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オバマ本を出版した女子アナの「戦略的話術」

オバマ本を出版した女子アナの「戦略的話術」

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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 どの業界にも一風変わった人がいる。文字が本業の編集者なのにコンサルタント並みの企画力を備えていたり、普通のオバチャンかと思っていたら、電話1本で海外の有名アーティストをブッキングしてしまう、実は音楽業界のフィクサーだったり。

 異色のビジネスマンに出会うと、ボクは無性に嬉しくなる。彼ら彼女らはたいてい、常識に縛られないダイナミックな発想と、とんでもない行動力を有する。「実はワタシ、会社では煙たがられているんですよ・・・」なんて謙遜する人ほど、会社の外に出ると強いものだ。

 ボクも根本的に、常識的なビジネスが好きではない。このため、ちょっと変わったビジネスマンに出逢うと「この人は何か違うな」と本能で察知し、そんなときは相手も「この人は何かアルな・・・」と、たいてい同じような感覚を持ってくれる。

 さて、女子アナ業界にも「これで女子アナ?」と疑うほど、いい意味で変わった女性がいる。それが田中千尋氏。野生児のようにワイルドで、子供みたいにお茶目。女子アナらしい〝気取った風情〟がまったくない。ひょんなことから彼女と知り合ったのだが、ボクは会って10分ほどで自然と「千尋さんさぁ~」と親しげに呼んでしまったが、実は彼女、かなりのヤリ手なのだ。

 フリーアナウンサーとして三重県を中心にTVやラジオで活躍する傍ら、オバマ流の話術に関する書籍を出版し、テレビ朝日やフジテレビなどにもコメント出演している。一方で、ベンチャー企業の経営者であり、デジタルハリウッド大学院の客員教授も務めるなど、とにかく多方面で活躍中の女性なのだ。

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「千尋さん、アナタは何者?」

たった〝3分のシャベリ〟でクルマを売る女子アナ

「千尋さんは変わっている・・・」。そう感じたのは、決して彼女の華々しいキャリアや肩書ではない。それらは見えている部分に過ぎず、見えない部分にこそ真のビジネス力は隠れているもの。彼女の話を1つひとつ聞くうちに、彼女は単なる〝お飾り女子アナ〟でないことに気づかされた。

「昔、ラジオでクルマを売ったことがありましたよ。エヘヘ~」

 何気ない千尋さんの会話に、ボクは思わず仰天した。ラジオとは、要はシャベリだけのメディア。視聴者は実物に触れないどころか、どんなクルマなのか、その画像すら見れない。しかも、かなりの高額品。ところが千尋さんが3分シャベるだけで、ディーラーにお客がたくさん押し寄せたという。

 クルマだけではない。カニに化粧品に真珠に・・・。彼女がひとたびシャベれば、広告主が「いったい何事だ?」と驚くほどにモノが売れる。突如として人気店になった飲食店は数知れず。もはや神業というか職人芸。というか、女性版・ラジオ版のジャパネット高田社長みたい。

「エヘヘ。それよりもね・・・」

 千尋さんは笑いながら、話を先に進めようとする。どうやら自分の職人芸に気づいていないようだが、得てして突出したビジネスマンというのは、こんなものだ。驚愕すべきコトを、いつも普通にやってのける。そんな具合で〝普通に〟仕事を積み重ねていけば、当然ながら、普通のビジネスマンとはかけ離れた〝異色〟の存在となる。

 聞けば、TVやラジオ番組では千尋さん自身が企画を立て、取材をこなし、シャベリまでこなしていたという。クルマのラジオの放送原稿も、彼女が書いたそうだ。女子アナというと〝原稿を読むだけのキレイでスマートな女性〟というイメージだが、千尋さんに限っていえば、やはり普通ではなかった。

