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入学直後に「就職は3秒で決まる。」を読んで、あとの4年間は遊んで過ごせばいい
アラキングのビジネス書
入学直後に「就職は3秒で決まる。」を読んで、あとの4年間は遊んで過ごせばいい
ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。
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イソップ寓話「アリとキリギリス」にはいろいろな解釈があるが、結局のところ、2つの異なる生き方を説いたお話である。アリのように計画性を持つべきか、それともキリギリスのように、その場その場で考えながら生きるべきか。
どうやら、就活の解禁時期が大学3年生の12月から3年生の3月に、面接などの選考活動は4年生の4月から4年生の8月に繰り下げられることになりそうだ。これを受けて、「留学に配慮」「学業優先」などのメリットと、「企業選びの困難化」「抜け駆け企業の登場」といったデメリットが議論を呼んでいる。
コトの本質は、本当にそんな瑣末なことだろうか? 社会システムを多少変えたところで、その当事者である企業・学生が根本的に意識を変えなければ、何も変わることはないだろう。そもそも、国が主導する計画ほどアテにならないものはない。
100年安心年金とは言うものの、〝消えた年金〟が何処へいったのかを明確に説明できる者はいない。原発問題しかり、少子化問題しかり、アリのふりをしたキリギリスというのが、社会システムの宿命である。
今回の就活解禁の時期変更で、私が恐れているのは、アリの増殖だ。学業に打ち込むどころか、むしろ3年間みっちりと、アリのごとき計画性をもって、就活の準備にいそしむ学生が増えるのではなかろうか。アテにならない計画だというのに・・・。
「何でもいいから書いてください!」から生まれた本
「就職は3秒で決まる。」を出版する契機は、ちょっと変わっていた。今から2年ほど前、私が誠ブログでぼちぼち書き始めてから、ちょうど半年が過ぎた頃だった。出版社の編集者から会いたいとの連絡があり、我が家の近所のカフェで、初めて顔を合わせた。
そこでの会話は、私がこれまで手掛けてきたビジネス、その手法や思想などにまつわる話。私はその時点でブログを40本ほど書いており、それらをベースに世間話をしていたのだが、30分ほどしたところで、編集者がおもむろに本題を切り出した。
「ところで、どんな本が書けますか?」
「何でも書けますけど」
「じゃあ、何でもいいので書いてください!」
「いいですよ」
何ともアバウトなオファーだった。ただし、そこで断りを入れなければならなかった。というのも、私はまだ1冊も本を出版していなかったが、その時点で4社から出版オファーがきていた。すでに1冊目の執筆を開始しており、2冊目の企画も話が進んでいるという状況。なので、ちょっと待ってもらうことにして、これ以降、編集者とたまに酒を飲みながら、出版テーマの打ち合わせを重ねていくことになった。
予定は計画通りに進まないもので、1冊目がとにかく難産だった。初めての出版ということで筆がなかなか進まず、気が狂いそうになりながら書き続けた結果、8月脱稿予定が10月になり、年末になり、ようやく書き終えたのは翌年の1月。
私のスケジュールが大幅に狂ったことにより、2冊目として発売が決定していたマーケティング本の企画は、ペンディングとなった。そこで編集者はこの幻のマーケ本に興味を示したが、ペンディングなので出版するわけにはいかない。
「じゃあ、就活本はどうですかね?」
1冊目の執筆ゴールが見えてきたある日、酒を飲みながら、私はふと思いついた。思いついたといっても、何かを突然に閃いたのではなく、ようやく次のコトを考える余裕ができた、という感じだった。それまでの半年間はどっぷりと1冊目に没頭しており、夏の想い出も秋の記憶もまったくなく、気づいたら冬になっていた。
これほど集中したのは、大学受験のとき以来か。後から奥さんに当時の様子を聞くと、我が家のイヌたちは、いつも殺気立ってブツブツ独り言をつぶやく私を気持ち悪がり、避けていたそうだ。
「就活って、ボクがした十数年前と今とで、ちっとも変ってないんですよ。はっきり言って、クソです」
・・・クソみたいな就活。社会への入り口がクソならば、当然のように、その延長としてクソみたいな社会がある。判断が遅過ぎる経営者。常識を疑わない部長。守りに入る30代の若手たち・・・。一人ひとりは優秀で魅力的なビジネスマンなのに、いざ組織人となると、とたんに弱気が顔をのぞかせる人が、なんと多いことだろう。
さまざまな企画を提案するコンサルタントの私にとっては、こうした状況が歯がゆくて仕方がない。と同時に、彼らを説得・打破できなければ、私もまたクソ同然なのである。
やはり、日本を変えるには、社会への入り口、つまりは就活スタイルを変えるのが先決か。
何でもいいから書いてください。その答えが、就活だった。
どのあたりの就活生を狙う?
