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ぼくの2011年の漢字は「イチ」

ぼくの2011年の漢字は「イチ」

郷 好文

株式会社ことば代表“ことばのデザイナー”。Business Media 誠「うふふマーケティング」を連載中。生活者と商品の真ん中にある“やんごとなきこと”をえぐって、ことばのギフトを贈ります。

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"今年の漢字は"絆"。選定理由は「災害でつないだ一番大切なもの」だから。

日本国内では、東日本大震災や台風による大雨被害、海外では、ニュージーランド地震、タイ洪水などが発生。大規模な災害の経験から家族や仲間など身近でかけがえのない人との「絆」をあらためて知る。引用元=日本漢字能力検定協会

たしかに"絆"が選ばれて当然だと思う。東日本大震災のとき、身近な人びともつながった。見知らぬ人ともツィッターでつながった。テレビの悲惨な映像で日本がつながった。災害後の数週間、絆を感じた。

だが絆って「強い」ものだろうか?

言葉としての意味は「紐と紐が解けてしまうのをつなぎとめる」である。災害という非常事態をきっかけに、今まで解けていた人と人が(特に東日本では)つながれた。バラバラだったんだよな、でも結ばれたよな、というものなのだ。結び目をつくるというくらいだから、元は二本の紐と紐のようにバラバラなものなのだ。さらに災害から9ヶ月が経ち、記憶が風化し、あるいはフタをするうちに、絆は紐になりつつあるように思うのだ。

良い言葉なのだが、どこか儚い。強さが無いと思う。

かく言うぼくも、今年の漢字を考える原点は大震災である。あの体験を機に考えだしたことがある。始めたこともあれば、始まったこともある。知人の輪も仕事も広がったな。そこで「う〜ん」と今年にふさわしい漢字を考えた。

ぼくの今年の漢字はこれだ。「一」。漢数字のいちである。

one.png
選定理由は「3.11」の並んだイチであり、津波や放射能汚染で暮らしが破壊され、一から出直さないとならない人びとのイチであり、日本があの数週間だけでもひとつになったイチからである。

奇しくも2012年にデビューするサッカー日本代表の新ユニフォームは「結束の一本線」が入っている。苦境に負けない一本線という説明があった。デザインはまるでジャージだと思ったけれど(笑)、イチを入れるのは悪くない。強さ、結束を感じる。


さらに漢字のイチを90度傾けると「I」、英語の大文字のアイになる。大震災の後、自分にとって何が一番たいせつなのか?自然な生き方ってなんだろう?ありのままの自分って誰だろう?と考えた。

そうしたら肩のチカラがすっと抜けた。今までがむしゃらにやろうとしていたことが、霞んで見えてきた。キミにできること、やりたいことってこれだろ?と言われるみたいに、すっと身体に入ってきた。ナチュラルにやろうよ。ぼくの心の中での、人と人との関係が良くなってきた。だからつながりもできて、仕事が広がってきた。

ぼくにとってイチは3.11の年の漢字にふさわしい。

だけど今、被災地では仮設住宅や借り上げ住宅に個別に居住する避難者が、英数字のアイのように孤立している。自殺者も多いという。アイをもう一度90度傾けてイチの位置にして、イチとイチをつなげることができないだろうか。