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「販売という『難行苦行』」に耐えないと「たたき売」られるだけ

「販売という『難行苦行』」に耐えないと「たたき売」られるだけ

森川 滋之

ITブレークスルー代表、ビジネスライター

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31C.jpg一倉定(いちくらさだむ)という人がいた。

熱血で知られる経営コンサルタントで、社長を小学生のように叱りつけ、ときには手にしたチョークを投げつけたという逸話が残っている。

こういう人のほうが、死んでからも慕われるのかもしれない。1999年に亡くなったが未だにファンはたくさんいて、本も売れている。

日本経営合理化協会という、これも社長向けに高い本ばかり出している会社があり、『一倉定の経営心得』という本を出している。たった104ページで3,300円(税抜)もするのだが、経営者にとってはその価値は十分にある本だろう。

耳に痛い言葉ばかりが並んでいる本だが、儲かっている中小企業がきちっと実践していることが網羅されていると言えるのではなかろうか。僕が知っている範囲でも、できている会社はきちっと収益が上がっている。

その中に、「下請けの低収益から脱出したければ、販売という『難行苦行』に耐えなければならない」というかなり厳しい言葉がある。

意図はこういうことだ。

下請加工というのは、事業経営で最も大切で、最も難しく最も苦しく、最も根気強く推進しなければ成功しない「販売」という活動をしなくてもすむ。一番苦しいことを避けているのだから、低収益は当たり前(後略) (『一倉定の経営心得』より)

 

※画像はAmazonから拝借しました。書名および画像からはAmazonアソシエイトにリンクしているのでご注意ください。

 

る人から教えられた記事を読んで、最初に思いだしたのがこの言葉だった。

「『Web制作の現場で起きているのは、クリエイターのたたき売り』 元フリーランスの開発部長が描く『Webの仕事探し』の理想形」という記事である。

簡単にまとめる。

「たたき売り」が起こる一番の問題は、仕事の質を担保できないのに安く仕事を受けてしまうクリエイター(プログラマーやデザイナーなど)がいるせいなのだが、一概に彼らを責めるわけにもいかない。

二つ理由があり、一つは、クラウドソーシングというマッチングモデルが"逆オークション"を引き起こしていて、低価格化を招いていること(注)。

もう一つは、Web制作の現場では横断的なスキルが求められるのに、従来の職種のくくりで単価を設定されてしまうこと。

このような問題点を解消すべく、「元フリーランスの開発部長」である赤澤仁士氏が立ち上げたのが、スキルプルというサービスである。

要するに、スキルプルの紹介記事なのだが、赤澤氏は本質をつかんでいて、問題提起も実践している解決策もともに正しいと思う。

スキルプル自体は、まだ立ち上げたばかりで今後どうなるかは分からないが、ぜひ成功してほしいモデルだと僕は思う。

(注)この部分は、参照した記事における意見であり、実際のクラウドソーシングがそのようなネガティブな側面しかないかどうかは調査が必要だということをお断りしておきます。

 

かし、 これがクリエイターにとって福音かというと、そう単純ではない。

たくさんの好意的なツイートと「いいね!」がついている。赤澤氏の考えに共感した人が多いということだろう。

しかし、中には安易にいいと考えた人もいたのではないだろうか? そういう人には、さきほどの、「下請けの低収益から脱出したければ、販売という『難行苦行』に耐えなければならない」という言葉を贈りたい。

これは、スキルプルが、販売の代行をしてくれているからという意味ではない。まったく逆だ。

スキルプルが低価格なのは、販売の代行をしていないからだ。販売のインフラを提供しているだけだから、こんなに安いのだ。

販売努力は自分でしなければならない。記事にもこう書いてある。

スキルプルでは、クリエイターが企業の案件情報を閲覧したり、企業にプッシュ型でアプローチすることができない。サービス名の通り、クリエイターは自分のスキルで企業からのオファーをプルできる(引っ張ってこられる)人にならなければならない。クリエイターにとっては、まさに完全実力主義のサービスなのだ。

これを読むと、「クリエイターとしての実力と実績」さえあれば引っ張りだこだと思うクリエイターが多いのかもしれない。

そこが販売努力をしたことのない人が陥りがちな勘違いなのだ。

下請に甘んじている中小企業と一緒である。下請企業も自分たちの実力と実績には自信があるのだ。そうでないと低収益なのに続けることはできない。

 

キルプルで潤うのは、クリエイターとしての実力と自分を売り込む営業力(仕事の実績だけではアピールできない!)、この両方を兼ね備えた人だけである。

スキルプルのサイトに行って、クリエイターの個別のページを見てほしい。そして、発注側の気持ちで見てほしい。そうすれば、いかに売り込むのが大変だと分かるだろう。

たとえば、「何でもできる」ように書く人が多いようだ。しかし、発注側から見れば、何でもできるは何にもできないと同じこと。

基本的なアピールの仕方を知らないと言わざるを得ない。PRなどを含む営業経験がないとこうなる。

スキルプルは、発注側にとっては低価格とはいっても、オファーだけで費用がかかる仕組みだ。アピール力がなければ、オファーはしてもらえない。であれば、基本的なPRスキルとテクニックが必要になるが、そのことに思いを馳せているクリエイターはあまり多くないように見受けられる。

スキルプルに登録している人のほとんどは腕に覚えのある人だろう。その中で、オファーされるということは容易なことではない。そこにもスキルやテクニックが必要なのだ。

 

り込みがうまいだけだと、そのうち仕事がなくなり、淘汰される(ただ、失敗実績が共有されないようなので、いやな話だが、実力だけの人よりは生き残れるかもしれない)。

実力だけでは、その前に仕事がこない。

片方しか持ち合わせていなければ、結局は安売りするしかない(注)。

そういう意味で、スキルプルあるいは今後あらわれるであろう同様のサービスの進展にはとても興味がある。どれだけのクリエイターが本当に恩恵を受けられるのか? 今後、営業力も備えたクリエイターが増えていくのか?

ただ、ちょっと思った。 「両方を兼ね備えた人」には、スキルプルは要らないのかもしれない、と。

 

(注)訂正とお詫び:当初この部分は、「結局はクラウドソーシングで安売りするしかない」と書いておりました。 その後、クラウドソーシングに携わる業者様から丁寧なメールをいただき、公平性を欠いていたことを大いに反省し、「クラウドソーシングで」の部分を抹消いたしました。訂正するとともに、心ある業者様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。なお、いただいたメールの要点だけを以下に箇条書きいたします(箇条書きではそっけないですが、いただいた文面は大変丁寧なものでした)。

  • インターネット上で仕事ができる、距離や時間、場所に囚われない働き方を提案することが我々のミッションである
  • 能力の逆オークションという側面はないと言えないが、対策は打っている(最低依頼金額の設定、個人の実績の見える化など)
  • それ以外にも複数の仮説を持って、当たり前に暮らせる水準の報酬を提供すべく、日夜サービス改善に励んでいる
追記

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