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トヨタマンが見たら驚愕する書店マン アナタは何マン?
アラキングのビジネス書
トヨタマンが見たら驚愕する書店マン アナタは何マン?
ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。
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「それは秘書のやったことで・・・」。悪事が発覚した時の、政治家の常套句である。この言い訳がもはや国民に通用しないことを重々承知のうえでの、大胆かつ笑える発言である。「政界の常識なんて世間には通用しないよ」と多くの人は苦笑するが、実は笑ってばかりもいられない。日本経済のいたるところに、そんな【業界のヒジョーシキ】がまかり通っているのだ。
他業界から見れば明らかにヒジョーシキな【業界の常識】
金融業界、マスコミ業界、食品業界、IT業界、不動産業界・・・ビジネスマンは必ず、どこかの業界に属していることになる。順調に社内でキャリアを積み重ね、あるいは同一の業界で転職を重ねていけば、その人は業界におけるスペシャリストに近づいていくことだろう。しかし、気をつけねばならないことが、ひとつある。知らず知らずのうちに<自分が働く業界のルール=常識>と思い込んでしまうことだ。
私は長年にわたり全国展開する書店チェーンの経営企画室向けに「マーケティングレポートの執筆」「売り筋を作るための情報提供」「MDのプランニング」といったマーケティング的業務を行ってきた。それまで消費者として何気なく通っていた書店だったが、一歩踏み込んでみると、業界特有の? 不思議な慣習=常識に大変驚かされることといったら、そりゃあ、もうない。
何と無駄なコトを! 何か良い方法あるはずでしょ?
書店業界の【ヒジョーシキな常識】のひとつが「返本率」である。返本率とは、一度書店に納入された書籍・雑誌が版元へ返される割合であり、その数字は何と40%にも達する! ん? え! 40%おお?! 冗談でしょ? 10冊に4冊の割合で返品される<異常事態>は古くから業界内では問題視されているのだが、いっこうに改善の兆しは見えてこないという。冗談ではなかった・・・。書店には毎日、山のような段ボール箱が届く。中身は書籍・雑誌。それらを店頭に並べる作業だけでも大変だが、同時に返品する本を箱詰めしていく日々。4割という返本率。それはまるで、穴のあいた船の水を手でかき出しているように思える。
さて40%という恐ろしい数字は販売機会のロスだけでは済まない。返品にかかる物流経費、労務コスト、大量破棄による環境への負荷などは莫大なものとなり、非効率このうえない事態であることは、他業界のビジネスマンならすぐに理解できよう。というか小学生でも分かる理論。まったく理解できぬ常識である。書店業界って・・・何?
「努力はしているんだけど、なかなか改善しないんだよね・・・」
しかし、書店の現場はイマイチ危機感に乏しいようだ。徹底したコスト管理で名をはせた「トヨタのカンバン方式」が自動車業界の常識なら、返本率40%もまた【書店業界の常識】なのだ。この事実を知ったトヨタマンはきっと呆れることだろう、天を仰ぎ見ることだろう。しかし、これがリアルな書店業界。まったく【ヒジョーシキな常識】が存在するのだ。
「電子書籍元年」と言われる今年、やけに書店・出版業界が騒がしい。やがて消費者は紙の本を買わなくなるのでは? と出版社は戦々恐々としている。実際、ビジネスセンスに溢れる一部の有名作家たちは、出版社を通さない新しいビジネスモデルの構築に動き始めている。一方、本を販売する書店では売り場そのものが不要になるのでは? との悲観論がちらほら聞こえてくる。どちらもレゾンデートルが危うい状況なのだ。「本はiPadで読む」という"新たな常識"が広まろうとする今、本や書店が消えるかもという"不確実な未来"に怯えるよりも先に、目の前に横たわる大問題に腰を据えて取り組んだ方が・・・
「売ることにリスクを負わない」書店のリスク
ここでは高い返本率の問題は詳らかにはしない。本という商品は基本的に「出版社⇒取次⇒書店」という流れで流通しており、このサイクルに隘路が存在するという事実にとどめておく。
さて、本という商品は日本においては特殊な商品である。「再販制」なるシバリによる定価販売のため、みなさん御存じの通り、どこの書店でも同じ本は同一の値段で販売されている。そして、書店は売れ残った本を返品してよいことになっている。コンビニ弁当のように自ら破棄する必要がなく、負債になることもない。一見便利なシステムは、しかし裏を返せばとんでもないことになる。
「売れなければ返しちゃおう・・・」が書店の常識となってしまった。これは何を意味するのか? まず【仕入れの精度】が低くなる。疎かになる。ベストセラーのような"売れ筋商品"=アンパイばかりを店頭に並べ、とりあえず売上をたてることに関心が向いてしまう。書店とは本来、文化を発信すべき場、訪れる消費者に"楽しみと発見"を提供すべき役割を担うべきなのだが、残念ながらこうした機能が発揮されないこととなる。
売れ筋至上主義が沁みついてしまうとどうなるのか? 【売り筋を消費者に訴求する】という業界文化が育たなかった・・・。ちなみに「売れ筋」とは、売れるであろう人気商品で、「売り筋」とは、その企業なり店が本当に売りたいというこだわりの商品の意。オススメ商品であり、他店との差別化となるツール。書店員は本のプロである。押しつけでも何でもよいから「これ素晴らしいので読んでみてください!」というその書店ならではのウリ、オシ、メッセージ・・・言いかえれば「トレンド発信機能」が欲しいのだが、それがない。POPがあるじゃんねえと、考える方もいるが、そういう表層的な話ではない。個性的な品揃えで有名な幾つかの書店を除けば、どこの書店の面構え(=品揃え)はそう大きくは変わらない。書店ってどこも同じよネ・・・と消費者が考えるのはごく自然のことと言える。
個別企業の総体が、業界を形成する
以上のように、簡単に返品できるシステムは返本率の数字を押し上げるばかりか<書店の販売力・想像力>をも奪ってしまっていることになる。私はこの「人材能力のロス」の方が恐ろしいことだと思う。どこの書店も同じような状況なら、ヒジョーシキな常識は"業界全体を弱らせている"ことにほかならない。'90年代半ば以降、書籍・雑誌の売り上げは右肩下がりを続けており、その理由として人口減少やネットの台頭など"社会的要因"が挙げられるが、本当だろうか? 単一の企業でなくマーケットそのものが縮小している場合、その業界の内部に理由があると考える方が正しいビジネス判断である。どこの業界にもある【ヒジョーシキな常識】を。
【ヒジョーシキな業界】で、常識的にモノを売るには?
私の使命は書店を訪れる消費者に<いかについで買いをさせるか>ということ。つまりは客単価を上げること。本が売れない時代に、本を売るという戦略を考えること。「高い返本率」「再販制」という業界特有のシバリのなか、何ができるのか? そのヒントは書店業界にはない。コンペティターを見ても仕方ないから、普通なら最初にやるであろう業界研究もしない。だって、同じジョーシキでビジネスをしているわけだから、意味がないし~。
私がとった戦略は、常識的な他業界に活路を見出すことだった・・・。
こう書いていると何だか私は"書店業界が嫌い"に見えるかもしれない。でも逆。私は業界に"愛"がある。書店という業態に"愛"がある。ちなみに今は書店業界の仕事はしていない。それゆえに、もうちょっとイジれば良くなるのに・・・と、思わずにはいられないのだ。iPadが来てる今、人口が減ってる今だからこそ、チャンスと思うのだ。
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