一流の女性に、一流の流儀あり

「普通に仕事をすること」

 とても当たり前のように思えることが、思いのほか難しい。ビジネスマンは日々何気なく働いているようでありながら、実は「何に気を使い」「何を大切にして」「何を目的にし」「何を成功とするか」など、つまりは〝仕事の進め方〟は人によってまったく異なる。それはメール1本、電話1本にすら表れる。

「いつも論理的な説明で、少しユーモアも織り交ぜており、本当に気持ちいい」。そんな感心するメールを送れる人は、たいてい実際の仕事ぶりも論理的で少しユーモアがあって、そして気持ちいい。

 このように、普通に仕事をするだけでも、その人なりのビジネスにおける「個性」や「魅力」は自然と滲み出てくるもの・・・。ボクはこれらを総称して〝仕事の流儀〟と呼ぶが、面白いことに『一流のビジネスマンに、一流の流儀あり』。こんな人ほど、仕事だけでなくプライベートでも、素敵な流儀をたくさん持っている。

 例えば、旨い飲み屋にやたら詳しい営業マン。仕事で全国を駆け巡るうちに、ツウな飲み屋を無数に発見した。それらはガイドブックにもグルメサイトにも載っておらず、まさしく隠れ家。でも彼は「味の分からない人はイヤだ」と、親しい取引先や友人にしかお店を紹介しない、という流儀を持つ。それを聞いて、ボクは思った。「そのこだわり方、あなたの仕事ぶりと一緒じゃん」と。

 もちろん、こうした話はグルメに限らない。衣食住から遊びまで、一流のビジネスマンは、いろんな分野において「ちょっといい情報」や「ちょっと使えるノウハウ」を持っているものだ。

「ならば、それをちょっと拝借しよう」と、ボクは思い立った。ビジネスとして。

 というのもボクは今、花屋のブランドプロデュースをしている。それは小売業トップ「イオン」が、新規ビジネスとしてチェーン展開を始めた花屋ブランド『ルポゼ・フルール』。花屋が無数にあるなかでの〝後発組〟なので、一風変わったコトをしようと考えているところなのだ。

 一般的な花屋のサイトといえば、花の商品説明やらアレンジの写真やら、「どうか花を買ってください!」という雰囲気が溢れすぎている。花屋だから当然、そういう作りになるのは仕方ない。しかし、あえて花を売りたい気持ちをグッとこらえ、「花のちょっといい情報」や「花のちょっと使えるノウハウ」など、言わば〝売上げに直接つながらない情報〟を売った方がいいのでは、と思うのだ。要は、急がば回れ。

「一流のビジネスマンに、一流の流儀あり」。これを〝女性〟に限定すると、「一流の女性に、一流の流儀あり」となるが、この流儀をさらに〝花〟に絞れば、きっとユニークな発想がいろいろ出てくるだろう。

 女性スタイリストが花を選ぶ際は、そこにファッション的なアイデアが加わるはずだから、プロの花屋の店員とはまた異なる花束ができるに違いない。あるいは女性誌の編集者なら、カリスマ女性経営者なら、女性カメラマンなら・・・。

 彼女たちの仕事の流儀や人生の流儀は、必ずや花選びにも表れるはず。そして、そんな声を集めれば『ルポゼ・フルール』ブランドの一助となるだろう。

「あ、それいいですネ。別にウチで花を売らなくても、花文化を訴求できればいいです」

 イオンの部長は、かなり太っ腹な発言をした。彼は40代前半と若いうえに、ビジネスの本質を理解している人だった。そもそもイオンは、大企業なのに大企業らしからぬ〝ベンチャー風土〟のようなものがあり、特にボクが関わる『ルポゼ・フルール』部署は、それこそ一風変わった人が多い。

 なぜかマーケティング担当者が、家具の特許や商標権を昔持っていたというユニークな経歴があったり。花屋事業とは関係ない経営企画室の人が「面白そうだからオレも混ぜて」と、ミーティングに参加したり。イオン家の人々はかなりユニークなのだ。

