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小売業トップ「イオン」の5大戦略と、ブランドプロデュース

小売業トップ「イオン」の5大戦略と、ブランドプロデュース

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

当ブログ「アラキングのビジネス書」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/arakinc/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


「スーパーはうちの冷蔵庫みたいものよ」。あっけらかんと言い放った専業主婦のコトバに、ボクはかなりの衝撃を受けた。彼女は、ほぼ毎日スーパーに通い、必要なモノはその都度購入する。このため、自宅の冷蔵庫はいつもガラガラなのだ、と言う。まさしく、スーパーは冷蔵庫。

 一方のボクにとって、スーパーは〝週末のまとめ買い〟のための場所。奥さんと共働きでともに多忙なため、どっさり買い込んだモノは、冷蔵庫にギューギューに詰め込む。そんなことから〝スーパーは冷蔵庫〟という合理的な消費行動に感心すると同時に、そのユニークな表現に、斬新さを覚えた。

振り返れば「イオン」がいた

 ところでボクは、スーパーは昔から「イオン」と決めている。歩いて5分だが、1週間分の食料をまとめ買いするとかなりの量になるので、クルマで行く。たまに買い忘れたモノがあったときは、小型スーパー「まいばすけっと」で済ませる。こちらは歩いて1分、品揃えはスーパーほど豊富ではないが、必要最低限のモノは揃っているし、コンビニよりも安いのでよく利用する。

 コンビニは徒歩5分圏内に5~6店あるが、ボクが行くのは必ず「ミニストップ」。ソフトクリームが濃厚で美味いのと、店員のオジサンの愛想がむちゃくちゃよくて、何となく通ってしまう。

 と、自分がいつも利用する店を改めて振り返ると、大型スーパーも小型スーパーもコンビニも、すべて「イオングループ」であることに気づく。先日は先日で、日比谷で観ようと思っていた映画がすでに終了しており、ネットで検索するとまだやっている映画館があったので、クルマを飛ばして向かった。そこは、またもやイオンの映画館「イオンシネマ」だった...。

「振り返ればイオンがいた」というか〝街中はイオンだらけ〟のような消費環境。もちろん、近所にはヨーカ堂もセブンイレブンもあるが、ボクは意図的にずっとイオンを利用してきた。これは偶然かと言えば、そうでもない。ビジネスコンサルタントとして、昔からイオングループに注目してきたからだ。

 ボクがコンサルタントとして独立したのは1990年代後半。バブル崩壊の波に耐え切れず、古い業界や伝統的な大企業が次々と沈み始めるかたわら、いよいよネットが勃興期を迎えつつあった。いわば日本流ビジネスの転換点であり、多くの企業が次なる針路を模索する、刺激的な時代でもあった。

「どんな業界や企業が生き残るのか」「10年先を見据えた優秀な戦略とは何か」。

 ボクはいろいろな業界のコンサルに携わりつつ、自分の仕事に関係なくても面白そうな企業だけは、その戦略や動向を定点観測することにした。なぜなら、そんな激動の時代においては、「優秀な戦略こそ企業の命運を左右する」と踏んだから。そして注目したのが、イオンだったのだ。

 注目した理由は〝カネの使い方〟にあった。イオンは、ペット・薬局・シネコンといった新しい専門店事業に矢継ぎ早に参入したり、PB事業を本格的にスタートさせたり、スーパー事業から〝脱皮〟を図るためにカネを使い始めていた。要は〝攻めの投資〟を開始したのだ。しかしその手法は、大胆なのにとても静か。一般には分かりづらい動きだった。

 ベンチャー企業のカネの使い方と比較すると、その違いが鮮明になるだろう。当時ベンチャーは〝派手な買収〟で世間を賑わせ、業容拡大を図ったもの。でも知っての通り、勢いやカネにモノを言わせた買収は、失敗に終わることも多かった。もはやその跡形すらない企業も多い。巨大な花火を打ち上げて、それで終わり。まるで戦略がなかったのだ。

 一方のイオンは、線香花火を幾つも抱え、常に火が消えぬように仕掛け続けた。もちろん、将来も生き残るために。ベンチャー企業と対比すると、伝統的な大企業の〝地味だけどスマートな戦略〟に、コンサルタントとして魅力を覚えたのだ。

 言うまでもなく、投資は難しい。ある種、ギャンブルみたいなもの。後になってみないと、成功か失敗かは誰にも分からない。だが、カネの使い方や事業の流れを追えば、企業の戦略は見えてくるもの。

 1990年代後半、イオンが展開するスーパーの名前はジャスコのままだった。多くの消費者は「ジャスコ=単なるスーパー」と思い込んでいた。今でもそう思っている人は多いのではないだろうか。しかしその裏で、この頃から、イオンは確実に将来を見据えて変わり始めていたのだ・・・。

