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「グレイッシュとモモ」を見てきた

「グレイッシュとモモ」を見てきた

横山 哲也

グローバル ナレッジ ネットワーク株式会社で、Windows ServerなどのIT技術者向けトレーニングを担当。Windows Serverのすべてのバージョンを経験。趣味は写真(猫とライブ)。

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縁あって、激弾BKYU(げきだんビーキュー)の「グレイッシュとモモ」というお芝居を観てきた。勘のいい人はお分かりだと思うが、ミヒャエル・エンデの「モモ」をベースにした作品だ。「グレイッシュ」は、モモに登場する時間泥棒「灰色の男」のことである。

 

●原作者?

この話を聞いたときの私の反応は「よく原作者が許可しましたね」だった。答えは「だから原作じゃないんですよ、原案」だった。

MOMO
▲確かに「原案」となっている

 

エンデは既に亡くなっているが、きっと作品を管理している人がいるはずだ。そして、エンデは「はてしない物語」の前半を映画化した「ネバーエンディングストーリー」に対して、内容の問題で訴訟を起こした。確かに「ネバーエンディングストーリー」のエンディングは作品全体の主張を台無しにしており、映画館でみたときは呆然とした。

結局エンデは敗訴したが、「ネバーエンディングストーリー」のクレジットから「原作者」を外すことで合意したそうだ。

その後制作された「ネバーエンディングストーリー2」は、原作と少し違うものの、原作にあった雰囲気は活かされており、エンデも大きな文句は言っていないらしい。

 

●「モモ」をベースにした作品

私が見聞きした「モモ」をベースにした作品は2つある。1つはラジオドラマで、もう1つは映画である。

ラジオドラマはほぼ原作通りだが、時間的な制約もあり話は少し変えてあったように思う。また、ちょっとしたジョークが仕込んであった。たとえば、マイスターホラが冗談を言ったあと「本当ですか」と聞かれ「いえ、ホラです」と答えるような具合である。そんなギャグはいらないと思うのだが。

映画の「モモ」は、「ネバーエンディングストーリー」の経験からエンデがさまざまな注文を付け、結果として原作通りの作品となった。あまりに原作に忠実なので、原作を読めば映画を見る必要はないくらいである。

 

●「モモ」のストーリー

みんながのんびり暮らす町に、灰色の男がやってくる。彼らは「今ある時間を時間貯蓄銀行に預ければ、あとで楽ができる」と説いて回る。実際には、預けられた時間は灰色の男たちの命になり、返されることはない。時間銀行に預けた人は、常に時間を節約しようと、何かに追い立てられるようになり、ゆとりをなくし、心がすさんでいく。

ホームレスの少女モモは、カメ(カシオペイア)に連れられて時間を司る「マイスターホラ」の元へ向かい、灰色の男から時間を取り戻す方法を授かる。

英語では(たぶんエンデの母語であるドイツ語でも)、節約と預金が同じ単語「save」で示すことから生まれたストーリーなのだろう。

 

●「グレイッシュとモモ」

モモと言えば、時間泥棒が生涯に使う時間の計算をして、今の生活に必要な時間と、残された時間の差し引きゼロになるシーンである。実は当たり前の話だが、妙な説得力のあるシーンで、モモ最大の見せ場である。

「グレイッシュとモモ」では、横断幕に数字が次々と登場し、役者さんたちがすべてを暗記していたのが素晴らしかった。

また、「モモ」にはコミカルな部分も多い。たとえばガイドのジジは、観光客にこんな話をしていた。

円形劇場は、地球を丸ごと積み上げたものなので、実は上下が逆

円形劇場

「グレイッシュとモモ」のジジはガイドではないが、お話を次々に作る。ただし、円形劇場の話がなかったのは残念だ。

ラジオドラマではおやじギャグを飛ばしたマイスターホラは、「グレイッシュとモモ」では派手な衣装だったので(「みごろ! たべごろ! 笑いごろ!」のベンジャミン伊東をもっと派手にした衣装と言えば、40代以上の人はお分かりいただけるだろうか)、ギャグのひとつも言うのかと思ったらそれはなし。そこは残念だった。