本のタイトルはあっさり決まった。誠ブログに数回書いた「就職は3秒で決まる」を編集者が気に入っており、そのまま採用。ただ何となく、モーニング娘。の最後につく余計な「。」を入れたくなり、これを付け足すことにした。
さて、ざっと50万人はいる就活生のどの層を狙うか・・・。まずはターゲットの選定に入った。編集者はなるべく大勢の人に読んでもらいたいと主張し、それはごくごく当然の発想だが、一口に就活生といっても千差万別だ。
「大学のレベル」「都会・地方」「国立・私立」「男性・女性」など、条件が異なれば書くべき内容も変わるはず。ターゲットが漠然とすれば、誰にも響かない中途半端な就活本となってしまう。これはマーケティングとしてNG。そこでまず、女性をターゲットから除外することにした。
「女性を外すって・・・大胆過ぎませんか?」
編集者が難色を示した。いきなり50万からターゲットを半分に絞ったのだから。でも、これまでの就活にまつわる取材で感じてきたのは、結局は、就活システムは男性主義がベースにあるという点。現に、いまだに面接官の多くは男性である。人事部の上層部を占めるのも、たいてい男性。経営者も男性が圧倒的に多い。
となると、ヘンに女性を意識した作りにすること自体が不自然となるだろう。たとえば、男子学生と女子学生の面接は何が異なるのか? そうした点に触れるのは、就活の現実から離れていくことになる。それに、よく知らないことは書きようがない。そんな理由から、女性をターゲットから除外した。
そもそも、ハウツー本にするつもりはなく、学生=若者の精神を鍛える普遍的な内容にするつもりだったため、男性を念頭にして書いても、結果として女性にも通用するだろうという思惑もあった。
次に、大学レベルでターゲットの絞り込みをかけた。それは、最上位を除外する、つまり、東大・京大などのトップレベル大学だ。本書ではこの一群を「就活エリート」を名付けたが、彼らは就活において十分なアドバンテージを得ているため、放っておいても勝手に就職が決まるだろうから、ターゲットに据える必要性があまり感じられなかった。加えて、彼らは就活に元々熱心なため、私の本を読まずとも、何らかの就活本に手を出しているはず。
もし彼らをターゲットにするならば、「究極の企業研究法」「起業するための仕事選び」「マスコミ人に必要な思考術・企画術」など、かなり高度かつ将来的なストーリーでないと意味を成さないと考えた。つまり、明らかに就活本の範疇を超えてしまい、相応しくない。ということで、狙いは「エリート予備軍」「一般軍」、要は普通の学生にした。
本書の第1章「3秒で選別される学歴」では、学歴によって扱いが異なることのみを、冷静に書いた。ここでの狙いは、就活の〝残念な現実〟を就活生につきつけることであり、決して就活エリートの礼賛ではない。
あくまでも就活には見えざる壁・知られざる壁があり、そこを超えないと勝負にならない。なので、まずは壁の存在を就活生に知ってもらったうえで、「それでは、何をすべきか?」ということを、以下の第2章から綴ることにした。
書きながら、あら? これは・・・と、気づく
「荒木さん、本当に間に合いますか?」
本書が企画会議を通ったのは、確か去年の5月中旬。目次を立て、構成を練り、追加の取材もあるので、年内発売くらいのつもりでいたら、まさかの10月初旬発売。逆算すると、9月の初旬には脱稿しなければならず、編集に1ヶ月を要すると計算すると、8月初旬にはほぼ完成させておかねばならないことに。つまり、実質2ヶ月で全254ページ。
何冊も出版している手練れの作家ならいざ知らず、私はやっと2冊目という、ひよっこ。1冊目の200ページでさえ半年もかかったことは、編集者もよく知っているはず。それなのに、マジですか? と、天を仰いだ。これで昨夏に続き、今年の夏も記憶を失くし、イヌたちが遠ざかる未来が、ぼんやりと見えたのだった。
ところが、いざ書き始めると、驚くほど順調にページを重ねていった。以前なら1章を完成させるのに2ヶ月も要したが、これが10日ほどで書けるまでになっていた。これはすべて、1冊目の編集者のおかげ。
まず妥協を許さない職人気質の編集者で、言葉の選び方、ロジックの組み立て方など、ありとあらゆる文章テクニック、何よりも、ビジネス書を執筆するという〝魂〟を、授けてくれた。お金を払っても受けられない授業だ。
