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3つの初心

3つの初心

森川 滋之

ITブレークスルー代表、ビジネスライター

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「初心忘るべからず」という箴言(いましめの言葉)は、ほとんどの人が知っているだろう。

しかし、その「初心」に3つあるということを知っている人はあまりいないのではなかろうか。

と偉そうに言っている僕も、実は今朝知ったばかりだ。

驚いたし、内容も深いと思われるので、シェアする次第である。

 

■ 3つの初心とは?

世阿弥といえば、『風姿花伝』が有名である。現代でも通用する教育書として評価されている本だ(当然ながら、体罰で指導しようなどということは書いてはいない)。

その他にもたくさんの著作がある(Wikipediaでは22冊挙げられていた)。「初心忘るべからず」は、そのうちの『花鏡』(かきょう)の「奥の段」に、「当流に、万能一徳の一句あり」として紹介されている言葉だ。

つまり、秘伝なのである。活用しない手はない。

そこで初心には、「是非」・「時々」・「老後」の3つがあるとされている。

下図にまとめてみた。

2013020201.png

一つずつ説明していこう。

 

■ 自分が初心者のときのみっともなさを思い出せ

「是非」とは、「是非によらず修業を始めたときの」が略されたものだ。つまり入門時の初心。

人は、芸事でも仕事でも、ある程度できるようになると、自分が初心者だったときのことを忘れてしまう。

しかし、自分がみっともなかったころのことを忘れてしまうと、そのときの悪い癖が自然に出てしまう。当時を思い出して、意識して悪い癖を出さないようにしなければいけない。

多くの人は、「仕事で行き詰まりを感じたときに、まだ始めたばかりの初々しい気持ちや、その職に就こうとした志を思い出して、元気を取り戻そう」ぐらいの意味と思っているだろうが、そうではない。

もちろん、この気持ちが悪いわけではない。本当の意味は少し違うと言いたいだけだ。

自分が初心者のころのみっともなさを忘れてしまったことで、部下の指導もうまくいっていないという人が多く見受けられる。本来の意味もぜひ覚えていただきたいと思う次第である。

 

■ やってきたことを無駄にするな

次に行こう。

「時々」とは、「修業の各段階ごと」の意味だ。

人間新しいことを始めると、昔のことを忘れがちになる。

しかし、それでは現在やっていることしかできないということになる。

修業の各段階ごとで、どういう初心を持っていたのかを思い出せば、自分が経験してきた段階のすべてが、自分のできることということになる(能でいえば芸風が広くなる)。

転職を繰り返してきた人なら、その時々の初心を思い出すことで、すべての転職経験が血と肉になるということである。

同じ会社にずっといる人も、節目がたくさんあったはず。その節目ごとに何を感じていたかを思い出せということだ。

これも、今やっている仕事の初心を大事にする人は多いが、節目ごとの初心を思い出すという人は少ないのではなかろうか。

 

■ 完成のための準備をせよ

最後の「老後」は、多くの人が実感としては分からないだろう。僕も同じだ。ただ、意味は何となくわかる。

世阿弥は、40歳から「老後」の準備をせよという。

40歳を超えたら、芸を徐々に抑制せよという。そして、50歳を超えたら、しないということを方針にせよという。華麗な時代の名残りだけを見せよというのだ。

現在の感覚でいえば、それぞれ60歳と75歳ぐらいに該当するように思われる。

いずれにしろ、ある年齢を超えたら完成の準備を始めるべきだということだ。

そして、そのときの境地は、過去になかったものであり、当然ながらそこにも初心がある――そのことを忘れるな、というのが世阿弥の教えなのである。

「老害」という言葉がある。そのように言われる人は、おそらく「老後の初心」ということを知らないのであろう。

 

■ 地に足がついていない人には

地に足がついているなあと感じる人がいる。そのような人は、この3つの初心の概念を知らなくても、自然にそれぞれを大切にしているのだろう。

僕のような、ブレまくりながら生きてきた人間には耳の痛い話だ。

しかし、僕と同じような人でもあきらめる必要はない。ブレまくりながらも、節目・節目には初心があったはずだ。それを思い出して整理し、これからの自分の完成を目指していけばいい。

そして、それはいくつになっても可能なはずだ。

 

※当初「3つの初心があることを知っていましたか?」というタイトルで書いたが、【日本の古典に学ぶ】という形でシリーズ化することにしたので、改題しました。

追記

記事に共感した方は、ぜひ下記のサイトにもお立ち寄りください。

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