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「就活生の95%は読んではいけない就活本」を薦めたい人たち
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いっけん煽りにも見える刺激的なタイトルだが、氏は大まじめに3秒で決まる根拠を書いていて、説得力もある。
256ページ、15万字(著者本人に確認)というなかなかのボリュームだが、文章が読みやすいのと、あまりにも内容がユニークなので、3時間ぐらいで読み切ってしまった。
内容が薄いわけではない。常識と思っていたことが非常識であったと分かることは、サスペンス小説を読むのに似た楽しさがある。小説形式は取っていないが、小説のように面白い。
※リンク先はアマゾンアソシエイトです。写真はアマゾンのサイトから拝借しました。
内容は驚くべきもので、この本に書かれている通りにすれば、100%就活に成功するものと思われる。
読了直後、僕は次のようなメッセージを書こうと思った。
就活生は、今持っている就活本をすべて捨てて、これを買うべし、と。
えっ? 字が小さくて見えない? いや、このメッセージは破棄したので、読みづらくしているだけです。
今、送りたいメッセージは、タイトルの通り。
就活生の95%は読んではいけない。
一方で100%成功すると言いながら、もう一方で95%は読んではいけない、などと書く。なんじゃ、そりゃあと思うのが自然だろう。
理由はある。聞いてもらえますか?
そのためには先に、この本について簡単に説明する必要があるだろう。
採用者の立場で考えれば、できるだけ効率的に良い学生を採りたい。そこで、2つの3秒ルールがあると氏は言う。
一つは学歴での選別。もう一つは面接の第一印象での選択。どちらも3秒あれば済んでしまうことである。
学歴での選別はこうである。氏は、就活生を学歴で3つに分ける。就活エリート=3万人、エリート予備軍=7万人、一般軍=40万人。これらは大学名だけで分類される(注)。
就活エリートは10個程度の特定大学の学生に限られる。彼らは受験勉強を通じて短時間で効率的に物事をこなす能力を既に身につけている。また入学後には、上には上がいる現実を既に見てきている。高度な挫折を体験しているわけだ。
地頭の良さと高度な挫折の二つはビジネスに必須の能力と体験であり、すでにそれらを持っているというアドバンテージは限りなく大きい(と採用官たちは考えている)。
エリート予備軍は、就活エリートのように他は差し置いても採用というほど恵まれてはいないが、OBが多いことなどもあり、さまざまな特典がある。それらを上手に使えば高い確率で志望する会社に就職できる。ただ、予備軍というように当落線上にいるのは間違いない。
問題は、一般軍である。よほどの努力をしないと志望している会社には就職できない。そして、その努力のほとんどが間違っている。氏が一番読んでほしいと考えているのは、この一般軍の人たちであることは言うまでもない(エリート予備軍の一部にも向けている)。
(注)同書を読めばわかるが、氏は学歴差別をしているのではない。たくさんの採用官から聞いた"現実"を書いているだけだ。
最初に「この本に書かれている通りにすれば、100%就活に成功する」と書いた。
まあ、中には面接に真っ赤なジャケットを着ていけとかジーンズを履いていけなどと極端なことも書かれている。これは真にうけなくてもいいだろう(ただ、リクルートスーツを脱げというのは僕も賛成だ)。
氏の主張は、「コンサル脳」を鍛えれば就活など楽勝、というものである。同書でいえば、4~6章に書かれていることを忠実に実践すれば、「コンサル脳」は身につく。
特殊な才能も高い能力も要らない。言われたとおりに、やってはいけないことを避け、勧められたことをやる。これだけでいい。
それなのに、なぜ95%に読むな、などと言うのか?
世の中、その通りにやれば100%うまくいくに違いないということがある。大した能力も才能も要らない。愚直にやるだけ。
このような内容のものには不動の法則があるのだ。
実際にやれる人は5%しかいない。
おやおや、いつもの成功本批判のようになってきたと思う読者もいるかもしれない。そこはちょっと違う。
荒木氏の書いていることはありきたりな成功法則などではない。25年を超える社会人経験のある僕が、次は何を言うのだろうとついついページをめくってしまうようなことである。
いわば「トップコンサルが今まで書いてこなかった秘儀」とでも言えるようなものである。言われてみれば当たり前のようなことも書いてあるが、じゃあどこかで読んだかというと思い当たらない。
こういうものは得てして、うまくいくと分かっていても心理的な抵抗を伴うものなのである。
体にいいからとジョギングを勧められても、続く人は5%ぐらい(この数字は僕のイメージだが)しかいない。ジョギングに特殊な才能など要らないのだが続かない。それと一緒のことである。
だから、95%には薦めない。
「自分には特殊な能力も才能もないが、就活には成功したいので、絶対にやり切る」という5%の人に薦めたいのである。
この本には甘い期待はない。お涙頂戴的なドラマもない。徹頭徹尾シビアな現実をたたきつけてくる。ただその中に、希望は残されている。そういう本だ。
生半可な覚悟の学生は、絶対に読まないほうがいい。シビアな現実に最後まで読むことすら難しいだろう。そうなると間違った読後感を得ることになる。荒木氏の本当のやさしさは最後まで読まないと分からないようになっている。
実は、もっと薦めたい人たちがいる。
それを書く前に、そもそも「就活の成功」とは何かについて考えてみたい。
多くの人は第一志望の会社から内定をもらうことと言うかもしれない。
ところが、荒木氏は「決して第一志望の会社を決めてはならない」などと書いている。
それでは、定年までの人生を勤めても後悔のない会社に入ることか?
それも違うと氏は言う。それどころか一社目はどこでもいいなどと書いている。
では、どこでもいいから会社に潜り込むことか?
これは多少近いのだが、やっぱり違う。
それでは、「就活の成功」とはいったい何なのだ?
僕なりに氏の意図するところをまとめると、就活の成功とは「就活を通じて社会に入ってからも生き残れる力を獲得すること」。これに尽きる。
であれば、一番薦めたいのは、実は既に会社で働いている人たちなのである。
特にいまの職場に不満がある人たちだ。
解決方法は何でもいい。転職もあるだろう。独立・起業もあるだろう。配置転換でもいい。社内改革の志士になってもいい。
どの道を選ぼうとも必要となる考え方が、実はこの本には書かれている。あなたに応用力さえあれば。
そのほかにも、業績を伸ばしたいと考えている人たちにも有益だ。たとえば、面接における第一印象の3秒ルールなどは営業マンにも大いに役に立つ。
僕としては、学生に薦めている場合ではないのだ。