イオンは商社みたいなもの

 2000年代に入ると、イオンは満を持したようにカネを使い始めた。しかしその手法は1990年代とは異なり、「今から攻めまっせ!」と豪快に宣言するような使いっぷり。ジャスコからイオンへの社名変更(2001年)を合図にするかのように、豹変した。ライバル会社を次々と傘下に収め、グループ会社を上場させ、さらには、銀行業など新たな事業領域にも進出した。

・・・それから10年の月日が流れた。ここで改めて現状のイオンを見つめると、もはや〝単なるスーパー〟でない事実に気づくだろう。

 イオングループは2013年で5.6兆円を稼ぎだし、2期連続で日本小売業1位を達成した。このスケール感はいかほどのものか。全国百貨店売上高が6.1兆円(2012年)なので、簡単に言えば、イオングループだけで、恐ろしいことに全国の百貨店に匹敵する売上げを誇るのだ。

 グループの中身もよくよく見ると、驚きがいっぱい。主力のスーパー事業においては、流通の雄と言われたダイエー、マルエツ、ピーコックなどを傘下に収め、全国にイオン包囲網を張り巡らせているのは、知っての通り。ただし、注目すべきはスーパー事業ばかりではない。

 例えば、エンタメ事業。ワーナー・マイカルなどを買収した結果、今や「イオンシネマ」は、スクリーン数で日本トップ。実に国内スクリーンの2割をイオンが占めているという状況だ。

 あるいは、書店・靴屋・ペットショップなどの専門店事業も強豪ぞろいだ。「未来屋書店」の店舗数は230を超え、売上高ランキングは第5位(2011年度)。専業書店であるところの文教堂(6位)や三省堂書店(10位)すら上回っているのだ。

 金融業も注目だろう。イオン銀行のほかREITも始めており、金融会社だけで9社も抱えているというから、イオングループは、もはや立派な金融会社とも言えるだろう。

 さらに知られざるところでは、手広いサービス業。誰もが名前は知っている有名企業が、実はイオングループなのだ。結婚相談紹介業の「ツヴァイ」も、家事代行業の「カジタク」もそう。また会社組織ではないが、カルチャースクールからお葬式まで手掛けており、それこそ〝ゆりかごから墓場まで〟知らずのうちに、イオンはその事業領域を拡大し続けている。

 昨今話題のスーパーによるPB事業に目を転じてみても、イオンのPB「トップバリュ」のスケール感は恐ろしいことになっている。食料品や化粧品から家電製品まで手掛けた結果、売上高は6800億円超にまで成長。これは、食品メーカー第8位の森永乳業(5700億円)をも上回る規模だ。つまり、メーカーのNBを売る立場であったはずのスーパーが、時代を経るうちに、巨大メーカーとしての存在感も確立した、という事実を物語る。

 先日、京葉線に乗ったときのこと。「どれだけデカいんだ?」という巨大モールが視界に飛び込んできた。新習志野駅から、お隣の海浜幕張駅まで、SCがずっとつながっている。それが、昨年末にイオンが新しくオープンさせた幕張新都心店。

 これを機に、イオンで朝から晩まで過ごす「イオニスト」なる造語がメディアを流れた。また、幕張新都心店のために、新しく駅を作る構想もあるというから、驚く。どうやら、イオンは街の風景すら変えようとしているようだ。

 冒頭で述べた通り、コンサルタントとして1990年代から注目してきたイオン。不況のさなか、大胆に、そして静かにカネを使い、着々と買収を続けて事業領域を拡大した結果、今の圧倒的なグループが存在するのだ。その変貌ぶりは、想像以上にすさまじい・・・。

 しかも、グループ内にはまだまだ有力企業がひしめいており、その他にも、不動産や旅行代理店など、あらゆる業界にイオンの姿を見つけることができる。と考えると、イオンはスーパーでなく〝生活密着型の商社〟と考えるのが、正しい認識だろう。

イオンの戦略に未来のヒントがある

 ボクはビジネス書の類を一切読まない。自分でビジネス書を出版するものの、他人が書いたビジネス書は参考にしないと決めている。その代わりに参考にするのは、いつも現場。

 第一線で活躍する経営者・取締役・部長といった経営に携わる人々。彼らの生の声。生の会議。生の戦略。書物ではなく、今まさに躍動しているビジネスマンにこそ、生きたヒントが隠されている。ボクは複数の雑誌で連載を持っているが、やはり雑誌の編集長なども〝時代の先読み感〟が素晴らしいので、参考にすることが多い。

