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東電の仕事と三角スケール

東電の仕事と三角スケール

郷 好文

株式会社ことば代表“ことばのデザイナー”。Business Media 誠「うふふマーケティング」を連載中。生活者と商品の真ん中にある“やんごとなきこと”をえぐって、ことばのギフトを贈ります。

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実は、というほどのことはないが、私の父は東電に勤めていた。

専門学校上がりで、送電の現場で"勤め上げ"技術者だった。橋の設計やダムの設計者として働き、現場管理から現場所長を務めた。関東一円の発電・送電事業所に単身赴任で、二週に一度しか帰って来なかった。

現場の管理職としてそこそこしっかりしていたらしく、中元歳暮の付け届けはよく来たし、定年退職後は割と大きな関連会社(上場企業)に天下りもできた。だが生前、東電について時々ボヤいていたな。

東電本社の組織は「机の並び方が変」だと。机の位置が微妙に前後したり、奇妙な角度が付いているという。なぜか。部長や課長に"付け"や"補佐"や"待遇"など、部下無し管理職ばかりで、それでも偉い順に、奥から、たった何センチずつズラして、机が並んでいたという。

「省エネも嘘」と苦言を呈した。本社にはエレベーターが真ん中にどーんで、階段はどこにあるんだ?状態。隅っこの階段をみんな使わない。それで省エネなんて消費者に言えるかと。

昔のことだから、今どきは違っているだろうけど。そういえば父は、不肖の息子を差し置き、何人かの"就職の口利き"もしていた。ぼくは凡才だし器じゃなかったから、どうこうはない。それにこの会社は「東大か慶応か」と言われていた。今も会長は東大、社長は慶応である。副社長は慶応、早稲田、東大、なぜか福島大学がひとりいる。平取も慶応・東大が目立つ(参考ブログ)。学閥の弊害は無いとは言えないだろう。

ビジネスメディア誠連載のちきりんさんと城繁幸さんの『大企業の正社員、3割は会社を辞める』は面白い。こんなくだりがあった。

城:今年の東京電力の新入社員で、就職を辞退した人はわずか1人。我慢強い人を採用しているのか、他社に就職する気力のない人を採用しているのか――どちらかでしょうね(笑)。

ちきりん:ハハハ。あれだけの大事故を起こしていますが、それでも東京電力に就職する方が"得"だと思っているのかもしれない。(引用元


想像半分に言えば、みんなエリートかコネのどちらかだから、辞退はできない。彼らが5年後10年後に転職しているかどうか。城さんが言うように、収入は伸びなければエリート組は転職だろう。でも留まって会社を改革する人も出てくると思う。

いつの間にか東電は「電気を作ること」が自分の仕事になってしまった。それは仕事の本質ではない。東電は1951年の創業以来、日本を復興させ、成長させるのが仕事であった。本質を忘れ、電気を作り、地元対策をするのが仕事になり、災害対策に油断が生じた。

東電にはもう一度「日本を復興させ、成長させる仕事」を仕事にしてもらいたい。

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最後に。亡父の机に製図用の"三角スケール"があった。縮尺図面から距離を測るものだ。もらったはずなに、いつの間にかどこかにいってしまった(画像はWkiより)。デジタル時代の今、どこか初心に帰る雰囲気が宿っている。

東電だけでなく、ぼくらみんなが、心の中に三角スケールを持ちたい。