このとき、彼がA4の紙にまとめてメールで送ってきた「荒木の文章・ダメ出しリスト」が、いわば私の悪癖。これをデスクの前に貼り、常にそれを見ながらパソコンに向かったことで、執筆スピードが上がるとともに、悪癖を極力減らすことができたというわけだ。このダメ出しリストはすっかり黄ばんでしまったが、2年後の今でも壁に貼ってあり、毎日見るように心がけている。
さて、快調に書き進めていくのは良かったが、困ったことが生じた。就活本なのに、就活本からどんどん遠ざかっていくのだった。
通常の就活本といえば、基本的には、まさにこれから就活に臨む学生、つまり3年生に向けた内容となる。面接のテクニックだったりESの書き方だったり、即効性があって、かつヤル気がみなぎるようなもの。ところが私の場合、テクニック的なことはほとんど書いておらず、読者によっては、かえって意気消沈させるかもしれない。そんな雰囲気。
なぜなら、就活に真に必要なのはテクニックでなく、心構えであると考えているから。就活という入り口だけでなく、その先、ビジネスマンとして今のうちに知っておいてもらいたい現実や知恵にまで、踏み込んでしまっているから。
たとえば、第4章「コンサル脳で企業を探す」では、自己分析や企業分析の手法を紹介している。このタイトル通り、これは私自身のコンサルタント的な発想から編み出した手法のため、就活のみならず、世に出てからも使えるように書いた。
その結果、本気で取り組めばかなり有用な武器になるのだが、いかんせん、時間がかかる。大学3年生が就活の直前にやろうと思っても、時すでに遅し、となる。
あるいは、第6章「コンサル脳で面接を考察する」は、面接時におけるNGワードやNGな振る舞いを列挙しているが、その話の主眼は、有意義な大学生活の過ごし方にある。こちらも同じく、3年生が読んだ時点で、今頃言われてもなあ・・・となる。
大学1年生、早ければ高校2年生から読んでほしい本
先日、古い友人が我が家に遊びにきた。小学6年生の女の子を連れて。この子がかなりの読書家らしく、東野圭吾氏や村上春樹氏などの作品も普通に読めると知り、度肝を抜かれた。それらの漢字を読めるだけでなく、意味もしっかり理解できるというから、なおさら驚いた。確かに、彼女と話すと、まるで大人と会話をするようにスムーズなのだ。
まさかと思い、「ボクの就活本は読んでないよね?」とたずねると、「もう、読んじゃった。知らない世界で面白かったよ」と、小学生からお褒めの言葉を頂戴し、その場にいた大人全員が苦笑した。
無論、大学のレベルやESの書き方など、それらの言葉が持つ意味を、彼女が理解できるはずはない。それでも、私が本書に通底させた〝心構え〟であったり、若いうちに備えておくべき〝姿勢〟は、きちんと感じ取ってくれたようだった。
どの編集者も必ず口にするのは、「小学生でも分かるように書いてください」というフレーズ。要は、難しい話をいかに簡単に伝えるか、である。これはあくまでも良い文章の比喩なのだが、本当に小学生が分かるとは・・・。彼女の父親、つまり私の友人いわく、高校に入学したら改めて、本書を読ませたいそうだ。
本書のあとがきで、私はこんなことを書いた。
大学では遊びなさい。
とても大切なことなので、もう1度。
大学の4年間、精一杯遊びなさい。
往々にして、国が考えることと、企業の面接官が考えることは異なる。留学に配慮したから、短い就活? 学業に専念できるように短い就活? 私にはその意味がまったく理解できない。
留学=グローバル人材とはならないことは、まっとうなビジネスマンならば、誰でも知っている。学業=ビジネス力でないことも、同様だ。
大学に入学したら本書を読んで、まずは就活とは何か、その輪郭くらいは知っておいてほしい。もちろん、本書を鵜呑みにする必要はなく、後は、自分で考えればいい。この本こそ、クソじゃん、でもいい。買わないで、友人から借りて読んでもいい。
アリとキリギリスの選択肢こそ、若いうちに考えておきたい。就活システムが変わろうかという今だからこそ、改めて想う。
とりあえず、(完)。
(荒木News Consulting 荒木亨二)
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