商品を絞り込み、その代わり世界的な商品にし、製造においても分業を徹底して、それぞれが深く狭い専門家として工夫できるようにせよ――と松下幸之助さんは、昭和21年に言っています。

製造に関する考え方は、今は多少変わってきていますが、原理原則――絞り込みと専門特化――は変わらないようです。

専門特化のとらえ方が、昔よりは広くなっているのではないでしょうか。これは昭和21年当時と比べると、知識労働者の占める割合が増えたからだろうと思います。彼らは、単純作業よりも多少複雑な作業のほうがモチベーションが高まるからです。

さて、世の中には器用貧乏という言葉があります。

以前の私がそうでした。器用貧乏というより器用極貧でした。

「やれることを全部やろう」という言葉があります。

これは、あくまで領域を絞り込んだ上で、そこでできる工夫・努力を成功するまでやり続けるという意味です。

ところが私は大いに勘違いしていました。

起業当初、私は自分がやれる分野のすべてに手を出していたのでした。

まずSE向けの本やメルマガを発行し、セミナーを開催しました。

一方では、パートナーの営業コンサルタントである吉見範一氏の営業セミナーをプロデュースし、集客をしました。

その上、アルバイト的に事例取材をし、IT関連雑誌に寄稿もしました。その裏で、吉見氏をモデルとしたビジネス物語の連載もしていました。

講師の仕事があれば受けました。

なのに全然儲かりません。貯金はどんどん目減りしていき、前年の収入が多かったので地方税が払えなくなり、妻に借金をしました（いまだに返済中です）。

やればなんでもできるのです。しかし、集中しないと、ただ忙しいだけになります。少なくとも食えるだけの仕事がこないのです。

そこで、自分のコンテンツをもう一度見つめ直し、「誰に」「何を」「なぜ」提供するのかを熟考し、吉見氏のプロデュースに集中することにしました。メルマガもそのためにリニューアルし、またそのために本を書きました。

さらにその1年後には、事業の中心を吉見氏とのパートナーシップとし、そこに集中したところ、それまでまったく取れなかったコンサルの仕事が、次々と取れるようになりました。

現在、コンサルの仕事が一段落してしまったので、今度は研修を中心にやっていこうとしていますが、これも現在かなり集中して動いています。そのおかげで、手応えも十分です。

能力は分散してはいけません。特に個人事業主は、それこそ一人しかいないということを忘れずに、できるだけ狭く、その代わりたくさんのことをやるというのが秘訣です。

今日の一言）できるだけ狭く、その代わりたくさんのことをやるのが、立ち上げ時には特に必要。なんとなくうまくいっていないときも、同じことが必要。