょっと先のことを考えているのです。
一歩先かというとそれほどでもない。ただ、あらゆることを半歩先まで考えている。こういう人は本当に恐ろしい。ちょっとの差で人に勝てることを知っていて、実践可能なことを継続する。
●バリュープロポジションとは?
さて、本題の「バリュープロポジション戦略」とは何でしょうか?
3C戦略という言葉をもしかしたらご存知かもしれません。
世の中には、顧客(Customer)と競合他社(Competitor)と自社(Company)の三者がいて、それぞれを分析して、企業戦略を立てようという考え方です。
バリュープロポジションにおいても、この三者が登場します。
自社が提供できる価値と顧客が望んでいる価値で、共通する部分をまず探す。
ここまでは、どの会社も探す部分です。
次にそこから競合他社が提供できる部分を大胆に取り除いてしまう。
そうして、残った部分がバリュープロポジションだと言うのです。
実に分かりやすいのですが、この考え方にも、半歩先を感じます。
競合他社が提供できる部分を大胆に取り除くということは、聞けば当たり前のようですが、こういう発想はなかなかできない。
だって、競合他社が取り入れた機能を自社も取り入れようとするのが普通だから。
こうして機能追加競争をしていくうちに、それは顧客が望むものというよりも、どの会社から買っても同じもの――差別化できていないもの――ばかりになります。
たとえが適切かは分からないのですが、アップルのiPadは、同社が必要ないと思ったものは、たとえ顧客の大多数が望もうが切り捨てています。
それでも、iPadしか現在は持っていない価値があり、顧客はそれを求めて殺到するわけです。
●分析では、新市場は生まれない
「50の作法」というとおり、全部で50個の半歩進んだ話が載せられています。
話の内容自体が半歩進んでいなくても、事例やたとえが半歩進んでいます。
そういう本です。お値打ち感は非常に高い。
薄いので読むのに時間がかかりません。なのに、とても深いものを手に入れることになる。
もう一つだけ、特に感銘したところを紹介します。
市場規模を把握し、評価する方法では、新規市場は生み出せない。誰も気づかないビジネスの芽を見いだし、情熱をかけて育てていくことで、新市場が生まれる
例として、ヤマト運輸を挙げています。
「宅急便」の初日取扱量は11個でした。それが33年後の2009年には宅配便(「宅急便」だけではありません)の年間取扱量は31億個になったんだそうです。
当時は、宅配便サービスに市場があるなんて思っているマーケッターやアナリストはいませんでした。分析すればするほど、将来性がなく感じられたのでしょう。
では、新市場を創っていくのには何が必要かというと、分析ではなく、信念と情熱だとのこと。
マーケッターでこういうことをサラリと書けるのは、やはり半歩進んでいる気がします。
●もうちょっとだけ考えてみよう
どんなことでも、半歩だけいいから先に行く。そのためには、人より1日でも半日でも1時間でもいいから、ちょっとだけ多く考える。
この積み重ねが大事なのだと思います。
分かった気になっている限り、分かったわけではないのです。
誠ブログのオフ会に行くと、無料で本がもらえます。
その代わりに書評をブログに載せろということなのですが、この本に関してはかなりしつこく、「書評を書け」というポストイットまで貼ってありました。
実際、いい本でした。
なお、この書評は、昨日の333営業塾のメルマガと、ほぼ同内容です。
http://www.itbt.biz/333eigyo/mailmag/000347.html