今回のお芝居で、圧倒的な存在感を放っていたのが、おかまの亀(おかめ)。「モモ」では「カシオペイア」というお姫様と同じ名前なのに、おかまである。どれくらい圧倒的だったかというと、カーテンコールでモモ役の人に花束を渡すはずの子供が、ついつい引き寄せられて亀に渡してしまうくらいである。

「ちょっとだけ先を見通す力」に言及しながら、それが活かせなかったのは残念だが、ホラへの道案内が省略されたので仕方ない(「モモ」では追っ手を避けるために30分先の予知能力を使う)。

もちろん新しい演出も多くあった(「原案」なので当然である)。最後に、グレイッシュと戦うシーンでは、「花いちもんめ」や「だるまさんが転んだ」などの伝承遊びが披露される。子供の頃にあった自由な時間の象徴であろう。

この戦いが実に楽しそうで、人間の時間とグレイッシュの命をかけた戦いとはとても思えない。最後はもちろんモモが勝ち、グレイッシュは消滅するのだが、消滅したのだか単にこの場から去っただけか分からないような最後だった。

 

●教訓

大抵の人が「忙しい」と言う。一体何が忙しいのか改めて考えてみたい。きっと時間泥棒に盗まれているに違いない。

時間は誰にでも同じように与えられる数少ない資源である。効率よく使いたいものだが、その前に何のための効率かを考えたい。自分が楽しいと思い、他人を楽しませることが人間の生きる意味なのだから、誰にとっても楽しくないのならやめた方がいい。

命とは自分が持っている時間

だという。グレイッシュの命が時間でできているのは、偶然ではないだろう。

「グレイッシュとモモ」では、薄くなった髪を毎日30分も鏡で見続けることが「無駄」と指摘されるが、自分を見つめる時間は無駄ではない。私が一時期フリーセルに凝っていた時間はかなり無駄だったと思うが、その時は息抜きに必要だったかもしれない。いや、冷静に考えるとやっぱり無駄だったか。

「モモ」は時間に追われる生活を否定するが、無駄に過ごしていいというわけではないだろう。時間に追われることなく、余裕を持ちながら、大切に時間を使いたい。時間は命なのだから。

 

●「グレイッシュとモモ」アニメ化

この作品がアニメ化されるそうである。と言っても、まだスポンサーを探してる段階のようだ。アニメ制作には大きな費用がかかる。実写映画なら、安い役者を使うこともできるが、アニメーターの労働単価は既に十分安い。また、プロモーションにはもっとお金がかかる。

全国公開を目指しているようなので、スポンサー希望の方はぜひ制作会社のスタジオリマップにコンタクトして欲しい。

公式Webサイトによると、スタジオリマップの生い立ちはかなり変わっている。

電力会社の建設現場で働いていた輩が夢を追いかけ、なぜか内装業の「ソーケングループ」に入社、会議で突然「映画を作ろう!」と発言。
全スタッフ困惑の中、有吉代表の、アニメ好きという隙につけ込み、スタジオリマップを発足させた男がYORIYASUである。

わけが分からないが、前作「嫌われ者のラス」も面白かったので、新作にも期待している。なお、「嫌われ者のラス」については、以前別のブログで紹介したので、よかったら読んでいただきたい(「したいこと」より「できること」)。

 

●おまけ: 小泉今日子とミヒャエル・エンデ

テレビ番組「ザ・ベストテン」で、小泉今日子が「モモが好き」と言ったら、翌週には大学生協に大量に入荷され、そして売り切れた。映画化されたわけでもない児童文学が大学生協でこれほど売れたことは、後にも先にもないのではないだろうか。

また、小泉今日子は「連れてってファンタァジェン」というタイトルのオリジナルビデオ作品を出した。「ファンタァジェン」は、「はてしない物語」に登場する架空の国である。ストーリーは「はてしない物語」とは無関係だが、ファンタァジェンの雰囲気は良く出ていた。

オープニング映像がYouTubeに上がっている。