 そんなワケで「一流の女性に取材をし、仕事の流儀を聞きながら、花にまつわるコラム」を綴っていくことになった。その1人目として、女子アナの千尋さんを選んだのだ。

 女子アナといえば「シャベリのプロ」。TVに出演するという意味では「自分を魅せるプロ」でもある。つまり〝自分を効果的に魅せる技術〟に長けている。しかも千尋さんの場合、豪華な花が欠かせない結婚式のMCを2,000本以上も務めるという司会者目線も加わるため、やはり花に対する考え方はちょっと普通とは異なるのだった。

「いきつけの花屋」&「お気に入りの店員」を!

「花にはオーラ、品格があるのよね」

 千尋さんは結婚式の会場につくと、まずはテーブルに置かれた花や壇上の花などをチェックするという。「人間に個性があるように、花にも個性がある」。ステキな花は品格を備え、自然とオーラを放ち、会場全体を華やかに飾ってくれる。反対に、適当に選んだ花というのは会場の雰囲気もイマイチとなる。それほど花というのは、空間において重要なアイテムだそうだ。

 結婚式の場合はさておき、花にこだわる千尋さんは、贈り物としても頻繁に花を買う。こんな場合もやはり花のオーラや品格を重視するのだが、その決め手はスバリお店にある。同じ花屋でも、店によってまったく異なるという。

 いい花屋は、ウィンドウディスプレイから店全体の雰囲気から、店に入らずともその実力が〝見える〟そうだ。花を大切に扱っているか、花を知っているか。そんな想いが「花屋のオーラ」や「花屋の品格」となり、まるで花フェロモンを振りまくように、お店から漂ってくる。

「いい花屋は間違いなくしっくりきます」

 誘われるようにオーラ漂う花屋に入ると、鮮度や色合いなど、まずは商品としての花を1つひとつ確認する。次に見るのは、全体のレイアウト。花のアレンジや飾りつけにも個性は出るし、什器も重要な演出装置であり、いい花屋はすべてにセンスが感じられるもの。そして最も肝心なのが「店員」。

「店員さんのセンスによって、花束の出来上がりは全然違いますから」

 確かに、その通りだ。どんな花を組み合わせるのか。全体のイメージはシック系なのかワカイイ系なのか。仮に花が50種類もあれば、その組み合わせは無限に広がる。いい店員なら素敵な花束が生まれるが、イマイチな店員に当たってしまうとガッカリする。

 そこで千尋さんは、失敗しないためのお花選びとして、まずは「いきつけの花屋」を見つけること。さらには「お気に入りの店員」を見つけることを提案する。何度も同じ花屋へ通えば店員のセンスを知ることができ、同時に店員もまた、お客の好みを察知するようになる。すると、やがては「○○な感じでね」といった短い会話だけで、互いのイメージに近い完璧な花束が完成する、というワケだ。

 いきつけのバー、いきつけの宿なんていうのはよく耳にするが、「いきつけの花屋」というのは初めて聞いた。さすがは女子アナ、かなりオシャレかつ高度な花屋の使い方だ。

 そして面白いのが、千尋さんならではの発想。いきつけの花屋とお気に入りの店員を見つけると〝とある技〟を駆使することで、いつも花を贈った相手に喜ばれ、店員の技術はますます磨かれ、また彼女自身のイメージアップにも繋がっているという。

 〝とある技〟とは、とても些細なこと。でも聞けば「なるほど、確かに便利だ」と、唸った。こんなサービスがあれば嬉しいが、恐らく実践している花屋はあまりないだろう。これはボクの企業秘密、ブログに書いている場合ではないので、いずれ『ルポゼ・フルール』に導入したいと思う。

 ちなみに、花を注文する際は「年齢」「性別」「趣味」「ファッション」など〝贈る相手の情報〟を店員に伝えるのがポイントらしい。これにより店員は、どんな花束を作ればよいのかイメージが湧きやすくなる。逆にイメージがないと、店員も困ってしまうだろう。

