この号が発売されたのは、2013年12月25日。その日は、マンガHONZキュレーター募集の締切日でした。今回わたしはHONZキュレーターに応募し、結果落選しましたが、その際、わたしがお勧めのマンガとして選んだのは、つげ義春の「ねじ式」でした。

「ねじ式」はとても暗い漫画です。芸術新潮の表紙にあるのはまさに「ねじ式」のワンカットなのですが、この絵に見られるように、戦争を思わせるような飛行機が頭上を飛び、描かれる街中もどこの貧民街かと思うような暗い街。まっとうな人は誰一人として出てこない、人の心の暗闇のようなくらーいくらーい漫画なのですが、だからこそ、いまの時代にいいんじゃないかと思ったんですよね。

Facebookなどができて、世の中は「いいね！」ということが多くなっています。Facebook以前には2ちゃんねるが人を叩くことが多かったと思います。そういうことで、Facebookのようにプラスに評価するようなシステムってとっても良いには良いのですが、人間の感情はもっと複雑なものだと思います。

人間は、悪いことだと知っていても、人を恨んでしまったり、嫉妬してしまったり、そんな自分を嫌だと思いながら悩むような...人に言えないような感情をいっぱい抱く生き物。でもだからこそ、誰かが表現をしてくれた時に共感できる。つげ義春の「ねじ式」は気持ち悪い表現で満たされているんだけれど、「そうねー。こういう気持ち悪い夢、見ないことはないな」なんて思わせられる。（実際のところ、つげ義春が、見た夢を描いた漫画なのです）

こんな風に書くと、いかにも つげ義春が好きであるように思われるかもしれないが、好きな作品も嫌いな作品もある。女性として不快な作品も正直ある。でも、つげ義春は、お金にも困りいろいろな作品を試しに描いていたのだろうと思われます。極端に男性目線な作品も見受けられるし、時代モノもある。いろいろな方向を模索していたことは全集をパラパラ見るだけでも理解することができます。

<つげ義春全集は全8巻＋別巻1冊>
ねじ式は第6巻にあります。