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今年度の予算を達成したいIT企業のマネージャは絞り込め
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副業的に、IT企業専門の顧客導入事例を書いています。
昨日も、某大手SIer(A社とします)と事例制作のための事前打ち合わせに行ってきました。
事例制作について、念のため説明しておきます。
A社が僕のお客様です。A社のお客様(Z社とします)があり、そこがA社の提案したシステムを導入して、とても満足しています。A社はZ社の担当者の声を、客観的事実としてPRに使いたい。
そこで、第三者である僕がZ社に取材しにいって、"客観的"な記事を作成するわけです。
客観的といっても、A社にとってあまりにも都合の悪いことは書けません(多少の批判であれば、逆に正直でいいという話になりますが)。そして、Z社が言ってもいないことを書くこともできません。また、当然ですがZ社が「オフレコで」ということも書くことはできません。
つまり、ある程度隠すことは必要ですが、嘘をつくわけにもいかない。
限られた取材時間で、Z社からA社にとってベストの発言を引き出さないといけない。ベストの発言と言っても、ベタボメだとうそくさくなる。具体性がないといけない。"誘導尋問"をすることもありますが、後で読むとなんとなく不自然になる。
たぶん、みなさんが想像する以上に難しい仕事です。
自社で作る事例もあるようですが、この微妙なさじ加減ができなくて、だいたい失敗するようです。
このように難しい仕事なので、Z社を取材する前のA社との綿密な打ち合わせは欠かせません。
A社は、システム開発よりは、パッケージソフトや専用ハードウェアなどでソリューションを提供することを得意とする会社です。僕は、このような業態の会社をIT商社と呼んでいます。
IT商社の中でも、A社はかなり大手であり、また「高いがモノもよい」という評価を得ています。車に例えれば、カローラではなくクラウンを販売していると言えばいいでしょうか。
難しいのは、カローラとクラウンであれば見れば分かるわけです。試乗したらもっと分かる。
しかし、ITシステムにおいて、カローラとクラウンの違いは、実に分かりにくい。
だから、事例によるPRが必要となってくるわけです(そして、先ほども書いたように事例制作は難しい)。
僕はいちおうIT業界に18年半在籍し、その後もずっと何らかの形(事例制作、研修、コンサルなど)でIT業界と関わり続けています。今年で25年目。少なくとも、企業で使われるシステムについてはよく知っていると思っていただいていい。
なので、僕なんかが話を聞くと、すごくいい商品なんだとすぐに分かる。
ところが、市場はそのように認知してくれない。
こんなことでお悩みのIT企業のマネージャはたくさんいるのでは? と思って、この記事を書いています。
多くのIT企業は、各部門で予算を持たされていると思います。
開発部門と営業部門が分かれている場合は、開発部門は内部売買、営業部門は外部売買でそれぞれ予算の達成を求められるのが普通でしょう。ソフトウェアの開発と運用については開発部門、その他の機器販売については営業部門という会社もあるかもしれません。そういう区分けに意味が見出せないので、開発部門と営業部門を分けない会社もあります。
(というより、僕が昔いた会社は、事業部ごとにマチマチでした。そんなんあり?)
鉄板のお客がいる部門のマネージャは楽チンです(その代償としてエンジニアの士気は低いですが。お客の「わがまま」を最大限聞かないといけないので)。
そうでないと、予算編成段階で、新規開拓の枠を持たされることになる。
昨日打ち合わせした部門は、どどどーんと新規開拓の枠を持たされている部門でした。
もちろん一生懸命努力しています。
事例制作は、広告予算を持っているマーケ部門からの依頼が普通なのですが、A社は現場部門からの直接の依頼でした。それだけでも、必死さが伝わってきます。マーケに任せず、自分たちでやろうということですから。
しかし、逆にいえば、努力が報われていないわけです。
そして、このような状態にあるときには、必ず陥っている症状があります。
僕は、聞いてみました。
僕:「この事例、どこに持っていこうとしていますか?」
A社営業担当:「○○業界です」
僕:「でも、Z社は△△業界ですよね? 持っていけるんですか?」
A社営業担当:「うーん・・・」
僕:「いや、持って行けますよ。シナリオさえしっかりしていれば」
シナリオというのは、営業の進め方のことです。一例を挙げると、「○○でお困りの方へ」というDMを1000通送って、いきなり商品説明をしてしまい、「もっと確信を得たい方は、添付の事例をお読みください」とやる(注)。
仮にこのシナリオでやるとすると、DMの配布先と「○○でお困りの方へ」という部分をどうするか、要するに「誰に」読んでほしいのかという部分が最重要になります。