 無論、細かな情報を伝える必要はない。「半分のイメージと、半分のお任せ」。ある程度のイメージが伝われば、後は、花選びのプロである店員のセンスに任せればいい。もらった相手の気持ちまで想像して贈ることが、花選びのコツらしい。

「いきなり予算を聞いてくる店員さんはちょっとネ・・・」

 と千尋さんが語るように、花束は予算ありきで作るものではない。どんな花束を贈りたいか、それがあって初めて予算が決まるというのは、頷ける理屈だ。花に限らず、いろんな贈り物に応用できる買い物ノウハウだろう。

田中千尋氏の戦略的話術

 冒頭で述べたとおり「女子アナ」「ビジネス書の著者」「経営者」「客員教授」と、様々な肩書をもつ千尋さんだが、意外なところでイオンに接点があった。彼女はイオン発祥の地である三重県出身なのだが、なんと偶然にも、三重県出身のあのイケメン議員・岡田克也氏のウグイス嬢を務めたこともあったという。

「昔は地元の人はみんな、ジャスコでなく岡田屋さんって呼んでましたよ!」

「三重県ではね、イオンが出店する場所が発展するというジンクスがあるんです」

 千尋さんは、花の話をしながらも時おり小ネタを挟んできたが、それを聞くたびにボクは「やはり女子アナの話術って見事だな」と、感心した。

 ウグイス嬢の話はあまりも意外で、ボクをかなり驚かせた。イオンが岡田屋さんと呼ばれていたエピソードは、ボクを感心させた。ジンクスの話には「なるほどね」と唸った。千尋さんは話の〝引き出し〟が実に豊富であり、しかもベストなタイミングで話題を提供したり変えたりするので、会話がスムーズに盛り上がるのだ。

 これぞ「話術の見本」である。単に話が上手い人を、話術に優れた人とは呼ばない。ホンモノの話術とは〝自分勝手な押し売り〟でなく、相手の気持ちや状況を敏感に察知しながら〝会話をコントロール〟する技術である。

 時に笑わせ、時に感心させる。シンミリさせたかと思えば、そこから一転、元気なメッセージで場の雰囲気を盛り上げる・・・。その好例が、アメリカ大統領のオバマ氏だろう。彼の演説は、会話にメリハリを持たせるからこそ、相手のココロを‶鷲掴み〟にすることができる。

 何もオバマだけではない。1分のスピーチ。10分のプレゼン。1時間の商談・・・。あるいは何気ない雑談。どんなシーンにおいても、我々にとって話術は必須のテーマ。

 3分でクルマを売る凄腕の女子アナ・千尋さんは、こんな本まで出版している。「オバマ流の話術」を分かりやすく解説しているので、興味のある方は。

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『聞き手を熱狂させる! 戦略的話術』

 そんなワケで、こんな感じで『ルポゼ・フルール』をいきつけの花屋にすべく、ボクはこれから一流の女性たちのお話をコラムにまとめていくことになった。イオンには「仕事のため」と言っているが、ホントは、単にボクが女性好きという噂も・・・。

【田中千尋プロフィール】

『オフィス ブレスユー』代表取締役

デジタルハリウッド大学院客員教授

一般財団法人NLPコーチング協会専務理事

 

(荒木News Consulting 荒木亨二)

*イオンの新規ビジネス花屋『ルポゼ・フルール』、ブランドプロデュース中

【著書】

『就職は3秒で決まる。』(主婦の友社)

『名刺は99枚しか残さない』(メディアファクトリー)

【雑誌連載】

『Begin』(世界文化社) 「仕事着八苦YOU!」

『アスキークラウド』(KADOKAWA) 「それでもボクは会社にイタいのです」

『Safari』(日之出出版) 「最後のバブルで踊ろうよ!」