 もう1つ参考にするのが、企業の戦略。強い企業には、必ずと言っていいほど、強い戦略が備わっているもの。じっくり定点観測すれば、それはすなわちビジネス書を超えるノウハウとなる。たとえ自分の業界に直接関わらずとも、である。そして、永年イオンに注目してきたボクは、当然ながら、今の強いイオンの今後にも注目している。

「アジアシフト」「大都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」。この4つが、イオンが経営計画で表明している戦略である。若いマーケットであるアジアに注力する一方、国内では、可処分所得の高い場所・年齢層に狙いを定めつつ、ネット対応を進めるというワケだ。

 実はこれ以外に、イオンの動向を眺めると、もう1つの流れが明らかとなる。それが「専門店シフト」という戦略だ。近年、スーパーで培ったノウハウを専門店として独立・分社化する動きが顕著なのだ。

 例えば、スーパー内の自転車屋を独立させた「イオンバイク」(2012年)。同じく、酒屋事業で立ち上げた「イオンリカー」(2013年)。このイオンの動きを見て「あら?」と、不思議な感覚を覚えないだろうか。

 自転車屋にしても酒屋にしても、昔はどの商店街にもあった小さな個人商店だ。そして、今はかなり減ってしまった古い業態。これら個店が廃れたのは、各地に誕生した大型スーパーが、自転車も酒も安く売ったため。言い換えれば、巨大スーパーが個店を駆逐したわけだ。

 ところが今度は、そのイオンがチェーン展開で新たに個店を復活させようというのだから、注目せずにはいられない。しかも今度は、バイイングパワーが圧倒的なイオンが手掛けるのだから、昔の個店とは異なるスタイルになることは、想像に易くない。

イオンの花屋事業をプロデュースすることに

 ボクの本業はビジネスコンサルタント。しかしこの2年ほど、コンサル業はお休みしていた。というのも、立て続けに書籍や雑誌連載のオファーが相次ぎ、その時間を確保できなかった。このためこの2年、執筆業以外のオファーは基本的に断っていた。そもそも、興味を持てない案件でないと、仕事は受けないタイプでもあり。

 執筆業がひと段落したのは昨年の夏頃。そんなおり、1件のオファーが舞い込んできた。その相手は、イオン。何というタイミング、何という相手。永年注目してきた企業だけに、ボクは俄然、乗り気になった。

「振り返ればイオンがいる」。消費者目線ではなく、コンサル目線でずっとイオンを眺めてきたのだ。当然、その眼は厳しく、大きなコトから小さなコトまで、いろいろ提案したいことがあるのだ。

 例えば、スーパーの衣料品のVMD、なかでもウィンドウディスプレー。「もう少し今の時代に相応しいコーディネートにすべき」と、思っている。一応、「Begin」「Safari」というファッション誌で連載を持つボクとしては、スーパーのコーディネートももうちょっとオシャレにして欲しい。

 無論、ファッション誌のようなオシャレさを目指す必要はない。でも、今の消費者はファストファッションからセレクトショップまで、安いモノから高額のモノまで目が肥えており、いかにも〝スーパー風のコーディネート〟では、たとえ店内に良いモノが売られていたとしても、やはり訴求力は弱まってしまうだろう。

 あるいは、イオンは様々な良い活動をやっているのだから、もっとその部分を強調した方がいいと思うのだ。まだボクが作家になる前、イオンの「幸せの黄色いレシートキャンペーン」をブログやりすぎた『チャリティー消費』には、毒が出るで取り上げた。マーケティングを強化すれば、もっと〝強力なイオン〟になるに違いないと、勝手に思っている。

 などと書くと、今やボクのクライアントであるイオンの社員に怒られるかもしれないが、せっかくの機会なのだから、遠慮せずに提案していきたいと思う。

 さて、ボクが関わることになったのは、イオンリテールの花屋事業。先に述べた「専門店シフト」の一環であり、『ルポゼ・フルール』というブランド名で、これから本格的なチェーン展開を目指す新規事業である。そのブランドプロデュースを任されることになった。

「プロデュースって何?」とよく聞かれるように、知らない人にとっては、かなり正体不明の仕事らしい。ボクはフリー、しかもいろんな業界に携わっているので、なおさらのよう。

 そこでこれから、イオンの花屋『ルポゼ・フルール』を紹介しながら、少しずつリアルなプロデュース話をブログに書いていこうと思う。

 ボクはこれから、花を売るのだ・・・。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

イオンの新しいお花屋さん『ルポゼ・フルール』

【著書】

『就職は3秒で決まる。』(主婦の友社)                                       『名刺は99枚しか残さない』(メディアファクトリー)

【雑誌連載】

『Begin』(世界文化社)~「仕事着八苦YOU!」                                 『アスキークラウド』(KADOKAWA)~「それでもボクは会社にイタいのです」               『Safari』(日之出出版)~「最後のバブルで踊ろうよ」