だから、僕の次の質問は以下のようになります。
僕:「誰に読んでほしいんですかね?」
この問いに、A社営業担当は案の定、いろんな対象を挙げてきました。これが前述した「必ず陥っている症状」です。
そのとき、横にいた技術担当者が言いました。「それじゃあ、ささらないよ!」
ビンゴ! さすがにIT商社の技術担当者です。マーケティングについてよく分かっておられる。
(注)このように使うなら事例の業界はあまり関係なくなります。既に興味を持っているからです。逆に、興味を持たせるほうで事例を使おうとすると、業界・業態・規模などがピッタリこないと読んでもらえません。つかみで使うのか、クローズで使うのかで同じ事例でも結果は全然変わってきますし、当然書き方も変わってきます。「AIDMA」という言葉をご存知なら、最初のAでもMでも事例は使えますが、書き方は変わってくるということです。
A社営業担当を貶めるのが目的ではありません。このような方がほとんどなのです。
僕も人のことは言えません。現役時代はA社営業担当とまったく同じでした。
絞るという発想がなかったのです。あるいは絞り方がよくわからなかった。なので、僕自身、常に予算が達成できないマネージャでした。つまりボーナスが少ない・・・。イタい過去です。
技術担当の方も、絞ることの重要性は十分お分かりでしたが、絞り方となるとアイデアがなかったわけです。
だからこそ、絞ることの重要性を認識し、絞り方さえ分かれば、予算の達成はそれほど難しくないと言えます。
みんな知らない(この「みんな」には競合会社も当然含まれます)から、ちょっとしたことで優位に立てるのです。
では、どういう絞り方がいいのか?
みなさん絞るというと業界を絞りたがります。
それはそれでいいのです。
ただ、営業戦術として、とりあえずはX業界を回ってみようというのはいいのですが、先ほどのようにシナリオが練れていないと、○○業界を回るのに△△業界の事例を持って行ってちぐはぐな結果になるおそれがあります。
今回の製品は、業界に特化した製品ではありませんでした。ITの場合、業界向けソリューションと呼ばれるモノ以外はそのような製品がほとんどでしょう。
この場合、ペイン(痛み≒課題)で絞るのが正解です。
先ほどの「○○でお困りの方へ」の部分です。ここを明確にすることです。
詳しくは書けませんが、今回の製品は、あるシステム運用業務に特化したものでした。
この業務は、とても重要なのですが、まともにできている企業がほとんどないという代物です。重要だと思いつつも、緊急性が低いため実行していない企業も多い。
このときに二つの選択肢があります。まだやっていない企業を"啓蒙"して市場を拡大する、というのが一つ。やっているのだが、まともにできているのか不安に思っている企業の不安を取り除き、受注の可能性を高めるというのがもう一つ。
"啓蒙"のための事例と、不安除去のための事例はまったく書き方が違ってきます。事例制作者としてはここを明確にしてもらわないといけない。
そして、"啓蒙"のための事例はうまくいかないケースが多い。ペインがないからです。
ペインを持たせるためには、"成功"事例よりも、「よくある失敗集」といったリーフレットのほうが効果があります。
ということで、僕のおススメは不安除去でした。
また、Z社以外にも何社か採用企業がありました。その共通点を洗い出してみると、面倒くさいのでなんとかしたいというペインがもう一つありました。この業務、基本的には利益を生み出さない。万が一に備えてやっているのです。それにしては人件費がかかり過ぎ。
そこで、「対象業務がちゃんとやれているのか不安なうえ、人件費もかかっている。いっそプロにお任せしたい」という会社を対象にすることにしました。
ここまで絞ると事例も書きやすい。
事例としてはここまで絞れば書けるのですが、しかし効果がなければリピートもありません。僕はライターなのですが、コンサル的なこともやらないといけないのです。
そこで、つかみとしてはもう一絞りほしいという話をしたところ、「その対象なら、すでに自前でやっているわけだから、現在稼働しているシステムが1年以内でリース切れになる、というのを付け加えたらどうだろう」というアイデアが、A社から出てきました。
その条件なら、真剣にDMを読んで検討してくれるはずです。
仮に1000社に配布したら30社ぐらいは該当しそうです。
ここまでペインが明確であり、(僕が思ったように)いい製品なら、10社ぐらいは買ってくれるでしょう。実は、あと5社採用してくれたら予算達成という話だったので、話半分としても達成可能です。
1000社で不安なら3000社ぐらい配布すればいい。
上半期の予算だと、今からではかなりきついでしょうが、今年度ということであれば、今からでもまだまだ手は打てます。
これを読んで、予算達成に不安のあるIT企業のマネージャが勇気を取り戻してくれたら幸いです。